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 32歳と257日。ケヴィン・ベーレンスがドイツ代表史上9番目となる遅咲きのデビューを果たすまでに要した、時間である。「この雰囲気のなか、こんな試合に参加できること自体、とてもエキサイティングで本当にクールだった。初めてプレーできてただただ嬉しい」とベーレンスはその試合後に喜びのコメント。その1ヶ月前にはエスタディオ・サンティアゴ・ベルナベウでレアル・マドリーとの一戦にてチャンピオンズリーグデビューも果たしており、当時について改めて「ただただスタジアムを見渡して思ったんだ、わぁ、なぜ僕がここに立つことができているんだろうって」とキッカーとのインタビューにて振り返っている。

 結果的にはベリンガムのロスタイム弾で悔しい敗戦となり。また前述の代表戦でも終了間際の僅かな出場にとどまったが、いずれにしてもこのシーズンの前半戦が、32歳にしてようやくベーレンスがつかんだキャリア最高の時期であることに変わりはない。マインツ戦でのハットトリック後に、短パンとTシャツの出たちで自転車に乗り自宅に帰宅する様子も、「スペインでまで報道されていた!でも実際には妻が車を必要としていたのもあって、ごく普通の日常なんだけど」とベーレンスは笑顔をみせた。

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「ろくでなしだった」ベーレンスが、ようやく手にした飛躍への「チャンス」

 2021年にウニオン・ベルリンへと加入した同選手は、それ以前は4部で7年を過ごしたのちに27歳となって、2部ザントハウゼンへと移籍。そこでついにブレイクを果たすと、戦いの舞台をブンデスリーガへと移して30を超えて開花。これまでブンデス通算81試合に出場して15得点、CL出場5試合、ドイツ代表経験もそのキャリアに加わり、その冬にはVfLヴォルフスブルクへの移籍を果たすことになる。「決してお金が理由じゃない。僕にとってこの挑戦がチャンスだと思ったから」とベーレンス。

ブレーメン時代ではトップチームの壁を打ち破れず、長きにわたり4部リーグでくすぶり続ける中で、「もっとやれる、こんな所にいるはずがない」ともがき苦しんだベーレンスは、「自分自身にも、サッカーでのキャリアについても、常に不平不満ばかりを抱き続けていた」と回顧。「認めるしかないだろう、本当に僕はろくでなしだったと思う」と言葉を続けている。「そうやってたびたび、自らの手で自分の首を絞めたものさ。何度も退場処分を出され、時には暴力行為だったり重大なファウルだっったり、もう教えても仕方がない人間、学べない男、問題児、そんな声は実際のところ、正しかったというほかない・・・」

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明日わからぬ挫折が、変化のきっかけに

 そんなベーレンスにとって変化のきっかけとなったのは、2015年にわずか半年手ロートヴァイス=エッセンから放出された時だった。「そのときに、僕ははっと気づかされたんだ。そこでヤン・ジーベルト監督らコーチ陣、チームメイトらとの間で意見の相違が生じており、その大半は僕自身によるものだったと思う。決して彼らを批判するつもりはないよ。でもあの時期は本当に大変で、いろいろと思い悩んだ。それまでサッカーを辞めることなんで思いもしなかったことだし」

 ただ幸運なことにそこで声をかけてくれたのが「ザールブリュッケン。僕のキャリアの転機となった場所だよ」この時点からベーレンスは成長を続け、2018年に2部に到達し、2021年8月に30歳でブンデスリーガデビューを祝うことになる。 「夢にみる程度だった舞台。もう立てるなんて思ってもいなかったところ。でもザールブリュッケンに加入してから、僕はコツコツと努力を続け、その弛まぬ努力が僕の特徴である心身ともに強靭な粘り強さへと繋がっていると思う。ある程度才能の部分もあるのかもしれないし、もちろん環境に恵まれたという運も見逃せないポイントではあるけれど」

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32歳でドイツ代表参加、ヴィルツとムシアラに「やべー所に来ちまった」

 その環境はいまやまさに激変。昨年10月にはドイツ代表の一員として米国遠征に参加。そこではフロリアン・ヴィルツや、ジャマル・ムシアラといった将来のドイツを担う逸材と、切磋琢磨する機会を得た。「最初のうちは、おいおい、マジかよ。俺、やべー所に来ちまった!っと思ったね(笑)。体験したことのないレベルのトレーニングで・・・。どこを見渡しても自分よりも上手い選手たちばかりで、でもそれをネガティブに感じることはなく、自分のなかのベストを尽くせたと思う。たとえ試合終盤の出場で、一度もボールにさえさわれないという珍しい経験をしても!(大笑)。本当に楽しかった6分間だった」

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現役最年長、長谷部誠と全く同じ30歳の移籍でブレイク

 今はヴォルフスブルクでウィンド、トマス、ヌメチャらとの定位置争いを展開しながら、ラルフ・ハーゼンヒュットル新監督の下で苦境に喘ぐヴォルフスブルクを再浮上させることが使命となる。まさにそのような苦境でこそ、これまでベーレンスがその紆余曲折のキャリアの中で培ってきた驚異的なメンタルとフィジカルが、求められることだろう。ブンデスリーガ現役最年長選手である長谷部誠が30歳となって加入したフランクフルトでその後にキャリア絶頂期を迎えたように、同じく30歳でウニオン・ベルリンに移籍しその後にキャリア絶頂期を歩むケヴィン・ベーレンスもまた、33歳となった今もなお飽くなき探究心と努力をもって、ひとまわり以上若い選手たちと共に同じゴールをめざし日々戦い続けている。