昨年6月に第3子を出産し、母としても忙しい日々を送る女優の上戸 彩さんを誘って、横浜随一の人気を誇るイタリア料理店へ。

「横浜はドラマや映画のロケでも訪れた思い出の多い地」と話す彼女に、仕事と子育てを両立し続ける自身の現在地を語ってもらった。


女優デビュー24年目。上戸 彩が仕事を続けて良かったと思う理由

お店の近くには横浜のシンボル「横浜マリンタワー」がそびえ立つ。「歴史あるものと新しいものが交差するのがこの街の魅力だと思う。今日はいいリフレッシュになりました」


「横浜の印象?そうですね……まず旦那さんが横浜育ちなんですよ。ドラマのロケでもよく来ました。

たとえば『エースをねらえ!』『流れ星』。それから『昼顔』の映画版では桜木町の駅前で撮影しましたっけ。紗和が部屋着のまま北野(斎藤 工)を尾行するシーンです。懐かしい!」

上戸さんが本誌に登場するのは5年ぶりのこと。その年月を感じさせないほど、目の前の彼女は明るくて親しみやすく、自然体だった。

昨年6月に第3子を出産したことが記憶に新しいが、どうやら年末に卒乳したらしい。心置きなく飲めるようになった状況に触れると、今度は顔をパッと輝かせた。

「めちゃめちゃ嬉しいです!いつ卒乳しようかなと思いつつ、母乳育児も大事にしたくて決断できずにいたんですけど、年末に子どもから手足口病をもらってしまって。

薬を飲まないことにはどうにもこうにも乗り切れなかったから、断乳しました。いまもそのまま。毎日、お酒を1杯。ささやかな幸せを噛み締めているところです」


「女優を辞めていなくて本当に良かったなと心から思っています」


子育てをするようになれば、物事の優先順位は変わって当然だ。10代の頃から母になりたいと夢見ていた彼女からすると、それは本望なのかもしれない。

だが、そうだとしても3人を育てるとなったら浮かれてばかりはいられない。ただでさえ、母親業とキャリアの両立は不可能ではないにせよ、至難の業だと言われ続けている。

一体どうやって折り合いをつけているのだろうか。彼女はこんな話をしてくれた。



この店に誰と来たいか尋ねると、上戸さんは「練馬区で一緒に育った幼なじみたち」と回答。「洗練されたお料理に興奮する様子が想像できる。何倍も美味しく感じられそう!」


「自分のことを免疫力の高い人間だと信じてきました。10代半ばで“金八先生”に出演したのを機に寝られないほど忙しくなったけど、仕事に穴を開けることは一度もなかったから。

風邪を引いたっていざというときには人前に出られる状態まで持ち直すし、蕁麻疹が出たとしても、現場に到着する頃には跡形もなくなっている。

そんな調子だったのに、年末に体調を崩してからは何かが変わってしまって、目が覚めてスイッチが入るのに時間がかかるんです。

38歳という年齢も影響しているとは思いますが、やっぱり3人の子どもを育てるには相当な労力が要るんだと思います」

そこまで聞いて、ふとこんな考えが湧いた。それでも女優でありたいのは何故なのか。育児に専念すれば多少は楽になれるのに。

そのものズバリを畳み掛けると、彼女はしばらく一点を見つめて考えるような素振りを見せた。そして、ゆっくりと口を開いた。

「自分の居場所があるのならば、女優として居させていただきたい。わたし、ずっと求められていたいんです」

そして、こうも言った。

「辞めなくて本当に良かった」

どういうことだろう。辞めたいと思っていた、ということか?

「若い頃は結婚したら女優の仕事を辞めようと思っていました。結婚するときも、その考えがよぎらなかったわけではありません。

でも、辞めませんでした。旦那さんが女優である上戸 彩をリスペクトしてくれていたから」


「仕事をしている瞬間が、自分にとっての大事なメンテナンスなんです」


仕事は、人生のすべてではないにせよ、そのひとのアイデンティティの重要な要素になり得る。かくして上戸さんは女優「上戸 彩」であり続けた。

子どもがひとり、ふたり、3人と増えても、自分のペースでキャリアを積んでいった。そしてそのうち女優と母親の二足の草鞋を履いていることのメリットを実感していく。

「お母さんには息抜きが大事だと思うのですが、自分の時間を作れますか?と言われて、作れると断言できるひとは少ないんじゃないかな。わたしはそう。頑張っちゃう。

でも、仕事があったら、家を出なきゃいけなくなるでしょ。家では子育てにかかりっきりで自分に構わなくなりがちだけど、ひとに会うとなったら鏡を見るし、眉毛がボサボサだなあとか、肌が乾燥しているなあとか気付かされる。

仕事を通して自分をメンテナンスしている感覚もあります」

そう話す上戸さんの表情は澄んでいた。置かれている状況が大変であることに違いはないが、おそらく自分の機嫌をうまく取れているのだろう。だから、芝居も光る。

そういえば、先頃発表された第47回日本アカデミー賞優秀助演女優賞の受賞者リストに上戸さんの名前も挙がっていた。

「20代の頃は自分の環境を守りたいとか身勝手な考えにとらわれて行動が鈍っていたけど、30代がものすごく充実していたのもあって、ガードが外れた。40代に向けていろんなお芝居に挑戦したい」といまの心境を話してくれたが、今後のさらなる飛躍が楽しみである。

プライベートでやりたいことは特に思いつかないというので、ふと、仕事からも子育てからも解放されて1週間休みがあったら何をするか問いかけてみた。

すると、彼女は「気が滅入る」と即答。「誰かに求められていないと寂しくて居てもたってもいられなくなってしまう」と、自分の気持ちをさらけ出した。

そんな上戸さんはたまらなく魅力的なひと。女優業も、母親業も、彼女にとっては天職だったのだ。

インタビューを終えて横浜の街から消えてゆくその後ろ姿を見送りながら、そう思ったのだった。


■プロフィール
上戸 彩 1985年生まれ。東京都出身。’97年に「第7回全日本国民的美少女コンテスト」で審査員特別賞を受賞して芸能界に入るきっかけを掴み、2000年にTVドラマ『涙をふいて』で女優デビュー。Amazon Originalドラマ『沈黙の艦隊 シーズン1〜東京湾大海戦〜』が配信中。6/28公開予定の映画『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』にルルン役でゲスト声優として出演。

■衣装
コート 293,700円、ドレス 355,300円、スカート 220,000円(すべて参考価格)〈すべてファビアナフィリッピ/アオイ TEL:03-3239-0341〉、ピアス 855,800円、ネックレス 363,000円、ブレスレット 938,300円、リング 376,200円〈すべてTASAKI TEL:0120-111-446〉、バッグ 297,000円〈クリスチャン ルブタン/クリスチャン ルブタン ジャパン TEL:03-6804-2855〉

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東京カレンダー最新号では、上戸 彩さんのインタビュー全文をお読みいただけます。
東カレに語ってくれた、母親らしさ溢れる“横浜の思い出”とは?

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