フレグランスは大躍進している。実際、2023年はフレグランスの1年だったという人もいるかもしれない。

各ブランドで好調な業績のフレグランス



クリスチャン・ディオール(Christian Dior)やステラ・マッカートニー(Stella McCartney)を含むLVMHのフレグランス・化粧品部門は、今年上半期に前年比で13%成長した。一方、ロレアル(L’Oréal’s)のリュクス部門は、YSL、プラダ(Prada)、ヴァレンティノ(Valentino)の香水の売上のおかげで、全地域でフレグランスが2桁成長を記録したと報告している。グッチ(Gucci)を所有するケリング(Kering)は7月、全額現金の38億3000万ドル(約5623億円)でクリード(Creed)を買収した。これは、ロレアルがフレグランス・ボディケア会社のイソップ(Aesop)を25億ドル(約3671億円)で買収した直後に行われた。

フレグランスは不景気な四半期に明るい兆しを見せている。エスティ ローダー カンパニーズ( Estée Lauder Companies)は、11月の初めに、2024会計年度第1四半期の純売上高が全体で10%減少したにもかかわらず、ルラボ(Le Labo)やトムフォード(Tom Ford)を含む同社の全ブランドでフレグランスの売上が増加したと報告した。
スタティスタ・マーケット・インサイツ(Statista Market Insights)によると、に米国のフレグランス市場は今年87億2000万ドル(約1.3兆円)の収益を生み出すと予測されている。スタティスタは、高級品と大衆向け製品の間の継続的な分岐や、ニッチな香りに対する新たな消費者の関心など、フレグランスは今後10年間にわたり新しい方法で成長し続けるだろうと報告している。フレグランスは2028年までに米国経済に94億8000万ドル(約1.4兆円)をもたらす可能性がある。

フレグランス顧客を獲得する機会の拡大



しかし、この成長を推進しているのは単に良い香りだけではない。フレグランス顧客を獲得する隠れた機会が多く存在している。

フレグランスブランド、フラー(Phlur)のオーナー兼クリエイティブディレクターのクリセル・リム氏は、「以前は、自分の特徴的な香り、つまり、毎日纏うのはその香りだけだった」と、11月のGlossyビューティ&ウェルネスサミットのパネルディスカッションで語っている。Z世代については、「この世代にとって、自分が選ぶ香りは、どれも気分やファッション、服装に関係している。フレグランスをワードローブとして捉え、自分にアピールするものを選ぶだろう」と述べた。

これまでの世代は自分の特徴的な香りについては口を閉ざしていた。他人に使っている香水のことを尋ねるのは失礼だと思われていたからだ。だが、Z世代はTikTokでフレグランスについて長々と議論しており、TikTokではハッシュタグ #PerfumeToを介してフレグランスに関して53億件以上の投稿が寄せられている。

FDAによる香料アレルゲンの表示義務



このフレグランス特急は無敵のようだが、舞台裏では、隠しておきたい秘密がまもなく明るみに出るという噂があり、それにより現状が混乱する可能性がある。年末には、2022年化粧品近代化規制法(MoCRA)により、米国の規制当局であるFDA(アメリカ食品医薬品局)が、場合によっては米国では明らかにされていなかった成分ラベルについて前例のない検討を行うことになる。

美容業界を規制する米国の80年以上ぶりの大きな動きであるMoCRAは、ブランドに対して、製造施設の登録、適正製造基準の順守、製品への副作用の報告、成分リストをFDAと共有することを義務づける。また、強制製品リコールを発令し、消費者に一般的なアレルゲンを警告する新たな権限をFDAに与える。現在では一般的なアレルゲンは製品パッケージに印刷されなければならない。

フレグランスの抜け穴とは?



「全体像が変わるのを期待している」と述べるのは、高級フレグランス、ヘンリーローズ(Henry Rose)の製品開発ディレクター、ビニタ・ジャヤン氏だ。「安全性の実証が強化されるとともに、サプライチェーン全体の透明性がさらに高まることになるだろう。知ってのとおり、フレグランスとは、規制されておらず、潜在的に有害な何千もの成分を総称する言葉だった」。

ジャヤン氏は、フレグランスを使用するブランドがブランド保護の名目で成分を消費者から隠すことを可能にしている、いわゆる「フレグランスの抜け穴」について言及する。「フレグランスは3000種類以上の成分が含まれているにもかかわらず、単一の成分としてリストに掲載することができる」のだという。

香りは商標登録できないため、FDAは香りを知的財産として分類している。それゆえ、ブランドは、香りを構成する実際の成分の代わりに、成分ラベルの末尾に「フレグランス」または「香水」という単語を追加することが許可されている。これは、香水や香りつきの美容製品やパーソナルケア製品、清掃用品、香りがついているあらゆる製品に該当する。

批判者らは、フレグランスという言葉のなかにフレグランスとは無関係の余分な成分が隠されてしまうことがあるのではないかと疑問を呈しており、多くの消費者がフレグランス製品の安全性に疑問を抱くようになっている。

「香料が皮膚アレルゲンのトップなのは、香料には多くの成分が隠れているからだ」とジャヤン氏。「顧客が自分の肌に何をつけているのかを知るために、透明性は極めて重要だ。また、何らかの反応があった場合に備えて、何に注意すべきか、何を避けるべきかを知るべきだ」。

フレグランスには、パラベン、ホルムアルデヒド、エッセンシャルオイルなど、天然成分と合成成分が含まれる場合がある。また、クジラからのアンバーグリスや、小さなネコのようなアフリカの哺乳類、ジャコウネコからのムスクなどの動物由来の成分が含まれることもある。

MoCRAが12月に発効すると、FDAはこれらの成分リストの提出を義務づけることになるが、トップ香料メーカー、通常、フレグランスを製造・販売するブランドと成分リストを共有していない。

「ノーズ」と呼ばれる調香師は、通常、ジボダン(Givaudian)、インターパルファム(Inter Parfums)、インターナショナル・フレーバー・アンド・フレグランス (International Flavors and Fragrances、略称IFF) など、香りの製造を監督している香料メーカーで働いており、処方の所有権は通常メーカーにあり、ボトルに印刷されているブランドにはない。

「これは大きなブラックボックスだと思う、そう思わないか?」と、ジャヤン氏は、ブランドでさえも自社が販売している製品に何が入っているのか理解していないかもしれないと言う。「これが特にブラックボックスだと思うのは、(トップ香料メーカーには)何年も前から存在している製品が非常に多いからだ。一部のブランドにとっては、(MoCRAに準拠することは)さらに大きな変化となるだろう」。

これが、売上ブームにもかかわらず、今年、フレグランス業界においてMoCRAの今後の変更が注目され続けている理由だ。専門家らによると、義務づけられた際、香料メーカーは成分リストを直接FDAに提出する可能性が高いという。そうなると、来年になってもブランドは原材料について知らないままかもしれない。

MoCRAでは、製品に含まれる一般的な香料アレルゲンに対する安全性試験と消費者への可視性も義務づけられており、現在ではアレルゲンを成分ラベルに印刷しなければならなくなっている。フィラデルフィアのデュアン・モリス法律事務所(Duane Morris Law Firm LLP)のアソシエイト、ケリー・ボナー弁護士は「FDAからは、企業が『(成分の)重大な有害事象について、その発生を知った日から15日以内に』FDAに報告することも求められている」と述べている。これには、感染症や「重度かつ持続的な発疹、第2度または第3度の熱傷、著しい脱毛、持続的あるいは顕著な外観の変化などを含む重大な外観の損傷」が含まれる。

それでも、規制支持者の大部分からはルールの厳格化が依然として求められている。「MoCRAは手始めとしては良いが、すべての香料アレルゲンの開示が規制されているわけではなく、感作を超えた健康上の懸念がある」と述べているのは、環境ワーキンググループ(Environmental Working Group)の健康生活科学担当シニアバイスプレジデント、ホーマー・スウェイ博士だ。「香料アレルゲン以外は、非公開の香料はラベル上ではジェネリック香料として引き続き許可されることになる。……懸念のある購入客は、個々のブランドが設定した自主的なフレグランス開示の寄せ集めにまだ対応しなければならない」。

しかし、国際的な大手香料メーカーに依存せずに高級フレグランスを作ることには課題がないわけではない。女優のミシェル・ファイファー氏が2019年に立ち上げたヘンリーローズは、フレグランスの抜け穴に対応してローンチされた。ファイファー氏は、高級フレグランスでは一般的な3000種類以上の成分からなるパレットの代わりに、深く研究されている300種類の成分のみからなるパレットを使うことにこだわった。最終的に、彼女は香料メーカーのIFFと、その2人の調香師、パスカル・ゴーラン氏とイブ・カサール氏とともに自社ラインを作成した。トップ香料メーカー抜きで最高の調香師と協働することはなかなかできないようだ。

内部関係者の多くは、成分開示において消費者の需要が生じると考えている。現在では、ヘンリーローズは使用している全成分を開示しているブランドの1社にすぎない。ロレアルはブランド全体でフレグランス成分の開示を2021年に開始しており、ビューティカウンター(BeautyCounter)、スカイラー(Skylar)、ワンシード(One Seed)、バイ・ロージー・ジェーン(By/Rosie Jane)はすでに自社サイトで全成分の開示を行っている。

「顧客からは何よりも透明性が求められている」と、バイ・ロージー・ジェーンの創業者兼CEOのロージー・ジョンストン氏は述べている。「顧客はこれまで以上に成分についての知識を深めている。

独立系香料メーカーの取り組み



アルーア(Allure)の2023年度ベスト・オブ・フレグランス賞を受賞したステート・オブ・チェンジ(State of Change)という新しいフレグランスブランドも完全な透明性を提供しているが、この創業は創業者アシュリー・ファーストン・ポズナー氏による大規模な活動の一環である。インディーズフレグランス業界で15年間働いた後、彼女は今年初めにルセントラボ(Lucent Labs)ローンチ。ニュージャージー州拠点のインディーズ香料メーカー、ルセントラボは、将来の規制に対してさらに耐性があり、さらに安全な処方を構築したいと考えているブランドに透明で検証済みの処方を提供している。

「これは(不利な弱者が恵まれた条件の強者を負かすという)ダビデ対ゴリアテの状況だ」とポズナー氏は言う。「大手香料メーカーは(香りのノートの)パレット全体なくして、我々が同じくらい優れた処方を作れるとは考えていなかったかもしれない。なので、今年アルーアのベスト・オブ・ビューティ賞を受賞したときは嬉しかった。クリーン部門(という限定された部門での)受賞ではなかったから」。

ルセントラボは、テスト、安全性データ、正確な成分リストすべてを提供する香り作成のためのワンストップショップとして機能している。ポズナー氏が気づいたのは、今日の新規ブランドは、ただ良い香りだけではなく、一致した価値観を持つフレグランスの専門家を求めているということだ。

「ある成分に関して何か(否定的だったり危険なこと)が明らかになった場合、ブランドは自社製品にはそれが含まれていないという確認の声明が出せるようにしたいと考えている」とポズナー氏。「(規制の強化で)状況が変化し、FDAが次の50種類のアレルゲンに対してラベル表示を義務づけたら、ブランドは安全性について疑問がないようにしたい。……その情報を得ていれば、ブランドの仕事が最小限に抑えられる」。

ポズナー氏によると、ルセントラボとの提携を申し出ているブランドのトップカテゴリーは、ウェルネス、ヘアケア、洗濯、清掃、ほかの家庭・パーソナルケア分野だという。これらのブランドは、政府の規制に合格できないとか、重要な第三者認証を取得できないとか、小売業者の新しいクリーン基準に準拠できないなどの理由から、新しいフレグランスを必要としているか、使用しているフレグランスを交換しなければならないのだ。

ポズナー氏は、現在、ブランドの中には再処方に向けて奔走しているところがあるという逸話を語った。「認定を得るために、(彼女が協働しているあるブランドがメーカーからフレグランスの成分リストを入手して)何を変更する必要があるかについて話を始めるまでに2年かかった。2年あったら、そのブランドは新しいフレグランスを作ることができたかもしれなかったのだが」。

ポズナー氏は、規制や認定以外にも、成分リストを消費者に提示することには一定の魅力が伴うと述べている。「成分リストを公開したいなら、その会社は何かを精査したということになる。なので、自信を持って提示するだろう。……インターネット上では何もかもをバラバラにする人が増えているが、その企業は『当社の原料を調べてもらってかまわない』と言っていることになる」。

ポズナー氏はクリーンフレグランスに尽力しているが、政府の規制によるものであれ、消費者需要によるものであれ、透明性が最低条件となる可能性がある将来への準備も進めている。

ヘンリーローズは、パートナーシップやプライベートラベルを通じてクリーンフレグランスを新たなビジネスチャンスに変えることも視野に入れている。「ブランドとのコラボレーションや、フレグランス以外の他ブランドと協働してフレグランスに取り組む可能性について話し合っている」とジャント氏。「まだ行ってはいないが、将来的には必ず検討する」。

製品の透明性は最低条件



ほかの創業者らはクリーンで透明性の高いフレグランスをすでに最低条件と考えており、また今日のブランドのダイナミックな成長には必要だと考えている。

リム氏が2021年にビジネスパートナーのベン・ベネット氏とビューティインキュベーターのザ・センター(The Center)とともにクリーンフレグランスラインのフラーを購入したとき、チームはクリーンをブランドアイデンティティ全体ではなく属性の1つとして扱うことにした。「(フラーの前の所有者は)非常に強力でニッチなオーディエンスを構築してており、我々はこれを尊敬していた。我々が直面した課題は、クリーンビューティ愛好者のみを対象にマーケティングされていたことだった。それを超えたいと思った」とリム氏。「全成分の透明性は依然として保っている。フラーはクリーンなブランドだが、もうそれを売り込んではいない」。

その代わりに、まず香りや香りの背後にあるストーリーで顧客を魅了して、成分の透明性は購入の完了を後押しするものとして機能している。透明性は、10代の若者や若い成人を持つ親が子どものためにギフトを購入するときに求めている属性でもある。

「より若く、よりセクシーで、大衆にアピールするものとしてフラーをリブランディングすることが非常に重要だった」とリム氏。「だが、(顧客が)非常に高級な製品を手に入れていることは変わっていない」。

[原文:Fragrance sales are surging, so how will MoCRA change things in 2024?]

LEXY LEBSACK(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)