新しいものを生み出すのはむずかしいこと。勉強せずに起業した経営者は「お金を稼げるポイント」がわかっています(写真:Luce/PIXTA)

街中で見かける小さな洋品店や文房具店、書店……。ショッピングセンターや大型の専門店に顧客が流れ、厳しい経営を強いられているはずなのに、どうやって経営を続けていられるのでしょうか。その理由を探ってみると、堅実に稼いでいる経営者のある共通点が見えてきます。

ネットや本にあふれる膨大な知識を学ばなくても、起業で成功を収めることができる。地道に稼ぐ経営者のノウハウを体系化した書籍『どんなビジネスを選べばいいかわからない君へ』(村上学・著)より、一部を紹介します(全3回中の第1回)。

地道に稼ぐ人たちの共通点に注目

起業において、もし生きるか死ぬかという極端なイメージを持っているなら、それは捨ててしまいましょう。そのどちらもよく目立つので、それが普通のことだと思ってしまいがちです。

たとえば、日本経済新聞朝刊で1956年から続くコラム「私の履歴書」や、テレビ東京の『日経スペシャル ガイアの夜明け』『日経スペシャル カンブリア宮殿』では、非常にかっこいいストーリーが紹介されます。

一方、脱サラして飲食店を始めたはいいものの、経営に行き詰まってしまう人もいます。

飲食は儲けるのが容易ではなく、流行り廃りも激しい業界です。生食パン、白いたい焼き、タピオカ、からあげ、カヌレ、フルーツサンド……。流行りに乗って脱サラしたらブームが去ってしまった、という話を一度は聞いたことがあると思います。

成功か破産か。さながら「清水の舞台から飛び降りる覚悟でやる」イメージでしょうか。

日本人は根性論が大好きなので、こういう表現は刺さる人には刺さります。しかし実際のところ、そんな意気込みで臨む経営者ばかりではありません。

たしかに日々の努力は欠かせませんが、無理にリスクを犯す必要は微塵もないのです。

ひと昔前、「起業するからには与信枠(利用限度額)を使って借金しろ!」というメッセージが広く出回ったことがありました。私はそれを真に受けて破産していった若者を何人も知っています。

起業にかぎらず、どの業界にもオピニオンリーダーがいるので、強いメッセージは浸透しがちです。でも、プレッシャーをプラスにかえて伸ばせる人ばかりではなく、プレッシャーに勝てず、凝り固まってしまう人もいます。

世の中には大成功でもない、大失敗でもない、地味なストーリーがたくさんあります。

見よう見まねで始めて、気がついたら創業30年。そういう会社は山のようにあるのです。しかも、細部の違いこそあっても、それらは大筋が同じストーリーを持っています。

決して意識的ではないにせよ、同じ思考プロセスをたどっています。その勘所をうまくつかむことさえできれば、地道に稼ぎ続けることは可能なのです。

うまくいったやり方を別の場所で

商工会議所にかぎらず、勉強せずに起業した経営者は(背景や事業内容などこまかいところは違っても)同じことをしています。それは、「成功している誰かのやり方を、空いているほかの市場でやる」です。

同業者や取引先から「あそこにいっぱい仕事あるよ」と聞けばそこに支店を出すし、「どこに広告打ったの? 効果があったならウチもそこで出そう」と出稿しています。

なぜそんなことをしているのかというと、彼らは「お金を稼げるポイント」がわかっているからです。

下積み時代に肌身を通して学んだのか、地元の先輩から教えてもらったのかは人それぞれでしょう。いずれにせよ、最新の経営理論や、誰もが知る有名なフレームワークを学び、活用しているわけではなく、業界にいるから身についたことです。

街中の小さな町の洋服屋や文具屋、本屋を想像してみてください。

どのお店も、ショッピングセンターや大型専門店に顧客が流れ、厳しい経営を強いられています。そんな状況でも営業を続けているお店があるのは、地元の学校指定の学用品(学生服、体操服、鞄、文房具、教科書など)を取り扱っているためです。これが業界の外からは見えない、稼げるポイントです。

外からはなかなか見えないけど実は儲かっている――その最たる例は、東京・大田区の蒲田にあります。

大田区は「ものづくりのまち」として知られていて、区内には実に3500もの工場がありますが、そのほとんどはネジのような小さい部品の加工を専門に請け負っています。市場規模は数億円と小さいものの、市場をほとんど独占しています。

そもそも、小さい市場に大手は参入してきません。わざわざ設備投資するうまみがないためです。職人技が光る業界でもあるので、人を育てるのに時間もかかります。だから、「大きなメリットもないから、蒲田のあの親父にやらせておこう」となります。

当の本人も、ここが空いている、自分たちが勝てる市場だとわかっています。その上で、自社の独占状態を維持するためにちょっとした戦略も駆使します。

居酒屋で「儲からない」とグチるのです。「ウチは儲からなくて大変だよ」と言うことで、「この業界で仕事しちゃダメだよ」と暗にアピールし、参入障壁を作っています。

「町工場の親父は実はお金を持っている」のは界隈では有名な話です。街を歩けば「あそこはどうやって儲けているんだろう?」と不思議に思う個人商店はたくさん見つかりますが、どこも稼いでいる同業他社と同じことを、別の場所でやっているのです。

成功する最短の道とは

お金を稼げるポイントを心得ている人たちは、「成功している誰かのやり方を、ほかの空いている市場でやる」のが最短の道だとわかっています。そこに、新しい商品やサービスで参入しようという考えはありません。非効率で不確実=儲かりづらいからです。

その理由を少し考えてみましょう。

1つは、現代では新しいものを生み出すのが難しいこと。

「チキンラーメン」を発明した日清食品の創業者・安藤百福さんは、1958年当時、まだ世の中に存在しなかったインスタントラーメン(チキンラーメン)を開発して大成功を収めましたが、モノがあふれる今の時代にこれと同じことを再現するのは非常に難易度が高いといえます。

新しい=売れるではない

もう1つは、仮にiPhoneやChatGPTのように突き抜けた商品を開発できたとしても、それが売れるかどうかは別問題だということです。

新しい商品のマーケットがあるかどうかわからないので、仮説と検証を何回も繰り返さなければなりません。市場調査や認知させるための広告費用もすごくかかるでしょう。

新しい健康成分を発見して商品化したとして、その成分がいかに健康にいいのかを広めないとニーズは生まれません。


市販のヨーグルトのパッケージには「ガセリ菌SP株」とか、「LB81乳酸菌」といった体によさそうな(?)成分を前面に出した売り文句が並んでいますが、これらは大手メーカーが莫大な資本と時間を投下して市場調査や販促をした結果です。

おまけに、そのようなキーワードは定期的に新しいものに取って代わります。売れるまでのコストがいかに膨大なものか、想像に難くないでしょう。

大手ではない我々には、莫大なコストを払う余裕はないはずです。そんな遠回りをする必要はなく、すでに成果の出ている検証済みのものだけを使えばいいのです。

この世にまだ存在しない新しい商品を作るのは一部の天才や研究所を持ち、日夜新しい商品を作り続けている大手に任せましょう。

(村上 学 : 株式会社オリジナルベースキャンプ代表取締役)