『地球の歩き方』と『ムー』が異色のコラボ。予想以上の反響も、いったい誰が買っているのか…編集長を直撃

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多くのビジネスが行き詰まったコロナ禍。こんなビジネスもあるのかと話題になったのが、『地球の歩き方』だ。海外旅行にいけないのにガイドブックが売れるワケがない。そうした状況下で『地球の歩き方』が新たに到達したのが、蓄積されたノウハウを用いた読ませる本をつくるということだ。この路線は見事にあたり『世界の中華料理図鑑』や『ディズニーの世界』など、様々なテーマの本が、慣れ親しんだ地球の歩き方のフォーマットで刊行されている。
そのなかでも、こんな手があったかと話題になった本がある。

『地球の歩き方 ムー 異世界(パラレルワールド)の歩き方』が、それだ。この本は14万部(10刷)を超える大ヒットとなり、今年3月には日本列島の津々浦々のミステリースポットを集めた『地球の歩き方 ムーJAPAN 〜神秘の国の歩き方〜』も発売。

◆異色のコラボが生まれた経緯が気になる

『地球の歩き方』の株式会社地球の歩き方は、株式会社学研ホールディングス(東京・品川/代表取締役社長:宮原博昭)のグループ会社で、一方の『ムー』は株式会社ワン・パブリッシングが発行元。組織の垣根を超えたコラボを誰が考えついたのだろうか。

異世界とか陰謀論とか渦巻く2024年のいま、本の成り立ち、そしてオカルト界の今後を知るべく『ムー』編集部を訪ねた。

◆予想以上の反響。「14万部も売れるとは思っていなかった」

オカルトの総本山ともいうべき編集部は、どういうところなのかとワクワク感は止まらない。オフィスに一歩足を踏み入れると、そこには不思議な空気が漂っているはず。壁には謎めいたポスターが貼られ、棚には数々のオカルト関連グッズが並び、制作陣がUFOや世界の陰謀を語っているに違いない。

……まったくそんなことはなかった。ちゃんと受付には呼び出し用の電話機が並び、雑誌の最新号や近刊書籍が並んでいる。しごくまっとうな雰囲気である。

いや、むしろこっちのほうがいい。やはり大人になってからオカルトにワクワクする瞬間というのは、まったく縁のなさそうな人が突然、誰でも知っている常識であるかのように語り始める時なのだから。ちなみに、最近の筆者のワクワク体験は、アニメ業界の交流会で、久しぶりに出会った知人が「俺、(フリー)メーソン入ったよ」と話し始めた時である。

前置きはこれくらいにして、本題に入ろう。我々読者も、異色のコラボに驚きを隠せなかったが、それは、当事者である『ムー』の三上丈晴編集長も同じだ。

「予想以上の反響だったんです。14万部も売れるとは思っていませんでした。これには正直、驚きました」

◆正反対のものを組み合わせると新しい味が生まれる

このコラボの誕生秘話も面白い。

「新しい社長が就任した時、将来的に『ムー』とのコラボなんかあってもいいよね』みたいな話をしたんですよ。そうしたら『地球の歩き方』のほうも興味を示して、トントン拍子で話が進んだんです。現場としては『えっ、本当にやるの?』だったんですけど『社長同士でもう話ができてるんじゃないの?』みたいな雰囲気だったんです」

しかし、一筋縄ではいかなかった。正反対の性質を持つ2つのメディアをどうやって融合させるか、その配分こそが売れる・売れないを大きく分けるからだ。

「最初は『混ぜるな危険』みたいな雰囲気でした。でも、料理で考えてみたんです。甘いものと辛いもの、正反対のものを組み合わせると新しい味が生まれる。そんな感じでアプローチしました」

◆どこに刺さっているのかがわからない

『地球の歩き方』のページと『ムー』のページを明確に分ける構成に。その結果『地球の歩き方』ファンも違和感なく読めるし、『ムー』のファンも満足できる絶妙な本が生まれた。ちなみに、この苦労は第二弾である『ムーJAPAN』でも同様だったという。様々な情報を詰め込んだ世界編に対して、日本編は実際にいくことのできるガイドブックの要素があったためだ。そのため『地球の歩き方』編集部は、複数回にわたって台割を引き直したという。