「夫の帰宅前に風呂を沸かし、毎日一汁三菜」共働き妻を奴隷のように扱う43歳エリートの本音

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「男女差別が浮気の原因になることは多々あります。妻の昇格や昇給に否定的な夫は多います」とは、キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さんだ。彼女は浮気調査に定評がある「リッツ横浜探偵社」の代表だ。

実際6月12日に世界経済フォーラムが発表した「ジェンダーギャップ指数ランキング」では、日本は146ヵ国中118位。女性閣僚が増えたことで2023年の125位よりやや上がったもののG7では断トツの最下位で、特に経済分野では120位だ。

ジェンダーギャップに大きく影響しているのが、「男女の賃金格差」だ。日本経済新聞が2024年6月17日報じた矢田雅子首相補佐官のインタビューでも、日本の女性賃金は男性の77.9%と、先進国で断トツに格差があることを明言している。政府が経済財政運営と改革の基本方針に「男女の賃金格差是正策」を盛り込む方向だという。

その男女の賃金格差は、当然私たちの生活にも大きく影響する。日本でシングルファーザーの貧困率は高くないが、シングルマザーの貧困率は50%以上と言われている。

大学院卒でも手取り15万円の派遣社員だった

今回山村さんのところに相談に来たのは43歳の会社員、咲絵さん(さきえ・仮名)。結婚15年になる3歳年上の夫について相談に来た。

前編「大学院卒で派遣社員だった女性が直面した男女の賃金格差。結婚した夫からの「奴隷扱い」の悲劇」では、咲絵さんが相談に来るまでの事情をお伝えした。

咲絵さんは理系の大学院を卒業後、28歳まで派遣社員として勤務していた。咲絵さんが研究していたテーマでの就職活動がうまくいかなかったのだ。そのころの手取り月給は15万円。しかし同じ仕事でも男性の派遣社員の給料が20万円であることを知り、日本の男女賃金格差に絶望、結婚する以外生活の安定は見込めないと感じる。

3歳年上の夫と出会ったのはそんな時だった。山でハイキングをしているときに怪我をした咲絵さんを救ってくれたのだ。大企業に勤務する容姿端麗な夫と結婚し、咲絵さんは寿退職する。

しかし入籍直後に夫は咲絵さんを「おまえ」と呼ぶなど、妻の立場を下に置くような発言をしていた。その直後に夫が8年間のアメリカ赴任になり、アメリカ、九州での赴任に専業主婦としてついていった。特にアメリカの駐在では、英語力を磨き、ボランティアにいそしむなど、充実していた。

しかし性的な面では不安を抱えていた。性的欲求の低い夫とはセックスレスで、夫の実家から妊娠をせかされながらも、授かるはずもなかったからだ。

5年前に夫が東京本社勤務になるタイミングで、咲絵さんは大学時代の恩師に誘われ、バイオベンチャー企業への就職試験に見事合格する。ところが夫は咲絵さんが就職することをよく思わず、軽く妨害するようなこともあった。異変を感じたのは、咲絵さんが夫のバッグの中から勃起改善薬を見つけたこと。5年近くセックスレスなのに、薬があるのはおかしい。

加えて、ぼんやりと横たわっていた「子供がいつか欲しいね」という話についても、夫は「一生おまえの子供など欲しくない」と断言。そこに浮気を確信し、山村さんに調査を依頼する。

夫が帰宅する前に風呂を沸かし、毎日一汁三菜が絶対

探偵の目から見ても、夫は絶対に浮気をしている。咲絵さんという家事を一手に引き受け、いつまでも自分を愛してくれている存在を手元に置きつつ、自分は遊びたいという自分勝手な人物だと感じました。

咲絵さんに結婚生活については細かなルールがありました。仕事をしていても、夫が家に帰るまでに帰宅して風呂を沸かしておかねばならないとのこと。夫は自由に行動し、食事を家でするかどうかの報告義務はない。しかし、咲絵さんは夫が食べるかどうかわからないまま、夕飯の支度を一汁三菜で整えなければいけないなど……。

夫はハイスペックなのに結婚していなかったのは、この男尊女卑もあると感じました。

こんなエピソードもその疑いを裏付けます。咲絵さんが大手企業の役員になった女性のインタビュー記事を読み「この人、すごいね」と何の気なしに言ったら、「こういうやつは男に取り入って、結果も出していないくせに上に上がるんだよ」と怒鳴ったそう。

咲絵さんも現在勤務しているバイオベンチャー企業から執行役員の打診をされたそうですが、夫からは「お前が役員なんかになったら会社は倒産する」と鼻で笑われます。そして実際「私なんかに務まりません」と辞退したことも話してくれました。

「会社はいつ辞めるんだ?」

調査は相談の翌日にスタート。咲絵さんは嘘をつくのが苦手なようなので、早く調査しないと夫に「探偵に相談した」などと話してしまいそうでした。そうなると調査ができなくなるだけでなく、咲絵さんに危害が及ぶ可能性もあります。夫は、男尊女卑的な思考の持ち主だけでなく、モラルハラスメント的傾向も強いです。

朝8時に咲絵さんと夫がマンションから出てきました。高級住宅街にある低層マンションで夫が購入した物件です。2人はバス停まで手を繋いで歩いており、夫婦仲は良さそうに見えます。しかし収音マイクで録音した会話を分析すると、夫は咲絵さんのニュースの分析が甘いと否定し続けていました。さらに咲絵さんの仕事を否定する発言も。「会社はいつ辞めるんだ?」とも言っています。DVはダブルバインド。優しさと厳しさが混ざり、「優しくしてくれたから、ひどい扱いは私が悪いんだ」と思わせる面もあります。

ターミナル駅まで一緒に移動し、それぞれの会社へ。夫は都心のオフィスビルに入っていき、動きはない。

18時に出てきた夫の尾行をします。新宿駅の改札前で黒のワンピースを着た女性と合流。女性はかなりほっそりした体型で、咲絵さんとは真逆でした。

2人は人気のカフェに入り、パンケーキを食べています。女性は30代半ばで会話から夫の会社でかつて派遣社員として働いていた人だと判明。

女性は既婚者で、「ダンナをマジで殺したい」などのほか、延々と夫と義両親の不満を垂れ流している。夫は「おまえがバカだから、ダンナも疲れているんだよ。女は話さない方がいい」などと話しており、会話は全く噛み合っていませんでした。

「多目的トイレ」にふたりで…

夫は女性に気づかれないように薬を飲む。そして、夫は会話途中なのに突然、席を立ち会計します。女性はいそいそと後をついていき、工事中の店舗が多いフロアにある多目的トイレにふたりで入っていきました。そこで行為に及び15分程度で解散。音声は録音したものの、なんの情感もなく、暴力的かつ無機質な性交渉に私たちも驚くと同時に、怖いとさえ思ってしまいました。

おそらく夫は誰かを支配したいだけであり、相手に対する愛情を持ち合わせていない。咲絵さんに対しても、このような態度なのではないかと心配してしまい、すぐに報告書を作成。

依頼者・咲絵さんは「やっぱり浮気をしていましたか」と泣いています。私たちが「このように、心の交流も愛情もない行為は、浮気ではないですよ。夫さんが愛しているのは咲絵さんでしょう」と言うと、「これは浮気ですよ。だって私に対しても同じようにしているから」と言っており、とても驚きました。

おそらく、夫にとってのセックスとは、コミュニケーションではなく排泄行為。咲絵さんは結婚するまで性交渉の経験がほとんどなく、「性交渉とは痛くて苦しいものであり、妊娠のために耐えるものだ」という認識があったとか。もちろん、映画や漫画などでの快楽描写には接していますが、それは美男美女だから許されるファンタジーだと思っていたとのこと。

母も父から奴隷のように扱われていた

ここでふと気になって、咲絵さんの生育環境を聞くと、官僚だった父が圧倒的な権力者であり、母や咲絵さん、妹は常に支配下に置かれて育ったそう。母は男の子を産まなかったことで、父と祖父母から怒鳴られ、奴隷のような扱いを受けていたそうです。

咲絵さんは名門大学と大学院を卒業した高学歴ですが、その理由も父への恐怖があったのです。「テストの成績が悪いと食事が抜かれるか、床で食べなくてはならないので、必死で勉強しました。妹は成績が悪かったので、父が床にぶち撒けたご飯を食べさせられたこともありました。妹とは音信不通です」

父は「女こそ学歴が必要だ」と咲絵さんの大学院進学を応援。しかし、卒業後に父の思う「まとも」な企業に就職が叶わないことがわかると、「出ていけ」と言われとか。それまでの親から束縛されていましたが、出て行ったことで自由になり薄給とはいえ毎日が楽しかったそうです。

もしやと思い夫の生育環境について聞くと、「夫には、頭に何ヵ所かハゲがあるのですが、お母さんを殴るお父さんを止めようとして振り飛ばされて机の角にぶつけた、と言っていました」とケロリとした顔で語っていました。また夫は父に殴られ救急搬送された経験が一度や二度ではないそうです。

つまり、夫と咲絵さんには「虐待を生き残ったもの同士」という共通点があったのです。だから「子供を望んでいる」とはいえ、本格的な不妊治療に踏み切らなかったのかもしれません。

「ふたりで生きていくことに決めました」

浮気の証拠は押さえましたが、咲絵さんは離婚したくないと言って帰りました。

その後、咲絵さんが夫にこの報告書を見せたところ、自死につながるような行動を衝動的に行います。ただ、幸い軽傷ですみ、そのあと二人でカウンセラーの門を叩いたそうです。それにより、夫は自分と向き合うことに覚悟を決めたのです。

咲絵さんは「私たち自身が子供みたいなものなので、子供は諦めて、ふたりで心の傷を癒し合って生きていくことに決めました」と話していました。

価値観を変えるには、かなりの時間がかかります。調査後、夫との生活は落ち着いているようで、穏やかな生活が続いていると言っていました。日本は少子高齢化も問題視されていますが、まずは親になる当事者の心の安定を確保しなくてはならない。

家庭に暴力が蔓延していると、それが「当たり前」になってしまう。男女格差を当然と思って育っていると、それも影響する。悲しみの再生産がされないように、教育や行政からのサポートが必要なのではないかと感じてしまいました。

夫は愛されること、愛することのやり方を知らなかったのでしょう。山でケガをした咲絵さんを助けてくれたその姿も、夫本人なのです。虐待をしてしまう親の中で、かつて虐待された経験のある人のケアは、まずかつての自分の辛さに向き合うことが重要だと言います。夫にもそのケアが必要だったのです。

咲絵さんに出会えたことは、夫が苦しかった幼少期からの自分に向き合い、そのつらさを理解する大きな機会になりました。二人は今後支え合い、本当の信頼関係を結べるはずです。

調査料金は10万円(経費別)です。

大学院卒で派遣社員だった女性が直面した男女の賃金格差。結婚した夫からの「奴隷扱い」の悲劇