「人食いバクテリア」と呼ばれる、劇症型溶血性レンサ球菌感染症(以下・STSS)の感染が急増している。国立感染症研究所の発表によると、2024年6月28日時点で、感染者数は1000人を超え過去最多になっている。

 STSSは、高熱に続き手足の壊死を引き起こすことから、「人食いバクテリア」と呼ばれる恐しい感染症だ。致死率は30%超ーー。STSSの患者の治療経験がある、感染症専門医の水野泰孝医師はこう語る。

「筋肉組織が壊れたところに溶連菌がやってきて、激しい症状を引き起こします。傷から感染するといわれていますが、傷がない場合でも起こり得ます。私がSTSSをはじめて診察したのは9歳の小児で、捻挫をしていたものの、目立った傷はありませんでした」

 この感染症の危険なところは、病状の進行がきわめて速いところだという。

「この小児のケースでは、左足首を捻挫した翌日に大きく腫れ、発熱と意識障害がある状態で受診されました。当時の上司がSTSSである可能性を示唆してくれたので、すぐに抗菌剤などによる治療と全身管理を開始したことで、なんとか救命することができました。

 STSSは30歳以上の大人に多く発症し、小児例は少ないといわれます。実際、当時はまだ認知度も低く、私が治療した小児は日本では4例めでした」(水野医師・以下同)

 STSSは、1987年に米国で初めて報告され、日本での最初の症例は1992年。水野医師がこの小児を治療したのは、1996年であり、きわめてレアなケースだったわけだ。いまでもレアな疾患であることは変わらず、その点も治療の難しさにつながっている。

「一般のクリニックでSTSSを診察した経験のある医師は、かなり少ないと思います。救急外来のある大きな病院に搬送されるようなケースがほとんどでしょう。もし、高熱と四肢の腫れがあったら、STSSを疑うことが大事ですし、もし医師が気づかないようであれば、STSSの可能性を聞いてみるのもいいかもしれません」

 そもそも、STSSから自衛する方法はあるのだろうか。

「STSS自体は、人から人に次々と感染するわけではなく、多くは単発的に起こりますので、マスクや手洗いが予防になるとは言い切れないと思います。症例の多くは外傷を契機に発症していると考えられるので、怪我をしたら傷口を消毒し、清潔を保つのは大事です。すなわち、病原体を体内に入れないことがポイントとなります。

 これほどSTSSが増えている背景は、溶連菌の大流行があったことが原因のひとつと考えられます。溶連菌自体は、小児を中心に咽頭炎を起こす感染症ですが、この流行自体を減らさないと数は減らないでしょう」

 もしもSTSSの症状が疑われる場合、いち早く病院に向かうことが大切だ。

「STSSである場合、短時間で急激に悪化する腫れや高熱、激しい痛みを感じるはずです。そのときは躊躇せずにすぐに病院にいくことが大事です」