「碁盤斬り」完成披露舞台挨拶での草剛

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 17日に公開される草磲剛の主演映画「碁盤斬り」のメガホンを執った白石和彌監督(49)がインタビューに応じた。同「ミッドナイトスワン」(2020年)で映画各賞を総ナメにした草磲に対し、白石監督も役所広司(68)の主演映画「孤狼の血」(2018年)で各賞を独占した。強力タッグである。白石監督が草磲の魅力と作品について語った。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

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役者は生き方も芝居に表れる

「碁盤斬り」は草磲と白石監督が初めて組む作品。白石監督にとって初の時代劇でもある。

――草磲さんの起用理由をお教えください。

「主人公の柳田格之進は実直で清廉な男。企画を進めている段階で、『これは草磲さんにやってほしい』と強く思い、オファーしたっていう流れです。草磲さん自身もストイックにお芝居に打ち込んでいる感じがするじゃないですか。そこが格之進と重なり合いました」

「碁盤斬り」完成披露舞台挨拶での草磲剛

――格之進役は役者本人も実直でないと難しい?

「そうだと思いますね。役者さんって、うまいかどうかもありますけど、生き方もお芝居に表れると思っていますから。草磲さんはファンに対する向き合い方も誠実。裏表のない生き方をしていますよね」

 草磲が演じる元彦根藩士・柳田格之進は、身に覚えのない罪を着せられた上に妻を喪い、藩を追われて浪人の身となった。今は一人娘のお絹(清原果耶)と江戸の貧乏長屋で暮らしている。たしなむ囲碁にも人柄は表れ、嘘偽りない勝負を心掛けていた。

 清貧の日々を送っていた父娘に転機が訪れる。旧知の彦根藩士から柳田家を不幸に陥れた冤罪事件の真相を知らされたのだ。

 格之進とお絹は、復讐を決意する。お絹は父の仇討ちを果たすため、自らが犠牲になることを決意した。誇り高き父娘の闘いが始まった。草磲の怒りの表し方が恩人の故・高倉健さんを彷彿させる。

――草磲さんから撮影開始前に何か希望はありましたか?

「いいえ。加藤正人さんの書かれた脚本を読んでもらったあと、『何かありますか?』と尋ねたんですが、『いいえ、1個もありません』と仰ってくれた。逆に『急に侍になれるかが不安なので、何かあったら言ってくださいね』と言ってくれました」

――草磲さんの侍姿を見て、どう思われましたか?

「顔立ちも月代(さかやき=江戸時代以前の成人男性の髪型で、前頭部から頭頂部にかけての頭髪を剃りあげた部分)も時代劇にハマっていると思いましたね。所作などの武士らしさも瞬く間に身に付けた。事前に勉強したというわけではなく、現場で感じたことを自分の中に落とし込む人なんじゃないかって僕は想像してるんですよ」

草磲の時代劇で一番カッコイイ

――撮影前、草磲さんの格之進役に不安は一切なかった?

「はい。NHK大河ドラマ『青天を衝け』(2021年)での徳川慶喜など、草磲さんは時代劇を何本もやられていますから。ただ、浪人になり、貧しい長屋暮らしをしながら、それでも侍の矜持をギリギリ持ってるみたいな男がハマるかどうかはやってみないと分からなかった。だけど、撮影に入って、浪人姿の草磲さんを見た途端、『いい作品になる』と確信しました。たぶん、これまでの草磲さんの時代劇の中で一番カッコいいんじゃないかと自画自賛してます(笑)」

 一方、草磲は白石監督と初めて会ったとき、「監督の初の時代劇にこうやって出るのが何よりうれしい」と相好を崩したという。4月23日の舞台挨拶でも「僕の代表作になったと思います」と満足そうに語った。

 白石監督は当代屈指のヒットメーカーだけでなく、役者にも人気があるのだ。役者の新たな魅力を引き出すからである。

 映画「孤狼の血」では役所広司に泥臭くてワイルドなアウトロー刑事を演じさせ、「孤狼の血 LEVEL2」(2021年)では鈴木亮平(41)に救いようがないモンスター級のヤクザをやらせた。

「日本で一番悪い奴ら」(2016年)では綾野剛(42)にお調子者で麻薬に溺れる極悪刑事を演じさせた。さらに「止められるか、俺たちを」(2018年)では門脇麦(31)にピンク映画界で奮闘する助監督をやらせた。

「碁盤斬り」での草磲も新たな魅力が出ている。格之進は痛々しくなるほど筋を通そうとする。自分の幸せは完全に捨てている。現代劇では見られないタイプの男だ。

「ただ、格式の高い映画じゃなく、エンタテイメントですので。これは強く言っておきたい(笑)。囲碁が出てきますが、そのルールが分からなくても十分楽しんでいただけます。安心してください(笑)」

時代劇はファンタジー

――どうして時代劇を撮ろうと思われたのですか?

「まず、もともと時代劇が好きだったんですよ。監督になる前から『切腹』(1962年)など小林正樹監督の作品や黒澤明監督の作品をよく観ていました。監督になった以上、いつか自分もチャレンジしたいって思ってたんです」

――時代劇の魅力とは?

「ある種、ファンタジーなんですよね。人情とかが表しやすい」

――確かに、現代劇では描けない世界が時代劇にはあります。撮影で苦労された点はありますか?

「ロケが出来る場所が少ないんですよ。昔の建物がもう日本中どこ探してもほぼないし、残っているところも観光地化しちゃっていますから」

――撮影開始前に一苦労ですね。

「ええ。ただ、そういうしがらみもアイディアを出しやすい土壌につながるんです。あと、当時の人たちの暮らしぶりや武士の精神性について調べていく行為も作品をつくっていく礎になる。作品づくりにおいては、普段より考えることが増えるということが、実は重要なんです」

――監督自身が初めての時代劇の演出面で戸惑われたことは?

「最初は『うまく出来るかな』と身構えたところもありますが、やり始めると、京都撮影所の美術さんや床山さんらスタッフがプロなので、むしろ時代劇であることを感じさせずに演出させてくれました。いい意味で、いつもと変わらなかった。一方で『やっぱり時代劇いいなぁー』と感じましたね」

――撮影所のスタッフは草磲さんに対しても助言してくれたのですか?

「ええ。最初だけですが。僕に対し『草磲さんはもうちょっと、こうしたほうが侍っぽく見えるんちゃいますか』と言ってくれたり、あるいは『もう少しアゴを引いたほうが清廉に見えますよね』と進言してくれたり。それを本人に伝えると、いつの間にか自分のものにするんです」

小学生が1人で観に行ける映画は初めて

――國村隼さん(68)市村正親さん(75)、中川大志さん(25)、斎藤工さん(42)、小泉今日子さん(58)ら共演陣も多彩で豪華。中でも草磲さんの娘・お絹を演じた清原さんはどうでした?

「素晴らしい俳優だと思いました。今回は凛とした感じがあるところがとくに良かったですね。目の力と姿勢の良さもあって、誇り高く生きている格之進の娘らしさを出してくれました」

――大勢の人に観てもらいたい?

「ええ。10年以上、映画を撮っていますが、レイティング(年齢制限)が初めて『G(ゼネラル=全年齢)』ですので(笑)」

――意識したことがありませんでした……。確かに「孤狼の血 LEVEL2」は2022年の日本アカデミー賞で12部門13賞を獲得したものの、ヤクザが出てくるのでR15。西島秀俊さん(53)が主演した配信ドラマ「仮面ライダーBLACK SUN」(2022年)も格闘シーンがリアルなので、R18でした。

「Gをつくったことない監督が、よくやってこれたなって自分で思います(笑)。今回は初めて小学生も1人で観に行ける映画なので、大勢の方に観ていただきたいですね」

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部