近年は若者のメンタルヘルスの悪化が社会的な問題になっており、どういう要因がメンタルヘルスを悪化させるのかを調べる研究が各国で進められています。イギリスのユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのチームが行った研究では、「大学に通っているイギリスの若者は、大学に通っていない同年代の若者と比較してうつ病や不安症(全般性不安障害)のリスクが高い」ことが判明しました。

The association between higher education attendance and common mental health problems among young people in England: evidence from two population-based cohorts - The Lancet Public Health

https://www.thelancet.com/journals/lanpub/article/PIIS2468-2667(23)00188-3/fulltext



New Research: Higher Education Linked to Increased Risk of Depression and Anxiety

https://scitechdaily.com/new-research-higher-education-linked-to-increased-risk-of-depression-and-anxiety/

うつ病は全般性不安障害は最も一般的な精神疾患であり、女性の場合は12〜13歳頃、男性では16歳頃から急激に増加し、20代になっても発症割合は増加し続けます。近年では大学や大学院などの高等教育を受ける若者がメンタルヘルスの問題を抱えるケースが増えていますが、精神疾患のリスクが高等教育を受ける若者とそうでない若者でどう違うのかはよくわかっていません。

一般に、高等教育を受ける若者の親はより高学歴・高収入である可能性が高いため、社会経済的地位がメンタルヘルスに及ぼす過去の研究結果に基づけば、学生はメンタルヘルスがより安定していると予想されます。しかし、学生はより多くの学問的・社会的・経済的ストレスを経験する可能性が高く、これがメンタルヘルスに悪影響を与える可能性もあると考えられます。



研究チームは高等教育を受けることがうつ病や全般性不安障害のリスクを高めるのかどうかを調べるため、イングランドに住む若者を対象にした縦断調査・Longitudinal Studies of Young People in Englandのデータを使用しました。

被験者は1989〜1990年に生まれて2007〜2009年に18〜19歳だった人々と、1998〜1999年に生まれて2016〜2018年に18〜19歳だった合計約1万1000人が含まれており、いずれのグループも半数強が大学などの高等教育課程に進学していたとのこと。

データを分析したところ、18〜19歳の若者は高等教育を受けている方がうつ病や全般性不安障害のリスクがわずかに高いことが判明しました。この関連性は、社会経済的地位や親の学歴、アルコールの使用歴といった要因を調整した後も持続したとのこと。

今回の研究では、高等教育を受ける潜在的なメンタルヘルスのリスクを排除した場合、18〜19歳のうつ病と全般性不安障害の発生率が6%減少する可能性があることが示唆されました。一方で、両者のメンタルヘルスのリスクは、25歳になった時点で差がなくなったと報告されています。



論文の筆頭著者であるタイラ・マクラウド博士は、「学生が同い年の若者よりうつ病や全般性不安障害のリスクが高い理由を言うことはできませんが、学業や経済的なプレッシャーに関連している可能性があります」「高等教育を受けている学生は平均的に恵まれた環境におり、そうでない若者よりもメンタルヘルスが良好であることが予想されていたため、今回の結果は気がかりです。学生が直面しているメンタルヘルスのリスクを明らかにするには、さらなる研究が必要です」とコメントしました。