「靴の中はずっとぐちゃぐちゃ」能登半島地震で災害派遣に向かう自衛隊員が持参する装備品のモロさ

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【救援物資の徒歩搬送と靴】

能登半島地震では道路が崩落した陸路が使えず救援物資が届かないことが大きな問題だった。孤立した集落へ水や食料等を届ける方法は徒歩搬送しか方法がないこともあり救援活動も難航している。傾斜の強い歩きにくいガレ場を重い物資をせおって自衛隊員たちは歩いている。滑りやすい急角度の山道を歩くだけではない。瓦礫が積みあがり、錆びた釘が突き出ているような危険な場所での救助作業もあり、釘などを踏んで足の裏に突き刺してしまう踏み抜き事故などもある。被災地では隊員達の一つ一つの装備品性能は非常に重要だ。今回は、実際に被災地で起こる怪我と自衛隊の装備品について考えたい。

自衛隊員は大多数が標準装備で戦闘靴(半長靴)2型という官給品を使う。これは救助や被災地作業に最適な靴ではないことがわかった。戦闘靴は長時間歩行で疲れにくいことを重視しており、耐踏み抜き防止効果は乏しい。安全靴JIS規格の強度の半分ほど、600N以上で踏み抜けてしまう。

「踏み抜き事故は最悪、脚の切断となります。足の裏の皮膚は厚いため、踏み抜いた異物に付いた細菌やウイルスが足の裏に残りやすく、洗浄が困難だからです。釘のような細いものでも命取りになります。現場には魔物が居るもので疲労困憊していれば注意力は散漫になりがち。故に装備で防護することが重要」自衛隊員は言う。

「(東日本大震災時の)会報で相次いで踏み抜き事故の発生報告があった。私も直接2件の事例をみました。水没で道路を通行できないため、屋根を飛んで移動していた際に木材に刺さっていた釘を着地時に踏み抜いた事例です。衛生隊(医師)がいるグラウンドまで後送し処置後2〜3日間休暇になったのではないかと思います。後々に踏み抜き中敷が支給されました」自衛隊員が当時の事例について証言してくれた。

災害派遣経験のある自衛隊員はコンバットブーツや米軍が採用している鋼鉄製のインソール等を自腹で買う。自分の身は身銭を切って自分で守るしかないのが現状だ。

【靴や雨具の防水性能】

自衛隊の戦闘靴は防水性能のある素材を使っているが、交換頻度が低い。傷がつき防水性能を失っても交換してもらえない。写真の靴も現役だがすでに7年経過している。災害派遣時、冷たい水に長時間さらされた足は、記事の一番上の足の裏の画像に見られるように 最初はむくみ、痛みがでて潰瘍となる。放置すると最後は組織が壊死する「塹壕足(trench foot)」になるリスクがある。

「何があっても自衛隊員は文句を言わずに作業しています。だから、後から大変なんですよね。あと、水の中だって半長靴で入るし被災地のため、靴の中を乾かすことも履き替えることもできず、ずっと靴の中はぐちゃぐちゃです」

踏み抜き事故や塹壕足は我慢せず医療スタッフに送る共通認識が必要だ。上官も隊員も足に異変を感じたら、即座に現場から離脱させ、後方の医療部隊に送る認識を共有してほしい。真面目な自衛隊員は作業に集中するあまりリスクを軽視する。我慢すれば足に障害を持つことになりかねない。

自衛隊の官給品の雨具にもフード等に水が浸透しやすい問題点がある。気温が低い状態で長時間、水が浸透した雨衣を着用すれば低体温症の原因となる。災害派遣に慣れた古参の隊員は登山用品等の優秀な雨具を自費購入している。自衛隊の官給品では耐えられないからだ。米軍は雨具を4種類、重ね着で状況に合わせて雨をしのぐという。装備にお金をかけなければコンディションを維持できないことを米軍は知っている。

自衛隊の官給品の手袋は滑りやすく破れやすい。これまで、災害派遣時に自衛隊員は作業用の手袋や軍手を大量に自腹購入してきた。作業用の手袋や皮手袋、ゴム手袋を状況に合わせて使う必要があるため、隊員は自己投資することになる。怪我をして辛いのは自分達だから仕方ないと彼らは言う。

令和5年7月の「防衛省の自衛隊被服の改善について」という文章では、自衛隊員の手袋等を現状の2セットから4セットに令和7年の概算要求で上げると記載されている。その後、「先の参議院・外交防衛委員会で戦闘靴は元より手袋や靴下まで質と量両方の要請をしたところ、木原大臣自ら大変有り難い回答をいただきました。この度の災害派遣に間にあってくれば幸いです。今後も事ある度に確認してまいります」と参議院の若林洋平議員から報告があった。間に合ってくれればいいと思う。

【懐中電灯と電池も自己負担】

災害派遣の現場ではライフラインが途絶して停電していることが多い。夜間でも救助活動は続けられるため、ライトは重要な装備品だ。自衛隊では官給品が当直用に僅かにあるだけで隊員一人一人にあるわけではない。豆電球であるため、電池が大量に必要になり、さらに光量が乏しい。使うときには手持ちやポケットに挟むが、不安定で落としやすい。

派遣中の自隊員たちは各々別のメーカーのヘッドライトを装着している。ヘルメットに装着できる懐中電灯は両手が使えて便利だ。

官給品の懐中電灯は自衛隊で電池代が負担されるが、私物は隊員個人が電池代を負担する。自衛隊内では組織が性能の優れている用具を十分に準備してくれないため、自分達の道具は自腹で買うことが定着しており、それくらいは買ってくるのが当然という風潮がある。事前に購入してこなかった隊員は現場で辛い思いをする。万全に準備を整えようとすればするほど負担は大きくなる。自衛隊は、不満があれば辞めればいいとしてきた。

これは令和5年防衛省第一回有識者検討会議が公開した資料の一部だ。令和3年度では退職者数が入隊者数を上回っていることがわかる。退職者数(理由別)で見ると中途退職が5742名と退職理由の中で最も多い。自衛隊では度重なる定年延長を繰り返し人員の流出を抑えているが、効果は薄いようだ。このままでは現員を維持することも難しくなる。組織が隊員を大切にしなければ、帰属意識は低下し人は離れてしまう。不満があれば辞めればいいと切り捨てるのではなく、隊員の声を受け止めて職場環境を改善する努力が自衛隊には必要だ。

取材・文・写真:小笠原理恵
国防ジャーナリスト。関西外国語大学卒業後、フリーライターとして自衛隊や安全保障問題を中心に活動。19年刊行の著書『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。公益財団法人アパ日本再興財団主催・第十五回「真の近現代史観」懸賞論文で最優秀藤誠志賞を受賞