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コロナ禍で急速に広まった家族
 葬儀のコンパクト化が近年加速している。都内の葬儀会社で働く20年以上のキャリアを持つ男性は最近の葬儀事情についてこう語る。

「“終活”という言葉が生まれてから、ご自身の葬儀についてのご希望を遺される方は増えました。そのなかの一つに、近親者とごく一部の方だけで執り行う家族葬を望まれる方が増えています。わざわざ遺された家族にお金をあまりかけさせたくない、最後は親しかった人だけで送ってほしい……という思いがあるようです。家族葬自体、新しいスタイルの葬儀ではないのですが、コロナを機に密を避けるということもあって急速に広まっています」

家族葬が引き起こした悲劇

 しかし、この家族葬を執り行ったことで、思わぬ事態に陥った人も少なくないという。東海地方の住むAさん(51歳)は、葬儀の後に予想だにしなかった心労を抱えることになった。

「3年前、母をガンで亡くしました。コロナ禍で密を避けるためでもあったのですが、父が『最期は母さんとゆっくり時間を共にして送ってあげたい』という希望もあり、家族葬を執り行うことにしたんです。参加したのは私たち家族、母の兄弟と親戚、そして仲のよかった生け花教室の数人だけでした」

 この家族葬を選択したことで、葬儀の後にAさん家族は1年以上心労を抱え込むことになる。

「母はとても社交的で友達も多かったのですが、家族葬をしたことで葬儀に呼ばなかった方が大勢出てしまいました。そして葬儀の後、母が亡くなったことを聞いた方からの連絡がひっきりなしにかかってきたんです。どこで調べたのか私や妹の携帯にも知らない方から電話が掛かってきましたし、自宅の電話には涙声の留守電が入っていたこともありました。

 訃報を聞いて線香をあげに来た方は一様に仏壇の前で手を合わせて涙を流すんです。そのたびに母の思い出を泣きながら語ったり、なかには『なんで葬儀に呼んでくれなかったんですか!』と父を問い詰める人もいました。そんな人たちを一年近く父は相手にしたことで、誰かがお参りに来るたびに父は亡くなった母のことを思い出してしまい、表情も暗くなり、塞ぎ込んでしまいました」

家族葬は間違っていたのかと自問する父親

 母親の葬儀から1年がたち、こうした状況がようやく落ち着いたある日、Aさんの父はボソッと「母さんのためには、あの葬式はよくなかったのかな……」と呟いたという。

 哀しそうに呟く父親に「かける言葉がなかった」と話すAさん。では、Aさん自身は家族葬についてどう思っているのだろうか。

「うちの場合は、母親がとても社交的で交友関係も広かったので、家族葬は間違っていたのかもしれません。亡くなった人に対する哀しみって、仕事したりして普段の生活をしていくうちに薄らいでいくもので、いい意味で『忘れられる』と思います。でも、うちのようにひっきりなしに亡くなった母のことを涙ながらに話す人を相手にしていると、ずっと哀しい気持ちのままなんです。これ、けっこうキツいですよ。ずっと家にいる父親なんかは、そうとう堪えてましたしね」

◆葬儀は生前からの準備が必要!?

 また、Aさんは「生前の準備が重要だった」と振り返る。

「亡くなる前に母の気持ちを確かめておくべきでしたし、母の交友関係で伝える人やその連絡先をまとめておくべきでしたね。闘病中の母に亡くなった後のことを聞くのは気が引けましたが、こういうことはちゃんとしといたほうがいいってことがよくわかりました。もし、母が家族葬を望んだのなら、その旨を葬儀の後にハガキなどで訃報を送ればあんなにひっきりなしの連絡はなかったと思います。それと、葬儀って亡くなったことをみんなに知らせる役割もあるんだなって。主要な人、数人に伝えるだけで話は広まっていきますからね」