じつは、ここ20年ほどで「海のある天体」は、次々と見つかっている…「地球外生命の発見」が、一気に現実味を増した「衝撃的な発見」

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「地球最初の生命はRNAワールドから生まれた

圧倒的人気を誇るこのシナリオには、困った問題があります。生命が存在しない原始の地球でRNAの材料が正しくつながり「完成品」となる確率は、かぎりなくゼロに近いのです。ならば、生命はなぜできたのでしょうか?

この難題を「神の仕業」とせず合理的に考えるために、著者が提唱するのが「生命起源」のセカンド・オピニオン。そのスリリングな解釈をわかりやすくまとめたのが、アストロバイオロジーの第一人者として知られる小林憲正氏の『生命と非生命のあいだ』です。本書刊行を記念して、その読みどころを、数回にわたってご紹介しています。

*本記事は、『生命と非生命のあいだ 地球で「奇跡」は起きたのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

タイタンの謎に迫る「カッシーニ・ホイヘンス計画」

前回の記事でご紹介したボイジャーによる探査の結果、土星の惑星「タイタン」の表面には、「液体のメタンの海があって、その海の中では、水の代わりにメタンを使うような生物が存在しているのではないか」という疑問と期待がふくらんでいきました。

タイタンは生命が存在しうる「ハビタブル世界」なのか?

この謎の解明を目的として、NASAと欧州宇宙機関(ESA)、さらにイタリア宇宙機関(ASI)がスクラムを組んだのが「カッシーニ・ホイヘンス計画」です。

1997年、NASAが製造した探査機「カッシーニ」が打ち上げられ、2004年に土星系に到達すると、タイタン着陸用にESAが製造した「ホイヘンス」が切り離されました。翌年1月、ホイヘンスはタイタンの大気を調べながら降下し、無事に着陸しました。

ベールを脱いだ「タイタンの素顔」

こうしてそれまで「もや」で見えなかったタイタンの表面が、初めて撮影されました(図「ホイヘンスが撮影したタイタンの地表」)。石ころのようにごろごろ転がっているのは氷のかけらで、川で流された小石のように角が取れています。また、「もや」を分析したところ、複雑な有機物であることが確認されました。

もう一つの謎、「メタンの海」の問題も解決しました。海のような大きなものはなかったのですが、タイタンを周回していたカッシーニ本体の観測により、極地方に米国の五大湖程度の大きさの湖が多数見つかり、液体メタンと液体エタンからできていることもわかりました。

ホイヘンスの写真に見られる角の取れた氷の存在も含めて考えると、タイタンではメタンやエタンが地球の水の役割を果たしているようです。このほか、クレーターも多く見られましたが、これは液体アンモニアを噴き出す「氷火山」ではないかと考えられています。氷の下にはアンモニアからなる地下海があるのではないかと推測されています。

以上のことから、水の代わりに他の溶媒を使う生命の可能性を考えるならば、液体のメタンやアンモニアが存在するタイタンもまた、「第2の生命」探査の候補地と考えられるのです。

もう一つの「重大な発見」

カッシーニはもう一つ、重大な発見をしました。

ホイヘンスを切り離したあと、土星の他の衛星たちも探査したところ、その一つ、エンケラドゥスがきわめて注目に値する天体であることがわかったのです。2005年7月の接近では、この衛星の南極の近くには虎の縞のような模様があること、そして、そのあたりから物質が噴き出していることなどがわかりました(本記事冒頭、扉の写真)。

さらに2008年に再度接近したときには、噴き出している物質の質量分析により、水、一酸化炭素、メタンなどの単純な物質のほか、有機物の存在も示されたのです(図「エンケラドゥスから噴出した物質の質量スペクトル」)。さらに、微小なシリカも検出されました。これらの分析から、エンケラドゥスの氷の下には、さまざまなものを含む水でできた海があることが確実と考えられるようになったのです。

しかも、その海底には水温100℃以上の熱水活動があることもわかりました。以前の記事*で述べたように、地球の海底熱水噴出孔は化学進化や生命誕生の場の有力候補とされています。生命の誕生には一般的に液体の水、有機物、エネルギーが必要と考えられていますが、地球以外の天体でこの3つが同時に存在することが確認されたのは、この天体のみです。

エンケラドゥスは太陽系生命探査のターゲットの最右翼といっていいでしょう。

*以前の記事:まさに、かつての常識をひっくり返した…深海底からの「驚きの報告」

そして、こうした、以前から生命の存在が期待され、探査の対象となってきたハビタブルゾーンの外側に、さらなる天体が見つかってきました。

太陽系に広がるオーシャンワールド

昔ながらのハビタブルゾーンの外側に、エウロパタイタン、そしてエンケラドゥスと、生命の存在が期待される天体が次々と見つかりました。地下まで含めれば、液体の水の存在はそれほど希有なことではないとわかってきたのです。そうした観点から調べなおすと、地下に液体の水(海)を持つ天体候補がさらに見つかってきました。

木星系では、エウロパのすぐ外側を回る衛星のガニメデにも、地下に水が存在する証拠が見つかってきました。ガニメデは磁場を持つため、オーロラが発生します。磁場の原因は、氷の下に電気伝導率が高い塩水が存在するためと考えられています。そして海の深さは100kmほどと考えられますので(地球最深のマリアナ海溝は約10km)、地球の海よりもはるかに大量の水をたたえている可能性が高いのです。

また、小惑星帯に存在するケレスからも、水蒸気を含む物質が噴き出ていることがハーシェル宇宙望遠鏡の観測から示唆されました。ケレスは2006年に冥王星が惑星から準惑星に「格下げ」になった際に、小惑星から準惑星に「出世」した天体です。

そのほか、木星の衛星のカリスト、土星の衛星のミマス、海王星の衛星のトリトン、さらに冥王星にも、地下海がある可能性が示唆されています。これら、ハビタブルゾーンの外側で地下海を持つ天体を総称して「オーシャンワールド」とよばれるようになりました。今後の太陽系生命探査は、火星とオーシャンワールドが2本柱となって進められていくでしょう。

これからのオーシャンワールド探査としては、ガニメデをターゲットにして2023年に打ち上げられた木星氷衛星探査「Jupiter Icy moons Explorer:JUICE(ジュース)計画やNASAが打ち上げを予定している「エウロパ・クリッパー計画」などがあります。

その動向については、『生命と非生命のあいだ』で取り上げましたのでご一読いただくこととして、ここでは、なぜこうした地球外の他の天体に、生命の痕跡を求めるのか、原点に立ち返ってその意義を考えてみましょう。

生命と非生命のあいだ 地球で「奇跡」は起きたのか

もしも「地球外生命」が見つかったら…原始地球で繰り広げられた「生命誕生のシナリオ」は、どう塗り替えられるのか