ビリギャルがコロンビア教育大学院を「オールA」で卒業!学び以上に糧になったと思うこと

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ベストセラー本『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(坪田信貴・著/KADOKAWA)で話題になり、『映画 ビリギャル』(2015年)のモデルにもなった小林さやかさん。大学卒業後はウエディングプランナーとしての仕事を経て、教育学の研究のために大学院に進学。2022年秋からコロンビア大学の教育大学院で学び、『ビリギャルが、またビリになった日 勉強が大嫌いだった私が、34歳で米国名門大学院に行くまで』(講談社)を上梓した。

多くの生徒や教師、親と交流するなかで、「教育」における子どもと大人の関わりの大切さを改めて感じ、大学院留学を決意した小林さんだが、今月、ついに大学院を卒業した。今回は卒業について綴っていただいた。

ビリギャル、コロンビア教育大学院卒業

先日、コロンビア教育大学院を卒業した。ずっと夢だった米国への留学。あっという間の2年間だった。憧れだった海外生活は日常になって、世界中に友だちができた。間違いなく、私の人生を変える経験となったこの留学。今日は少し、ここまでの道のりを振り返ってみたいと思う。

情けない、でも誇らしい

私の留学への道は、コロナ禍での英語猛勉強に始まった。2年かけてなんとかTOEFLで104点を取得し、志望動機エッセイを何度も書き直して無事出願を済ませた。3月にコロンビア教育大学院に合格をもらい、大急ぎで引っ越し準備。あんな感覚は、大学受験以来初めてだった。自分で努力して開いた重たい扉の向こうには、今まで見たことのないような新しい世界が私を待っていた。

2022年7月、2年間学ぶことになる認知科学プログラムが始まる2ヶ月前に渡米。英語が心配な私は、コロンビア大学が開講している8週間の言語プログラムに参加。ここで後に親友となるコロンビア人のMoniとValeに出会う。彼女たちはこの留学で出来た最初の友達であり、きっとおばあちゃんになるまでずっと友達でいるだろうな、私にとって大切な人たちになった。

そして、2022年9月にTeachers College, Columbia UniversityのConitive Science in Educationプログラムに入学。アメリカ人、アルゼンチン人、ロシア人、中国人など、異なる文化を持ったクラスメイトたちと学ぶ日々が始まった。やっぱり誰よりも英語ができない私は、恥をかかない日なんてなかった。友人たちが集まって話すと、私だけ会話についていけないのだ。笑うことしか出来ない自分が、なんと情けなかったことか。それでも、仲良くしてくれた友人たちには感謝しかない。

授業では、まさに私が学びたい内容が学べたりそうでなかったりといろいろだったが、総じて、やはり高い壁になるのが英語力。どうしてもっと早くから英語を勉強しとかなかったんだくそう…!と遊び呆けていた昔の自分を呪いながら必死で食らいついた。結果、成績はオールA。英語ではStraight Aと呼ぶらしい。「英語が多少出来なくても、やる気と情熱があれば留学は乗り切れる」ということが証明できたと思っている。何歳からでも遅くない。「いつか留学してみたい」「もっと若かったらするのになあ」と思っている方は、ぜひ挑戦して欲しい。留学は、いろんなものを賭ける価値があると、個人的には思っている。

「挑戦した」という事実

振り返ってみると、ここで学んだ授業の内容以上に、今の私の糧になっていることがある。それは、「ここに来た」という事実。快適だった日本での時間や環境を手放し、ものすごく快適でない場所に飛び込んだ。言語も通じない、トイレもすぐ詰まる、街は臭くて汚い、大好きな家族や友達には会えない、なにもかも高い、そんな環境にわざわざ飛び込んで得たものは、「自信」だった。

幸福心理学(Positive Psychology)という授業で、こんなことを学んだ。「人の幸せ」には、2種類ある。ひとつは、ヘドニック・ウェルビーイング(Hedonic Well-being)と言われるもので、これは「うれしい!」「楽しい!」などのポジティブな感情が多く、不快感や苦痛が少ない状態のことを言う。例えば、ハワイのビーチでカクテルを飲みながらリラックスしてる状態がこれである。しかし、古代ギリシャの哲学者であるアリストテレスは「ヘドニック・ウェルビーイングだけでは、人は持続的な深い幸福感は得られない」と言った。

彼は、ユーダイモニア(良い魂)こそが、最高の幸せをもたらすものであるとし、ユーダイモニック・ウェルビーイング(Eudaimonic Well-being)、つまり、意味や目的のある生き方、自分の能力を発揮しながら、自己成長や自己実現を通して得られる幸福感を提唱した。これがないと、人間は本当の意味で幸せを感じることはできないのだと言う。

ニューヨークで出会った、新しい自分

留学とは、まさにこのユーダイモニック・ウェルビーイングが毎日強化される経験なのだと思う。恥をかかない日なんてない。でも、成長を感じない日もまた、ない。毎日自分が少しずつ成長しているのがわかるのだ。「今日はいつもより、少しだけ授業で発言できた!」「今日はあの子の言っていることが、少しわかった気がする!」「頑張って書いた論文を、教授に褒めてもらえた!」たくさんの挫折と困難の中で感じる小さな小さな自分の成長が、すべての苦難をチャラにしちゃえるくらい、とんでもなく嬉しくて尊い。そしてそれは、だんだんと私の中で積み上がっていって、2年前にここに来たばかりの私とは見違えるほど、自信を持ってここニューヨークで生活をしている私をつくってくれた。

反戦デモによってコロンビア大学のメインキャンパスには入れず、そこでの卒業式はキャンセルとなって涙を飲んだが、学部ごとのちいさな卒業式に、両親、妹夫婦、そして高校時代からお世話になっている恩師の坪田先生を招待した。みんな、日本からはるばる来てくれた。人生でもう一度、自分がこんな立派な卒業式に出るなんて、想像していなかった。両親が感動して泣きそうになっているのをみた。家族と恩師の目線が本当に温かくて、ああ本当に幸せな人生だ、頑張ってよかった、といろんなものを噛み締めた卒業式だった。

教育とは、憧れだ

この留学につながる扉が開いたのは、紛れもなく、高2の夏に坪田先生に出会ったあの瞬間だ。当時の私は、大人に絶望していた。私の見かけや学力だけで判断して決めつけてくる大人たちを見下していた。でも、先生との出会いが私の世界を見る目を変えた。こんな面白い大人がいるんなら、人生捨てたもんじゃないかもと思えた。私の話をちゃんときいてくれた、母以外で初めての大人だった。泣けてくるほど嬉しかった。

先生みたいに、人を助けてあげられて、大切な人をちゃんと守れて、たくさんの人に憧れられるような生き方がしたい、そんなかっこいい大人でありたいと思って必死で先生のあとを追いかけてたら、随分遠いところまで来た気がする。それでもまだ先生には到底追いつかないけど、最強にかっこいい先生という憧れの存在がいるおかげで、私はきっとこれからも世界をどんどん広げて、魅力的な人とたくさん出会っていくんだろう。

「教育とは、憧れだ」と先生はいつも言う。本当にそうだなぁと、自分の人生を振り返って思う。こどもたちにこういう出会いをして欲しい。魅力的な大人に出会って欲しい。そしたら自然と、世界は広がっていくだろうから。

留学に挑戦して、本当に良かった。人生を変える決断をした過去の自分と、後押ししてくれたすべての方々に心から感謝したい。卒業式で学長が言った。「これが君たちの始まりだ。さあ、世界を変えるリーダーとなりなさい」

私の新しい旅が、また始まる。

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