竹中平蔵「政治家の5年1000万円不記載で過剰にガタガタすべきでない」全員が潔癖だと、社会はなかなか成り立たたない

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 政治と金の問題が永田町を揺るがしている。ANNの調査によると、政治資金問題で派閥からのキックバックを収支報告書に記載していなかった国会議員は議員辞職する必要があると考える人が65%にのぼった。しかし経済学者の竹中平蔵氏は「川の水が清すぎると魚は住まないのです」と話す。「社会のリダンダンシーの中で『そういうことは起こり得るな』と社会が許容度を持つべきだ」。一体なぜなのかーー。

グレーの部分をある程度許容することが健全な社会には必要

 社会の中にはリダンダンシー(冗長性)は必要だと思っています。川の水が清すぎると魚は住まないのです。悪でもなければ善でもない。そんなグレーゾーンの部分については、ある程度許容することが健全な社会には必要です。

 松下幸之助は「心に縁側を持て」という風に言いました。縁側とは外か内か曖昧な部分です。

 例えば、先日ダボス会議に行ったとき、海外の要人に驚かれた問題がありました。自民党議員の不記載問題です。日本では大騒ぎになっていますよね。

 松野博一前官房長官は自ら派閥から還流された分の政治資金収支報告書への不記載額が2018年から5年間で計1051万円だったと文書で発表しました。5年間で1000万円、1年間だと200万円です。

年間200万円の不記載で過剰にガタガタすべきではない

 年間200万円の不記載だけで大臣クラスが辞めるというのは、海外ではビックリされます。海外で大臣クラスが辞めるとしたら「50億円を使い込んだ」くらい話がないと……。

 決して好ましいことではないのは事実です。悪いことだけれども、その社会のリダンダンシーの中で「そういうことは起こり得るな」と社会が許容度を持ってないと。年間200万円の不記載で過剰にガタガタすべきではないです。なぜなら全員が潔癖でないといけないとなると、社会はなかなか成り立たたなくなります。

 この根本問題は不記載したかどうかではなく、今の政治はお金がかかりすぎるということです。要するにお金のかからない政治にわれわれは変えていかないといけない。

 現状、政治家はお金がかかってしまうのです。例えば国会議員は県議会議員や市議会議員から運動費を求められます。ですがこんなの簡単で、一切現金を配ってはいけないとルールを作ればいいのです。全部デジタルで決算しなさい、と。そういうことを議論するべきであって、年間200万円の不記載があったから「大臣を辞めろ」と圧力をかけるというのは、これはやっぱり違うと思うのですね。

大切なのは問題が起きた原因を議論すること

 結局、これは自分に対する不満を他人にぶつけている状況なんです。以前に書きましたが、人々の不満が募れば募るほど、こういった誰かの足を引っ張るような、読者が溜飲を下げるような記事のニーズは増していきます。はっきり言えば、読む人がいなければこうした記事の発信をしているメディアは経営が成り立たなくなるわけですから、そもそも読む人にも責任があります。社会がいくら暗くても、それぞれやりがいを持って生きていたら、そんなころどうでもいいと思うはずです。読む側に、自分なりに明確なやりたいことがあって、それに向かって努力していたら、それが成功しつつあったら、単に他人の足を引っ張るだけような記事に「いいね」なんてしません。

 繰り返しますが、不記載はよくないです。よくないのだけれども、大臣を辞めさせて一部の国民の溜飲を下げさせればいいのかというと、そうではないはずです。そもそも、こういう問題が起きたのはなぜなのか、そういう議論をするのが健全な社会だと思っています。

派閥を解散させることよりももっと重要なこと

 そして今派閥解散の問題が起きていますが、これは国民のフォーカスを逸らすためにやっているだけではないか?派閥の問題は重要ですが、それと金の問題は別々に考えなくてはいけません。

 派閥を解散させることよりももっと重要なことがあります。それは「政党とはどういう風にあるべきか」という問題です。これは政党ガバナンスの問題です。会社には会社法がありますが、政党には政党法がありません。政党交付金をもらっているのだから、本来は政党法があってしかるべきです。

 自民党の党員は110万人、アメリカの民主党党員4700万人、共和党3500万人。一体なんなんだこれは。この違いはなんなんでしょうか。単純な日米の人口比ではないのは見れば分かると思います。

日本でも政党法をつくれば石破氏や小泉進次郎氏も総理に?

 政党法があって、その下で党員の選挙で党の代表を決めろということになっていれば、党員も増えるでしょう。自民党の党員は総裁選で党員票をもっていますが、1票の重みが非常に低いですし、過去には党員投票なしで行われた総裁選もありました。

 アメリカでは、党員たちが自分たちで党代表を選んだと実感を持てる仕組みになっています。だから多くの国民が党員になるのです。日本には政党のガバナンスを効かせる仕組みがないのです。政治資金の問題にしても、自分たちで自分たちのことを決めているから穴がいっぱい生まれます。日本でアメリカのように総裁選が行われれば、石破茂氏や小泉進次郎氏が自民党総裁になっているかもしれません。

 政党法を作って、それによってガバナンスがちゃんと効くようにする。そのガバナンスを効かせる一つの手段として現金を配ってはいけない、デジタル決済にしないといけない、といった議論が出てくるわけです。つまり政党法がないという根本原因を解決しないと、この問題は議論してもあまり意味がないのです。

完全に捨て身な岸田総理に期待

 今岸田文雄政権は支持率低迷に悩まされているだけではなく、麻生太郎氏との関係も切るなど、完全な捨て身状態です。そんな中で、岸田総理があっと驚くような法案をぶちあげる可能性も否定はできません。そうすれば与党だけでなく野党も困ることになるので、そこから解散という流れもあるかもしれません。

 いずれにせよ、今求められているのは、日本に政党法がないという根本問題を解決することです。捨て身となった総理にはそのことを期待したいと思います。