アンミカ「白は200色ある」発言の圧倒的な秀逸さ
アンミカさん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)
会話で受け答えをするなかで、受け手の視野が瞬時に広がるような言葉……それこそが「神回答」と呼ばれるものだ。そんな「神回答」のエッセンスをコミュニケーションに取り入れることで、コメント力が磨かれると、著述家の真山知幸氏は言う。『「神回答」大全 人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー100』を一部抜粋・再構成し、人生の風景が変わる「神回答」を紹介したい。
「切り返しで相手を圧倒する」神回答を3つ紹介
私はこれまで数多くの名言集を執筆するなかで「名言」と呼ばれるものは、何も一人の思考から生み出された言葉だけとは限らないなと気がついた。
もう1つ「会話のやりとりから発せられた言葉」も、また、相手の心に深く響く名言となることがある。いわゆる「神回答」であり、現代人が放つ神回答を1冊の本にしたら面白いのではないかと考えた。
そんな思いから、このたび『「神回答」大全 人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー100』を出版したが、神回答には8つの効果があると、私は考えている。
この記事では、そのなかから「切り返しで相手を圧倒する」という効果を持つ神回答を3つご紹介したい。第一線で活躍する著名人による「神回答」には、その人の人生観が凝縮されている。意外な一面も含めて、お楽しみいただきたい。
・アンミカが白色にまつわる「神回答」をした真相
問いに対して直接的に答えないことで、相手のイメージを膨らませる。「神回答」のなかでも、そんな高度なテクニックを使ったのが、モデルでタレントのアンミカだ。
トーク番組「人志松本の酒のツマミになる話」(フジテレビ系、2021年8月20日放送)で、自身のポジティブさについて「小っちゃい物の良いところを探すのが好き」と発言。それに対して、「そこにあるタオルも褒められますか?」と振られた際に出た答えがこれだ。
「白って200色あんねん」*1
白のタオルの長所自体は、何も語っていないが、私たちが1つの色として認識している白に「200色ある」と言われれば、その深遠さに思いを馳せざるをえない。アンミカのこの切り返しは「神回答」として、ユーチューブなどで大反響を呼んだ。
パリコレでの苦言で得た気づき
のちに別の番組(ニッポン放送「ナイツ ザ・ラジオショー」2023年7月18日放送)で「神回答」の背景を明かしている。
19歳でパリコレのオーディションを受けたときに「白は200色あるって言われてるのに、なんであなたの肌をくすませて、顔色をきれいに見せないような白をわざわざ選んできたの?」と苦言を呈されたことが、心に残っていたという。*2
若かりし頃の苦い記憶が、見事な切り返しを生み出した。これもまたポジティブなアンミカならではのエピソードだろう。
【神回答ポイント】問いかけに対して、明確な答えを出すばかりが正解ではない。相手の価値観を揺るがすウィットに富んだ返答で、話は無限に広がっていく。
・泉谷しげるが「自分の曲しか聴かない」意外すぎるワケ
1971年のデビューから全国でライブ活動を行う、ミュージシャンの泉谷しげる。
映画「ええじゃないか」やドラマ「三匹のおっさん」など、俳優やタレントとしてもテレビや映画で活躍中だ。なかでも視聴者にインパクトを与えているのが、バラエティ番組での自由奔放な振る舞いだろう。
そんな泉谷がインタビューで「普段はどのような楽曲を聴いていますか?」と聞かれて、放った言葉がこれだ。
「今は自分の曲しか聴かないな」*3
いかにも豪快な泉谷らしいが、インタビュアーが真意について聞くと、意外な胸中を明かしている。
「自分以外のアーティストを挙げる人って、ほかのものを聴く余裕があるんですよ。俺の場合、余裕がない。俺の場合は、覚えが悪くなっているんだから練習のために聴いているんです」
その後、「だから人のなんて聴いている暇はないんだよ」と冗談っぽく、付け加えている泉谷。音楽活動に真摯に打ち込んでいることがわかる「神回答」である。
ちなみに、2017年4月1日に日本テレビ系「有吉大反省会スペシャル」に出演したときには、「型破りなキャラっていうのは作り物だよね」とも発言。子どもの頃から激しい人見知りだったため、自分を変えようという演出だと明かしている。*4
【神回答ポイント】「傲慢発言」かと思いきや、真意を聞いてみれば、むしろ謙虚というギャップが秀逸。キャッチ―な言葉で引きつけてから、本音をのぞかせると、相手の心に残りやすい。
髪の毛の後退度がハゲしいと揶揄されたら…
・ソフトバンク孫正義の上手な切り返し
ソフトバンクグループの創業者・孫正義(そんまさよし)の人生は、波乱に満ちている。
久留米大学附設高校を中退して単身で渡米。カリフォルニア大学バークレー校在学中に、音声装置付きの多国語翻訳機の試作機を開発し、シャープから1億円で買い取られた。帰国後の1981年、24歳で日本ソフトバンクを設立する。
ソフトウェアの卸売業や出版業などをスタートさせ、順風満帆に思えたが、重い慢性肝炎を患ってしまう。入退院の繰り返しは3年半にも及んだ。孫は開き直って読書に没頭。焦らずに、再起のタイミングを待ち続けた。
転機はネットバブルの崩壊前に、アメリカYahoo!社に多額の出資を行ったことだ。Yahoo!は急成長し、孫は多額の資金を獲得する。それを元手に金融、証券、ベンチャーキャピタル、通信事業、放送事業、球団経営などさまざまな分野に進出を果たす。
SNSではユーザーからの要望に「やりましょう」と応えるスタイルが話題に。「髪の毛の後退度がハゲしい」と揶揄されたときには、次のように切り返して、反響を呼んだ。
「髪の毛が後退しているのではない。私が前進しているのである」*5
現在、Xのアカウントは280万人以上のフォロワーを抱えながらも、「次の僕の手が想像されてしまう」として、SNSの更新を停止している。*6
果たして、密やかにどんな前進をしているのか。楽しみである。
【神回答ポイント】自身の身体への揶揄を材料にして、ポジティブな名言にまで転化している神回答だ。そもそも、ルッキズムに満ちたこうした言動は論外。一掃されることを願う。
この記事では、「切り返しで相手を圧倒する」をご紹介したが、『「神回答」大全 人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー100』では、そのほかに「心がスッと楽になる」「人間関係を円滑にする」「相手に寄り添う」「心が奮い立つ」「視野が広がる」「雰囲気を解きほぐす」「相手のイメージを膨らませる」といった効果別に分類して『神回答』を取り上げた。
考え方次第で、日々の生活は変わる
考え方1つで日々の過ごし方は、まるで違ったものになる。本書を活用して、発想の転換を促す言葉の数々に、ぜひ触れてみてほしい。
●コメント引用出典
*1:「人志松本の酒のツマミになる話」(フジテレビ系、2021年8月20日放送)
*2:「アンミカの名言『白は200色あんねん』はパリコレでの大失敗から生まれた」スマートフラッシュ、2023年7月20日)
*3:「泉谷しげるに“よく聴く曲”を尋ねたらまさかの答えが!『練習のために聴いている』」(池守りぜね著、フムフムニュース、2023年8月16日)
*4:「小倉優子や泉谷しげるが有吉にカミングアウト『反省会』2時間SP」(お笑いナタリー、2017年4月1日)
*5:孫正義の公式Xアカウント(2013年1月8日)
*6:「孫正義氏が明かすTwitterへの投稿を止めた理由」(CNET Japan、2013年9月
30日)
(真山 知幸 : 著述家)