日本はじつは「地域間格差」の大きい国だった…「所得格差」だけでなく「医療格差」や「教育格差」も

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現代の「日本の構造」、どれくらい知っていますか?

日本の共働き世帯数、日本人の労働時間、日本の労働生産性、事業所の開業率……

『日本の構造 50の統計データで読む国のかたち』では、橘木俊詔氏が少子化、格差、老後など、この不安な時代に必要なすべての議論の土台となるトピックを平易に解説します。50の項目で、日本の「いま」を総点検!

※本記事は、橘木俊詔『日本の構造 50の統計データで読む国のかたち』から抜粋・編集したものです。

地域間格差の実態

日本は地域間格差の大きい国とされる。大都会に住んでいる人と地方に住んでいる人のあいだには、所得格差は当然として、生活に関すること(例えば医療、教育、交通、住宅など)での格差が見られる。ここでは所得と人口について格差を見てみたい。

所得による経済格差を計測するには、一人あたりの県民所得が最適である。表7-1(※外部配信でお読みの方は現代新書の本サイトでご覧ください)がそれで、都道府県別の所得に関して、トップ10とボトム10の都府県とその額を示したものである。

東京都の一人あたり所得が543万円というダントツに高い水準にある。2位の愛知県の369万円を174万円も引き離している。ボトムの沖縄県、235万円と比較するとじつに2.31倍の違いである。同じ国のなかで、2倍以上の所得の差があるというのは異常といっても過言ではない。簡単に言えば、東京都には高い所得を稼げる職業が多く、沖縄県にはそれらが少ないからである。

日本ではこれを「東京一極集中」とみなしている。人口で評価するとおよそ1400万人(2020年)が東京都に住み、東京圏(東京、神奈川、千葉、埼玉)だとおよそ3685万人が住んでいる。全国との人口比だとそれぞれがおよそ10%、29%となる。

地域間格差の特色をいくつか示しておこう。第1に、トップの東京、第2位の愛知、第3位の栃木、第4位の静岡は製造業で生産性の高い製品を作っている都県とみなせるので、所得が高くなると考えられる。東京は金融業、広告業、マスコミ業、商社などのサービス業でも生産性が高い。

第2に、大阪、京都、神戸という大都市(一般に所得の高い人々が多い)を抱えた大阪府、京都府、兵庫県がトップ10にいない。この原因はそれぞれの府県内に所得の低い地域を抱えており、域内での所得格差が大きく、平均すると県民所得はやや低くなるからである。同じことは神奈川県や福岡県にも当てはまる。

第3に、逆に県民所得の低い県は、九州地方と山陰地方に集中していることがわかる。これらの地域では農家がまだかなりあるし、中小規模による製造業や商業が多いので、生産性の高くないことが低い所得の理由となるのである。

では東京になぜ多くの人が集まり、しかも生産性の高い生産・サービス活動が可能になり、結果として人々は高い所得を稼ぐことになるのか、である。この問いに関しては、経済学は単純明快な理論を提示している。それは「集積の理論」と呼ばれるものである。企業と人々が一点に集中して生産・販売活動をおこなうと、種々の規模の効果が働いてきわめて高い生産性を発揮できるのである。

具体的には地域に多くの人口が控えているので、豊富な労働力を確保できるし、多くの需要者がいることで生産品・サービスの販路に優位性がある。輸送費の節約も大きい。企業が数多くあるので、製品の取引や商交渉を簡単におこなえる。金融機関も近くにあるので資金調達が容易である。

日本では官庁の役割が重要であり、東京にある企業はすぐに役所と交渉できるし、役所の指導を受けやすい。経済学ではこれらを、取引コストと情報交換上での有利性とみなす。東京の高い生産性と高い所得は企業と人々にとって魅力となり、ますます東京の一極集中が進行するようになる。

東京一極集中が東京圏と非東京圏のあいだの所得格差と連動しているのを図7-1(※外部配信でお読みの方は現代新書の本サイトでご覧ください)が示している。この図は戦後の60年間以上にわたって、所得格差の拡大(縮小)現象が東京圏への人口の転入超過数の増加(減少)を生む姿を示している。人々が所得の高い地域に移るのは当然で、これが東京の一極集中を生んでいる重要な理由の一つである。

この図で2つのことがわかる。第1に、所得格差の変動と東京圏への移入が相関している。第2に、高度成長期に東京圏への移入が大きく、現在に近い時期になるほど、それが小さくなる。多少の変動はあるが東京一極集中の弊害を人々が認識しはじめたからである。

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