常連客の柴崎明里(金澤美穂)の恋愛成就報告などがきっかけで「ありすのお勝手」はたちまち恋愛にまつわる悩みを解決してくれるパワースポットとして話題になり、連日行列ができる大人気店として賑わいを見せる。

『厨房のありす』(日本テレビ系、毎週日曜22:30〜)第6話では、お店の繁盛と同じくらい酒江倖生(永瀬廉)を思う八重森ありす(門脇麦)の好意も大渋滞を起こし忙しなく成長を見せる。

“ラブイズアクション”を履き違えてしまったありすから倖生へのアプローチの数々は斬新を極め、微笑ましい。そしてそれを無視したり拒絶するのではなくただただ困惑するだけの倖生の優しさが終始光る。ただ打算も裏表もなく周囲の目も気にしないありすのアプローチはひたむきで、自分の気持ちを引っ込めてばかりいる松浦百花(大友花恋)からすればなかなか受け入れ難く歯痒いものなのだろう。倖生のバイト先でもある心護(大森南朋)の研究室にお弁当の差し入れをしたありすは、倖生にだけは彼が好きなメニューだけをめいっぱい詰め込んだあからさまなスペシャルお重弁当を手渡す。バレンタインのチョコレートさえ渡せなかった百花にとっては、皆の前でこんなに堂々と好意をダダ漏れにできるありすのことが羨ましくもあり煩わしく思えるのだろう。お店も皆に手伝ってもらい、周囲に味方してもらえて守られていて……そこに倖生への好意まで相まってどうしたって百花はありすにきつく当たってしまう。

「迷惑だから。普通わかるでしょ、それくらい。空気読んでよ」「倖生くんだって迷惑だと思ってるから。気使ってるに決まってるじゃん。明かに引いてたし」「皆あなたが可哀想だから優しくしてるだけだから。いいよね、そうやって可哀想ぶってれば皆に構ってもらえて。皆から大事に大事に守ってもらえるんだから」と、次から次に自分の口から溢れ出る言葉を止められない百花のことも見ていられない。確実に相手を傷つけてしまうとわかっていながらも言わずにはいられず、同時に口を突いて出る自分の言葉に幻滅し罪悪感と自己嫌悪が募っていく。ありすが自分のことを責めてくれたならばまだ楽なのに、ひたすら謝るばかりでますます歯止めが効かなくなってしまう百花。切羽詰まった彼女の様子に必死さと余裕のなさが滲む。しかしこんなにムキになるなんて、最初にありすを見た時に百花がどこかで感じた“自分とは住む世界が違う”という線引きとそれゆえの優越感や安心感とは正反対の感情が巻き起こっている。

一方、百花に理不尽とも言える怒りを一方的にぶつけられたありすは、彼女の言い分を認め、そして心護に言う。

「私は変わりたいです。私もみんなのように大切な誰かを守ったりできたら良いなと思います。私も大切だと思う人を守れる強い人になりたいです」

ASDという本人の努力ではどうにもならないことを一方的に責められたのに、こんなふうに思えるありすは既に十分強い。

倖生の“ラブイズアクション”に引き出される2人の駆け引きなしの本心

この思わぬ大行列はありすと倖生に招かれざる客を呼ぶ込む。ありすが1人で臨んだウェブ雑誌の取材では、記者は彼女が心を込めて作った料理に一切箸をつけようともしない。そして「逆境に負けないASDの料理人」という勝手なレッテルを貼り、それに沿った取材に終始しありすにASDのことしか質問しない。土足で人の心を踏み荒らすとはこのことで、記者失格だ。

これまで「犯罪者の息子」というレッテルを貼られ、自身の内面は一切見てもらえない経験ばかりしてきた倖生にはこの無念さが痛いほどよくわかるのだろう。記者が残していった料理を「まじ勿体ないよね、こんなに美味いのに」「めちゃくちゃ美味い」と勢いよく頬張る倖生の姿は、ありすの全てを力強く全肯定してくれる。これぞまさしく“ラブイズアクション”ではないか。ありすと倖生という同じ種類の痛みを抱えた2人が一緒にいても“傷の舐め合い”に終わらないのは、倖生がありすに常に笑っていて欲しいと願っているからだ。そして、ありすもまた倖生に自分が幸せにしてもらっていることを全身全霊で伝えている。