高額ローンでマンションを買った「DINKS」「パワーカップル」に迫る「絶望の赤字生活」

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マンションを初めとする住宅価格が高騰し、平均的な会社員ではなかなか手が届かなくなっている。とりわけ東京圏の都心に近いエリアでは絶望的と言える状況だ。そんな中、数少ない買い手となっているのが、共働きで購入するDINKSで、とりわけ収入の多いパワーカップルが、マンション高騰を支えているといわれるほどだ。しかし、今後は金利の上昇やマンション価格下落の局面入りも予想される。高額ローンを組んだ彼らにも、秋風が吹き始めるかもしれない。

止まらない首都圏のマンションの高騰

住宅価格、特に首都圏のマンションの高騰が止まない。

民間調査機関の不動産経済研究所によると、首都圏の新築マンションの平均価格、2013年度には5008万円だったが、2023年度には7566万円に上昇、10年間で51.1%も上がったことになる。特に2023年度における東京23区の平均は1億0464万円と1億円の大台に乗せてしまった。

図表1 首都圏の新築マンション平均価格と中古マンション成約価格

(資料:新築マンションは不動産経済研究所、中古マンションは東日本不動産流通機構)https://www.fudousankeizai.co.jp/share/mansion/586/2443s.pdf、https://www.fudousankeizai.co.jp/share/mansion/280/sf2016.pdf

こんなに高くなっては、平均的な会社員がマンションを手に入れるのは簡単ではない。

ほとんどの人が銀行ローンを利用して購入しているが、銀行ローンのなかでも、金利が低い変動金利型を利用する人が多いので、変動金利型を利用したとき、どれくらい銀行から借りることができるかを試算したのが図表2だ。

図表2 世帯年収別の借入可能額(1)

設定条件:金利0.4% 35年元利均等・ボーナス返済なし

2024年5月現在、変動金利型だと0.3%台、0.4%台で借りることができる銀行が多い。年収600万円の人が0.4%の金利で借り入れる場合、銀行の審査基準である返済負担率(年収に占める年間返済額の割合)35%だと、借入可能額は6860万円(図表2参照)。

ただし、年収600万円で、収入の35%をローン返済に充てると生活はかなり厳しくなる。家計の安全を考えて25%に抑えるとすれば、借入可能額は4900万円に減ってしまう。

しかも、変動金利型のローンだと借入後に適用金利が上がって返済額が増えるリスクがあるので、ローンの審査では3%、4%の審査金利で審査する銀行が多いといわれているから、実際の借入可能額は更に少なくなってしまうため、いよいよ買えなくなる。

中古マンションすら買えない

金利が上がっても返済額が増えない固定金利型であれば、更に条件が厳しくなる。固定金利の場合、審査金利ではなく、適用金利そのもので審査する銀行が多いので、結果は図表3のようになる。年収600万円だと、返済負担率35%の借入可能額は5450万円、返済負担率25%では3890万円にとどまってしまうのだ。これでは、中古マンションならかろうじて購入できたとしても、新築マンションにはとても手が届かない。

事実、中古マンションは新築に比べて割安なため、人気を集めている。しかし中古は新築以上のピッチで上がり続けている。

公益財団法人の東日本不動産流通機構のデータによると、首都圏の中古マンションの成約価格、2013年度には2614万円だったものが、2023年度には4700万円にアップ、10年間の上昇率は79.8%で、新築マンションの上昇率51.1%を大きく上回っているのだ。この傾向が続けば、中古マンションすら普通の会社員では変えない事態にもなりかねないのだ。

親から多額の援助が期待できない場合、唯一残された方法が、共働きで収入を増やす方法。特に子供を持たずに夫婦で稼ぐDINKSなら、ローン返済に振り向けられる割合が高くなるだろう。

夫婦ともに年収600万円で世帯年収が1200万円になれば、金利1.8%の固定金利型でも、借入可能額は返済負担率35%で1億0900万円、返済負担率25%に抑えても7780万円まで借りることができるようになる。これなら頑張れば億ションにも手が届く計算だ。

このため都心やその周辺の高額物件が売れているのは、こうした共働き世帯に支えられているのではないかともいわれている。夫婦ともに年収が1000万円前後のパワーカップルの場合、億ションならぬ、2億ションを買うケースも増えているといわれるほどだ。

図表3 世帯年収別の借入可能額(2)

設定条件:金利1.8% 35年元利均等・ボーナス返済なし

DINKSマンション購入の問題点

実際、リクルートSUUMOリサーチセンターが、首都圏で新築マンションを買った人たちの実態を調査したところ、図表4にあるように、購入者のうち58.6%が、共働きとなっている。

図表4 首都圏マンション契約者の共働き率

(資料:リクルートSUUMOリサーチセンター「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査」)

なかでも、子どものいない夫婦のみの世帯だと、共働き率は89.8%と実に9割に達する。10年前には、契約者全体の共働き率は49.5%、夫婦のみ世帯は78.2%だったので、共働き率が10ポイント前後増えている。要するに、マンション価格の高騰によって、共働きしないと買えなくなっている実情が見て取れる。

逆に言えば、DINKSや比較的収入の多いパワーカップルの存在が億ションや2億ションを買うようになったため、高額物件が飛ぶように売れたことで、それが東京のマンション価格を押し上げているという見方もあるほどだ。

ただし、DINKSのマンション購入にはかなりのリスクが伴うことになる。

ひとつには、日本銀行のマイナス金利政策の解除によって、住宅ローン金利の上昇、返済負担の増加によって消費者のマンション購買力が低下、そろそろ価格が頭打ちになって、下落局面に入るのではないかという見方が強くなっている。

DINKSのマンション購入は、図表5にあるように、自己資金比率が低く、かなりの高額の借入れを行う傾向が強いので、情勢が変化すると、ローン返済に行き詰まったり、担保割れに陥る可能性が高まったりするリスクがある。

図表5は首都圏で新築マンションを買った人たちのライフステージ別の借入額と自己資金比率を示している。夫婦のみ世帯は他のどのライフステージより借入額が多く、自己資金比率は9.5%と1割を切っているのだ。

図表5 ライフステージ別の借入額と自己資金比率

(資料:リクルートSUUMOリサーチセンター「2023年首都圏新築マンション契約者動向調査」)

全世帯の自己資金比率の平均は21.7%だから、2割以上の自己資金を用意している人たちが多い。であれば、買ってから何年か経って売却可能額が分譲時価格から2割下がったとしても、ローン残高以上で売却でき、手元に何がしかの資金が残る。

しかし、1割以下の自己資金だと、売却可能額がローン残高を下回る担保割れ状態になる可能性が高く、簡単に売却できなくなる。それでも返済を続けることができていれば問題はないが、さまざまな事情で返済が厳しくなると、途端に身動きが取れなくなってしまう。

金利上昇で返済額が大幅にアップするリスク

また、変動金利型の住宅ローンを利用している場合、借入後に金利が上がると適用金利があがり、返済額が増えるという問題もある。

返済額の見直しは5年に1度なので、便宜的に借入れから5年後に金利が上がった場合を想定すると返済額は図表6のように増えてしまう。

当初の金利が0.4%で、5年後に0.6%に上がると返済額は12万7595円から13万1391円になり、1.0%まで上がると13万9200円と1万円以上の増額になる。DINKSだと夫婦で1億円のローンを利用する場合も少なくないので、その場合には金利が1.0%になると25万円台の返済額が28万円近くまで増加する。2億円だとその倍になるので、収入が多いとは言え、負担感は小さくない。

今後の5年間を考えると、ゼロ金利政策解除のもとで、もっと激しく金利が上昇するリスクも想定される。仮に2.0%に上がった場合、借入額1億円だと、当初の返済額25万5190円が増額率上限の25%増の31万8988円に増えてしまう。

図表6 変動金利型で5年後に金利が上がった場合の返済額

設定条件:金利0.4%、35年元利均等・ボーナス返済なし

ローンだけが残る悲惨な事態に

夫婦共働きというのは、二人で力を合わせてローンを組むわけだから、一人でローンを組むに比べると、収入が減ったり、無くなったりするリスクは、夫や妻一人が稼ぐ世帯に比べて二分の一という考え方がある。

それ自体は間違いではない。仮にひとりの収入がなくなっても、家計単位で考えれば収入0になるわけではない。とは言え、先にも触れたように、自己資金が少なく、目一杯ローンを組んでいる人が多いので、仮に失業や配属先変化などで、どちらかの収入が減る、またはなくなってしまうと、一人だけの収入ではとても返済を続けられないというケースが多くなる。そもそも二人の収入を前提に多額のローンを組んでいるのだから、危険度は大差無い。

それに、子どもをつくらず、ずっと共働きすると考えていても、途中で考え方が変わらないとも限らない。その場合、産休や育休制度が充実しているといっても、収入の減少は避けられないだろう。

当面は貯蓄を取り崩して返済を続けることはできるだろうが、いずれ限界がくることは間違いない。そうなるとローンの返済ができなくなる。延滞が発生し、それが続くと任意売却を求められることになるが、その段階で売却価格が残債を下回る担保割れ状態になっていると、銀行が簡単には売却に応じてくれない。

結果、身動きが取れなくなり、最終的には競売に付されることになる。競売だと市場価値より格段に安い価格での落札になるのが普通だ。ローン残高以下でしか売却できないとなると、マイホームを失った上に、ローンだけが残るという悲惨な事態も想定される。

最悪の事態ばかり考えているとマイホームなど買えない、という意見もあるだろう。しかし、先に述べた事態など決して例外的なことではないし、景気が不安定になっている現状では、リスクが高まっているとも言える。

悲惨な状態に陥らないようにするためには、金利が低いうちにできるだけ預貯金を増やしたり、家計管理を一段と強化したりするなどとして、金利上昇や相場の下落に備えることが不可欠だが、楽観的な見通しに基づく返済計画を立てないことが何より重要だ。どんなリスクを抱えているのか冷静に考えた上で、マイホームの購入計画を立てて欲しい。

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