購入意図がある富裕層の顧客に正面から取り組むと同時に、ライフスタイルについても発信しているラグジュアリーブランドが、Pinterestへの投資を増やしている。

「Pinterestはラグジュアリーブランドのプロモーションにとってきわめて重要なプラットフォームになりつつある」と語るのは、ツイステッド・リリー(Twisted Lily)のデジタル戦略およびコミュニケーション部門責任者、オリヤ・バー氏だ。このマルチブランドのeコマースサイトは、バイレード(Byredo)などのラグジュアリーフレグランスを販売しており、扱う商品の最高価格は3000ドル(約42万円)となっている。「Pinterestでは、私たちの製品に対するすばらしいエンゲージメントや多くの関心を目にしている。そこで2024年にはPinterestがマーケティング戦略と予算の大部分を占めることになる。さらに深く活用していく」。

新たな牽引力を獲得するPinterest



ラグジュアリーブランドがソーシャルメディア戦略に対してさらに戦略的になり、リソースを再優先する中で、Pinterestが新たに注目を集めている。貴重なユーザーベース、盛んな製品カテゴリー、最近ローンチされたツールや、発見とストーリーテリングといった点に加え、まだそれほど混雑しておらず、商取引の機会があることから、ラグジュアリーなクライアントの数が増えている。あるクライアントはPinterestキャンペーンを成功させて投資額を増やしており、また別のクライアントは新たにPinterestを採用し、オーガニックな成功の可能性を認識している。

Pinterestのラグジュアリー責任者、ケリー・エマニュエリ氏は次のように話す。「2023年は、特にヨーロッパにおいて多くのラグジュアリーブランドにとってターニングポイントとなった。インスピレーションからコンバージョンへと移行している。ラグジュアリーブランドのPinterestキャンペーンは、上部ファネルの認知キャンペーンからeコマースキャンペーンへと変化した」。

エマニュエリ氏が言及した例に、YSLボーテ(YSL Beauty)が母の日に向けてPinterestで初めて行った「フルファネル」キャンペーンがある。このキャンペーンには動画広告と静的広告が含まれており、購入にいたるまでの各段階に合わせたユーザーターゲティングも行われた。成功の指標として、同ブランドはターゲットオーディエンスの84%にリーチし、eコマースサイトでの売上が23%増加、プロモーション対象のフレグランス、リブレ(Libre)の認知度が10%上昇した。

「現在、YSL(ボーテ)は(概して)マーケティングファネルの各段階でPinterestを活用している」とエマニュエリ氏は述べている。

ハイエンドの消費者とのエンゲージメント促進に効果的



エマニュエリ氏がPinterest戦略で成功した別のブランドとして名前を挙げたのは、ディオール・クチュール(Dior Couture)、ラルフ・ローレン(Ralph Lauren)、キャロライナ・ヘレラ(Carolina Herrera)、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)などだ。ルイ・ヴィトンは、2023年初頭に日本人アーティスト草間彌生氏とのコラボレーションを宣伝するため、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペインにおけるラグジュアリー、ファッション、ビューティに関心のあるユーザーに最大限リーチすることを目標に、Pinterestで動画キャンペーンをローンチした。その動画は3日間で350万人以上のユーザーにリーチしている。

ツイステッド・リリーはかつてはブルックリンの小売実店舗だったが、2020年3月にフレグランス販売会社のユーロパフュームス(Europerfumes)に買収されて以降、そのポジショニングを刷新する計画の一環としてPinterestを活用してきた。同社では製品のキュレーションの見直しに加え、Google、Facebook、インスタグラム広告、新しいTikTokチャンネル、PR、実質的なインフルエンサーやアフィリエイトプログラムなど、多様なマーケティングミックスをローンチしている。

「Pinterestは、ハイエンドの消費者とのエンゲージメントを促進するのに本当に効果的だ」とバー氏は述べた。「これらの(買い物客には)すばらしい消費習慣と、ラグジュアリーに対する強い関心がある」。

ラグジュアリー商品の市場規模は、2030年までに倍増すると予想されており、その原動力となっているのはZ世代の消費力だ。11月のPAコンサルテング(PA Consulting)のデータを参照したエマニュエリ氏によると、Pinterestのユーザーは「富裕層で若く」、購買意図を持って同プラットフォームに向かい、「他のソーシャルプラットフォームのユーザーよりもラグジュアリー商品を購入している」。

ショッピングやインスピレーションの目的地としてのPinterest



Pinterestによれば、月間ユーザー4億8200万人の半数以上が、同プラットフォームをショッピングの目的地と考えている。また、PAコンサルテングによると、全体的にPinterestは、ラグジュアリーを購入する際のインスピレーション源の目的地として第一位となっている。ラグジュアリーユーザー(60のトップラグジュアリーブランドのうちのひとつのピンを検索または保存したことがあるユーザー)のうち、70%が35歳以下で、5人に4人が女性である。一方、5人に3人がラグジュアリーブランドやその商品のリサーチにPinterestを利用している。他のソーシャルプラットフォームと比較して、Pinterestのラグジュアリーユーザーの35%は6桁の給与を得ている可能性が高く、3人に1人は少なくとも年間10万ドル(約1424万円)を稼いでいる。グローバル ウェブ インデックス(Global Web Index)によると、そうしたユーザーはラグジュアリーアイテムに87%多く支出し、高級品を購入する確率が27%高い。

「誰かがラグジュアリーブランドのピンをムードボードに保存すると、購買意図が高まる」とエマニュエリ氏は言う。過去3年間で、個人の贈り物や個人的なウィッシュリストに関連するボードがさらに人気を集めていると、同氏は指摘した。

Pinterestにはクリエイティブな人々のコミュニティがある



バー氏は、Pinterestの中心的なピン留め機能は、自社のフレグランスを発見してもらう機会に注力しているツイステッド・リリーにぴったりだという。たとえば同社のeコマースサイトでは、AIを搭載した「セントジニー(ScentGenie)」などのツールを提供しており、買い物客の 「理想の香り」に関連する投稿された言葉に基づいて、3つの商品をレコメンドする。サンプリングもまた優先事項であり、「大きな」成功を収めているという。

ツイステッド・リリーのフレグランスは、たとえば「チェリーガール」や「クリーンガール」の美学をテーマにしたムードボードに掲載されており、香りはその人の個性やルック、ライフスタイルの延長であるという考え方が広まっていることを裏付けている。

「(Pinterestでは)信じられないほどクリエイティブな人々の大きなコミュニティがあり、そうした人々のアイデアがオープンにそこに存在している」と、バー氏は発見の可能性の「複雑な網」について説明した。

またバー氏は、投稿をブログコンテンツにリンクさせることで、Pinterestを通じてより多くのストーリーテリングを促進する機会があると述べた。一方、エマニュエリ氏は、ブランドが商品カタログのフィードを確立することで、Pinterestのユーザーがワンクリックでオーガニックにeコマースサイトでショッピングできるようになる点を強調している。

他のプラットフォームが飽和する中での大きな可能性



エマニュエリ氏によると、ホリデーシーズンを除けば、ラグジュアリーブランドに関連するPinterest検索のほとんどは、ファッションショーやメゾンのデザイナーを含む「ブランドの世界」に関連するものだという。だが9月下旬からクリスマスまでは、商品が上位を占める。

「Pinterestは、製品がソリューションとして歓迎される唯一の(ソーシャル)プラットフォームだ。それは追加的なものであり、邪魔なものではない」とエマニュエリ氏は述べた。

ツイステッド・リリーでは、Pinterestとは別に、今のところブランドで混雑していない他のプラットフォームも新たに模索しており、そこにはRedditが含まれているという。

「他のプラットフォームはかなり飽和していて、あまりにも高価になっているので、次に来るのが何かを見きわめようとしている」とバー氏。「それらの外に目を向ける必要があり、現時点では新たな選択肢はあまり多くない」。

2024年、ツイステッド・リリーはPinterestにさらに力を入れる計画であり、広告の開始や専属ブランドごとのアカウント作成、新しいクリエイターツールの活用、同プラットフォームでますます注目を集めるインフルエンサーへの投資などを予定している。

「大きな可能性を秘めている」とバー氏は語った。

動画視聴率の高さ



Pinterestでのプレゼンスに新たに力を入れているブランドに対して、エマニュエリ氏は動画の活用を推奨した。2020年のグループM(GroupM)のデータでは、Pinterestの動画視聴率が他のソーシャルプラットフォームの3倍となっているというのが主な理由だ。またブランドの製品カタログを統合し、クリエイティブ資産をPinterestのオーディエンスに合わせることもアドバイスしている。

Pinterestによると、Z世代はもっとも急成長している最大のユーザー層であり、ユーザーの40%を占め、前年比で20%増加している。

[原文:Luxury Briefing: Pinterest will be a ‘crucial platform’ for luxury brands in 2024]

JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)