シルデナフィルは「バイアグラ」の名称で勃起不全の治療薬として使用されているほか、「レバチオ」として肺動脈性肺高血圧症の治療にも用いられています。そんなシルデナフィルがアルツハイマー病のリスクを50%以上減らすことが、大規模なデータベースを分析した研究で確認されました。

Sildenafil as a Candidate Drug for Alzheimer’s Disease: Real-World Patient Data Observation and Mechanistic Observations from Patient-Induced Pluripotent Stem Cell-Derived Neurons - IOS Press

https://content.iospress.com/articles/journal-of-alzheimers-disease/jad231391



Cleveland Clinic-Led Research Supports Repurposing Sildenafil (Viagra) For Alzheimer’s Treatment

https://newsroom.clevelandclinic.org/2024/03/05/cleveland-clinic-led-research-supports-repurposing-sildenafil-viagra-for-alzheimers-treatment/

Huge Study Confirms Viagra Cuts Alzheimer's Risk by Over 50% : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/huge-study-confirms-viagra-cuts-alzheimers-risk-by-over-50

シルデナフィルは5型ホスホジエステラーゼ(PDE-5)という酵素の活性を阻害し、陰茎周辺の血管を拡張することで勃起をサポートします。さらに、近年ではアルツハイマー病の原因といわれているタウタンパク質の過剰なリン酸化を減少させ、認知力や記憶力の改善に役立つことが示唆されています。

しかし、すべての研究でシルデナフィルのアルツハイマー病予防効果が確認されているわけではなく、その背後にあるメカニズムもよくわかっていません。そこで、アメリカのクリーブランドクリニックの研究チームは、大規模な患者データベースを利用した分析を行うと共に、アルツハイマー病患者のiPS細胞に由来する培養細胞を用いた実験を行いました。

まず研究チームは、2つの独立したデータベースの数百万件に及ぶ匿名化された保険金請求データを分析し、シルデナフィルを服用した患者と服用していない患者のアルツハイマー病リスクを比較しました。アルツハイマー病のリスクに関わる性別や年齢、疾患といった要因を調整した結果、シルデナフィルの服用はアルツハイマー病のリスクを30〜54%も減少させることが判明。アルツハイマー病のリスク軽減は、シルデナフィルを肺動脈性肺高血圧症の治療薬として用いた患者でも確認されたとのことです。



さらに研究チームは、シルデナフィルが神経細胞に及ぼす影響を調べるため、アルツハイマー病患者のiPS細胞を脳の神経細胞に分化させました。アルツハイマー病患者に由来する培養神経細胞は、非アルツハイマー病の人に由来する培養神経細胞と比較して、異常なリン酸化を起こしたタウタンパク質が多く蓄積されていることが確認されたとのこと。

このアルツハイマー病患者に由来する神経細胞をシルデナフィルで5日間処理した結果、異常にリン酸化したタウタンパク質が有意に減少することが判明しました。また、シルデナフィルで処理された神経細胞では、炎症や神経間のコミュニケーションなど、アルツハイマー病の神経変性と関連する数百もの遺伝子発現に変化がみられたと報告されています。

なお、シルデナフィルがもたらす変化がアルツハイマー病にどのような影響を及ぼすのかを正確に特定するには、さらなる研究が必要です。

論文の共著者であるFeixiong Cheng博士は、「この大量のデータを計算的に統合した後、ヒトの神経細胞におけるシルデナフィルの効果と実際の患者の結果を見ることができてやりがいを感じています。今回の研究結果は、アルツハイマー病患者におけるシルデナフィルの潜在的な有効性をさらに検討する臨床試験に対し、必要なエビデンスを提供するものだと確信しています」とコメントしました。