喜友名智子氏のX(@KiyunaTomoko)より

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2024年6月7日に告示された沖縄県議選(定数48、16日投開票)で、Xに投稿された動画が波紋を広げている。立憲民主党の喜友名智子県議が行った街頭演説で、点字ブロックをふさいでいたとする指摘が、画像や動画とともにXに投稿された。投稿者は喜友名氏の支援者のふりをして撮影したとみられる。喜友名氏は不快感をあらわに、「顔覚えてますし、対応考えますね」とコメント。Xではこれが「脅迫にあたるのでは」などとして、批判する向きもある。

投稿者の騙し討ちのような投稿と、喜友名氏の「脅迫」と指摘されるコメント。それぞれ法的に問題があるのか。弁護士に見解を聞いた。喜友名氏の事務所は、投開票日翌日以降に取材に応じるとする一方で、それより前に記事を掲載しないように要求した。

騙し討ちの投稿に「端的に気持ち悪いです」

投稿されたのは、6月8日の街頭演説の様子だ。喜友名氏は再選を目指している。枝野幸男衆院議員や玉城デニー県知事らが、喜友名氏の応援に駆け付けた。

点字ブロックは歩道に止められた選挙カーとその前に立つ喜友名氏らの間にあり、ふさがれていることがわかる。動画では、喜友名氏やスタッフらが点字ブロックを踏んでいることも確認できた。また、「頑張ってください」という投稿者のものと思われる声が入っており、支援者のふりをして撮影したことがうかがえる。

Xでは喜友名氏らへの批判の声が寄せられた一方、その場では好意的にふるまい、点字ブロックについて指摘せずにSNSに投稿した投稿者への疑問の声も寄せられた。

喜友名氏はXでこれを引用。次のように投稿し、怒りをあらわにした。

「こうやって応援してるフリして握手しながら動画撮ったんですね。端的に気持ち悪いです。こうやって自分の動画が使われるのも吐き気がします。顔覚えてますし、対応考えますね」

これが、Xでは「こわい」「脅迫にあたるのでは」などと批判が寄せられた。

では、投稿者と喜友名氏、それぞれの行為に法的な問題はあるのか。J-CASTニュースは弁護士に聞いた。

「支援者のふり」は方法に疑問が残るものの、違法とまでは言えない

まず、投稿者がとった、支援者のふりをして街頭演説を撮影するという方法についてはどうか。弁護士法人ユア・エースの正木絢生代表弁護士は、今回の行為が肖像権の侵害に当たり不法行為として違法といえるかどうかという観点から解説した。

どういった場合に肖像権の侵害となるかについては、「被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等」を総合的に考え、「被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものと言えるかどうか」で判断されるという。

支援者のふりをして撮影したことは「撮影の態様や目的」、喜友名県議が選挙活動中だったことは「被撮影者の活動内容や社会的地位」という点で検討されると解説する。その上で、

「特に今回の撮影は、街頭で選挙活動をされているときのものですから、撮影されることに対して受忍すべき範囲がかなり広がっています。選挙活動中の立候補者の言動について、有権者が知る利益は大きいですから、撮影やその写真等の拡散全般についても広範囲で必要性が認められるでしょう」

と指摘。「支援者を装うという撮影方法等の妥当性については問題がありますが」としつつも、「総合的に考えると、今回の喜友名氏への撮影を違法と言うのは困難ではないかと思います」と見解を示した。

喜友名氏の顔がわかる画像・動画の無断投稿行為についても、選挙活動はもともと自身の名前や政治的主張などを広めるための活動であり、それを拡散することは「違法とは言い難い」と指摘。さらにX投稿では加工などで喜友名氏の主張がねじ曲げられているわけではなく、「ありのままの選挙活動が広められているだけなので、違法とは言えない」とした。

喜友名氏の投稿は脅迫に当たるのか

では、喜友名氏の投稿内容はどうか。正木氏は、刑事上の脅迫罪(刑法222条)に当たるかどうかという観点から解説する。

脅迫について、正木氏は「一般に人を畏怖させるに足りる害悪の告知」だと説明し、次のように解説した。

「実際に脅迫された人が怖がったかどうかなどではなく(怖がりな人を脅かすときには犯罪が成立し易いなどということにはなりません)、普通このような人にこのような事を言われたら怖い、という場合に成立する犯罪だということです」

今回でいうと、喜友名氏が「現職の政治家であるという点はとても重要」だという。

「そのような大人物が、後援者を含む誰しもが見ることのできるXにおいて、投稿者個人を特定できていることを告知し、『対応考えますね。』と言っているのですから、これが適切な発言だったのかどうかは争いがあるでしょう」

一方で、該当の投稿のみでは具体的に何をするのかがわからないため「これだけで害悪の告知とまで言うのは難しいものかと思います」と見解を示した。

喜友名氏が取り得る対応は?

双方の行為が違法と言えないとすると、喜友名氏が取り得る「対応」にはどのようなものがあるのか。正木氏は、

「投稿者の顔を覚えているとのことですから、投稿者を自身の選挙活動場所に近づけないなどといったことや、握手等に応じない、今後の撮影時に写真写りを気に掛けるなどの対応があるのではないでしょうか」

と考えを明かした。プライバシーの侵害を理由にXの運営に投稿の削除を求めることも考えられるが、「自ら公表している選挙活動の写真・動画が広められているだけですから、何かの利益が侵害されたとみるのは難しいでしょう」という。

「あまり多くの対応は考えられないのですが、喜友名氏は政治家として真っ当な対応をされるのでしょうから、Xでの投稿者の主張を踏まえて、きちんと自身の政治的な主張を行っていくのが現実的な対応なのではないかと思います」

とコメントした。

取材に応じるのは投開票日の翌日、それ以前に記事掲載しないよう要求

喜友名氏は6月12日に、Xに「選挙中の候補者としては言葉が荒れた投稿だったと思っています」と書き込んでいる。

J-CASTニュースが12日、喜友名氏の事務所に取材を申し込んだところ、13日になって

「取材の申し入れに関しましては、6月17日以降に申し入れいただいた方から順番に対応させていただきます」

と返答があった。投開票日翌日まで取材に応じないことを表明した形だ。これに加えて、取材に応じるまでは事案について記事を掲載しないように要求した。

「くれぐれも、他の媒体やSNS上の情報などのみで構成した記事を配信することはお控えいただき、取材をお待ちいただければ幸いです」

J-CASTニュースとしては、「6月17日以降の取材がなければ記事を掲載できないとすることは、県民の判断材料を狭めることになる」として、6月14日正午をめどに記事を掲載することを伝えた上で改めてコメントを求めたが、回答は得られていない。