化粧品や健康食品をメインに取り扱う北の達人コーポレーションの2024年2月期の売上高は、前期比49.2%増の146億6500万円と大幅に成長している。市場は拡大しつつも競争も激化しているEC領域において、北の達人コーポレーションはどのように成果を上げているのか。それを実現するのは、顧客の声を起点としたコミュニケーション設計とクリエイティブPDCAサイクルだ。DIGIDAY[日本版]のインタビューシリーズ「look inside!―マーケターの思考をのぞく―」では、企業の成長につながった施策や事業を切り口に、そこに秘めたマーケターの想いや思考を追っていく。今回は、北の達人コーポレーションマーケティング部で課長を務める高橋一雄氏に、同社のこだわりのクリエイティブがどのように作り出されているのか深掘りした。

◆ ◆ ◆

DIGIDAY編集部(以下、DD):北の達人が運営するEC「北の快適工房」が好調ですね。そのなかでももっとも売れている商品は何でしょうか。高橋一雄(以下、高橋):一番人気の商品は、マイクロニードルパッチの「ヒアロディープパッチ」です。もともと市場にはあまり流通していませんでしたが、昨今、競合商品が続出し、ドラッグストアでの取り扱いも増えていきました。2020年ごろから売上が減少傾向になったのを背景に、2022年から商品の訴求を根本的に変えました。DD:どんな訴求にしたのですか。高橋:もともとは「刺す化粧品」「刺す美容液」として、商品の特徴を全面的に押し出した訴求でした。「世界一*売れているマイクロニードルパッチ」というフレーズにガラッと変えて打ち出しました。*TFCO株式会社のグローバル調査に基づく表現。DD:機能的な商品の訴求に特徴や機能性ではなく、「世界一」というシンプルな表現を用いたのは興味深いです。高橋:いろいろなテストを踏まえて行った変更ですが、特にお客さまの声をヒアリングして得た結果が大きかったですね。競合商品があまり存在していないときは、我々の伝えたいことを伝えればよかったのですが、市場環境が変わっていくなかで差別化を図る必要が出てきました。何が差別化できるポイントなのか。それを知るためにお客さまにアポイントを取り、直接声を聞きました。「数あるマイクロニードルパッチのなかからなぜ当社の商品を選んでくれたのか」という質問をしたところ、「販売実績に基づいた安心感がある」といった声が多数ありました。我々が押し出していたのは機能性や特徴でしたが、お客さまが感じた価値は実績にあったということです。お客さまの視点こそがもっとも大切にすべきコミュニケーション上のポイントになる、象徴的な事例ではないでしょうか。

高橋 一雄/株式会社北の達人コーポレーション WEBマーケティング部 セールスプロモーション課課長。2020年に北の達人コーポレーションに新卒入社。趣味は格闘技観戦とサウナ、YouTubeでポメラニアンの動画を見ること。最近は個室サウナに入りながらポメラニアンの動画を見ている。

「誰に」「何を」「どのように」伝えるのか

DD:マーケティングにおける判断軸は複数あると思いますが、なかでも顧客の声にフォーカスする理由を教えてください。高橋:我々はコミュニケーションを設計する上で、誰に何を訴求するクリエイティブにするのか明確にすることを重視しています。クリエイティブはデザインも重要ですが、我々は「誰に」「何を」「どのように」伝えるかという3つのフレームワークで捉えるようにしています。たとえば、「どのように」の部分だけにフォーカスしてしまうと、ビジュアル的なインパクトはありますが、「どんな人」に対し、「どのようなベネフィットをもたらす」商品なのかが伝わらず、購買にもつながらなくなってしまいます。表現手段である「どのように」を考える前に、この広告は「誰に」対して「何を」訴求することによって購入していただくのかを設計する必要があります。ある商品の、どの部分の魅力を押し出すべきなのかというのは、商品とお客さまを深く理解した上で見えてくると思います。ここがポイントで、それがきちんと伝わればデザインがカッコよくなくても、お客さまは魅力を感じ購入してくれると思っています。

顧客の声を拾い上げるアナログとデジタルの組み合わせ

DD:顧客理解とはよく言われますが、実際のところとても難しいですよね。どのようにして理解を深めているのでしょうか。高橋:基本的には、当社の商品を購入してくれているお客さまの声をさまざまな媒体でヒアリングしています。メールやSNSはもちろん、コールセンターも内製化しているためあらゆるご意見を直接聞いています。既存のお客さまだけでなく、まだ当社の商品を購入していない方に対するヒアリングも行っています。たとえば、「ヒアロディープパッチ」のターゲット層である45歳以上の男女を対象に、「どのようなニーズを持っているのか」「購入していない人はどう思っているのか」などを聞きました。当社の商品を購入しているかどうかにかかわらず、購入していない人がどう感じているのかを聞けば、そこに対して我々が集客できていない客層がどのような人たちなのか分かります。そういう方にはアンケートを取り、その部分を活用しています。今では、友人ならLINEで聞いたり、オンラインでインタビューできるサービスを活用しています。商品によっては、渋谷の街中で実際に声をかけているメンバーもいます。実際に商品を見てもらい、どう思うのかなどヒアリングすることもあります。DD:アナログでアンケートはすごいですね。高橋:Web広告で数値は可視化できますが、単純に数字がどの程度なのかというだけで判断するのはミスが多くなると思っています。重要なのは、なぜその数字になっているかという背景を紐解いていくこと。Web上のざっくりとした定量的なデータ、大枠の比率などは見られますが、クリエイティブの中身を考えるという部分でいうと、たくさんの人に統計的に質問をするよりもひとりに深く聞く方が気づきを得られることが多いと思います。

常に興味関心を喚起するクリエイティブを実現するには

DD:そうしてお客さまから得た声を、具体的にどのようにコミュニケーションやクリエイティブへと落とし込んでいくのか、プロセスを教えてください。高橋:我々の認識とお客さまの認識のあいだに、どのようなズレがあるのかを把握するのがスタートラインだと考えています。どのようにズレていたのかが明確になれば、自ずとクリエイティブ修正の方向性も決まっていきます。ズレを把握するという点においては、お客さまを取り巻く市場が変化するなかで、自社商品の普及度を正確に把握することが重要だと考えています。たとえば、発売したばかりの新商品と、実績がある商品では、狙うべきターゲットは大きく異なります。当然打ち出していく訴求の内容も異なるので、商品の状況などに合わせてケースバイケースで考える必要があります。DD:絶対的な成功パターンなどはなく、常に最適化を行う必要があるんですね。高橋:Web広告の難しさは、どんどんクリエイティブ疲弊していくところです。「この広告はずっと出てくる」と思われてしまうと、広告がスルーされるようになり、やがては商品への興味関心も失われていくという負のサイクルに入ってしまいます。その上で「誰に」「何を」「どのように」の、どのレイヤーから変える必要があるのかという判断と、常に新しい切り口を考えることが必要になります。

顧客の声から生まれる、変わり続けるクリエイティブ

DD:クリエイティブはどのくらいの頻度で変えているんですか。高橋:「どのように」の部分はデイリーで変え続け、新しいものをどんどん出しています。各商品チームにクリエイティブのメンバーがいるので、彼らが頑張ってやってくれています。DD:同じ商品をデイリーで変え続けるというのはすごいですね。何種類ものクリエイティブを考えるのは簡単ではなさそうです。高橋:行き詰まったら、まずお客さまの意見を取り入れています。我々がよいと思っている切り口と、お客さまの心に刺さっている切り口は必ずしも一致はしません。実際に商品を愛用してくださっていて、気に入って使用している方の声を聞くのは、我々の固定概念にとらわれず、新しいものを生み出せるようになります。さらに、その商品をよいと思ってくれている方の生の声なので、ほかのお客さまの心にも刺さりやすい言葉が多いです。我々がいろいろ考えて案を出したとしても、それはメーカーとして伝えたいことになってしまっているため、お客さまが欲しい言葉ではなく効果は出ません。お客さまの声から新しいものを組み立てる、ということは常々やっています。DD:そうした思考ができるのは木下勝寿社長のノウハウを学んだからでしょうか。高橋:代表取締役社長兼WEBマーケティング部の部長を務める木下にマーケティングを学びました。木下は試用期間や配属前の人にも面談を直々にしており、入社してもすぐに学べる環境にあるため、未経験でもマーケティングを勉強できます。実際に、木下に直接教えてもらえたのは私のなかで大きいと思っています。たとえば、中途の研修でも、丁寧に指導し、フィードバックを行っています。そういった環境で学べたのはすごく恵まれていると思います。Written by 坂本凪沙Photo by 渡部幸和