東京の立ちんぼ界隈に新展開…4月からホストの「売り掛け制度」廃止も“立ちんぼが急増”する特殊事情

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国内最大の繁華街である東京・新宿の歌舞伎町のホストクラブに通うために若い女性たちが売春を行っていたことが昨年、大きな社会問題となった。非難の対象となったホストクラブの経営者らは昨年12月、記者会見を開き、「’24年4月までに売掛金(ツケ)払い制度を段階的に廃止する」と明言した。

ホストクラブ通いのための若い女性たちによる売春行為は国会でも取り上げられたことがあり、警視庁は売春防止法違反(客待ち)容疑で捜査に乗り出し、’23年は1年間で約150人の女性を逮捕した。100人以上が20代で10代も数人が確認された。動機について多くが「ホストクラブに通う遊興費を稼ぐため」と答えたという。摘発は’22年の1年間と比べると約2.7倍と急増した。

こういった摘発や立ち入り調査によって、’24年の年明けまでに立ちんぼの女性の姿は急減した。しかし、売掛金が廃止となったはずなのにもかかわらず、’24年4月以降、歌舞伎町の大久保公園周辺で再び女性たちの姿が急増している。

警察当局の幹部は「常時、40〜50人の女性たちが客待ちしている。この状態は昨年の夏から年末にかけてと同じか、それ以上だ」と指摘する。そのうえで、背景として次のように解説する。

「売掛金払いが廃止となったため、多くの店ではその場で現金精算となった。要するに現金を持っていないと入店できない。そのため、ホストは女性客に『消費者金融などでカネを借りてから店に来てくれ』『売春してカネを用意してから』などと持ち掛けて、女性客は言われた通りにしているようだ」

要するに、これまではホストクラブで遊んだ後に背負わされた売掛金を払うために売春していたのが、4月以降はホストクラブでの遊興のために事前に売春するのであって、「順序が逆になっただけ。そもそも、ツケ払いの廃止もどこまで信用できるものか疑問視していたが、逆手に取っている」(前出の警察当局の幹部)というのが実態のようだ。消費者金融での借入限度を超えた女性は高金利の闇金融での借金をさせられているケースもあるという。

警視庁は’23年秋以降、悪質ホストについては強制捜査へと舵を切っていた。同年11月、未成年の女子高生に酒を提供したとして風営法違反(20歳未満への酒類提供)容疑でホストクラブ経営者を逮捕。この経営者は女子高生に売春を持ち掛けて、女子高生は約50人から約200万円を得て売掛金に充てていた。

今年1月には、女性客(22)に「お前がちゃんと立っているか監視する」と脅してスマートフォンの全地球測位システム(GPS)機能で行動を把握して売春を無理強いしたとして、ホストが強要容疑で逮捕されるなど摘発が相次いだ。

摘発が相次いでも、前出の警察当局の幹部は、「売春防止法や風営法での摘発では、逮捕しても数日で釈放となり不起訴処分になるケースがほとんど」と実態を明かす。罪をきちんと償わせるべく、別の視点での捜査も進めていると強調する。

「悪質ホストについては、さらに量刑が重い事件での摘発が必要だ。歌舞伎町内には人気ホストについては『1億円達成』などとポスターや看板での宣伝もある。恐らく税金を払っていないだろう。何かしらの事件で摘発したら、ガサ(家宅捜索)でカネに関する資料を押収し、税金をごまかしている証拠を探して課税通報する。タマリを発見すれば国税は動いてくれる。このような捜査手法も検討する段階ではないか」

この警察当局の幹部の発言の中の「タマリ」とは、税金を申告せずに隠匿している資金を指す。所得税を払わずに隠匿していれば、国税当局によって追徴課税がなされる。隠匿したごまかしが高額で手口が悪質な場合は脱税調査となり検察当局に告発され、刑事事件となるケースも多い。警察からの課税通報について、国税当局の幹部は、

「抜いたカネが1億円以上で無申告であればマル査(強制調査権がある査察部門)の対象になる。ホストのうち1億円プレイヤーと自ら宣伝しているのもいる。それなりの税金対策をしている者もいれば、全く無申告というのもいるはず。ただタマリがどこにあるか。見つけ出せるかだ」

との見解を示す。

所得税法に違反した場合の罰則は、「10年以下の懲役、若しくは1000万円以下の罰金、又はこれらの併科」となり量刑は詐欺罪や窃盗罪などと同等で各段に重くなる。女性を食い物にする悪質ホストを厳しく取り締まることができるのか。まだまだ攻防は続きそうだ。

取材・文:尾島正洋
ノンフィクション作家。産経新聞社で警察庁記者クラブ、警視庁キャップ、神奈川県警キャップ、司法記者クラブ、国税庁記者クラブなどを担当しフリーに。近著に『俺たちはどう生きるか 現代ヤクザのカネ、女、辞め時』(講談社+α新書)。