(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

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1989年に士郎正宗により発表された原作コミックを柱にして、様々なメディアミックスが展開されてきた「攻殻機動隊」。その最新作が神山健治監督・荒牧伸志監督がタッグを組んだ、現在Netflixにて全世界独占配信中の『攻殻機動隊 SAC_2045』だ。
2021年に公開された『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争』(2021)に続き、配信中のシーズン2(全12話)に新シーンを追加して新たな劇場作品としてリビルドさせた『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』がいよいよ11月23日(木・祝)に公開される。

前作に続き監督を務めたのは、『新聞記者』『ヤクザと家族 The Family』など社会的なテーマを扱った作品で注目を集める新進気鋭の映画監督・藤井道人。驚くべき情報量が詰め込まれた『SAC_2045』はいかにして「映画」として成立したのか、藤井監督に話をうかがった。

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――まず、前作『持続可能戦争』のオファーを受けた時のお気持ちは?

藤井 牧野治康プロデューサーからお話を戴いた時には、最初「どこかの藤井違いじゃないか?」と思いました(笑)。僕自身にアニメのバックボーンがあるわけでもないし、『攻殻機動隊』のタイトルは知ってはいても観たことがなかったですから。そこから実際に観てみたら確かに面白いんですけれど、「これで自分は何をやればいいのか?」というビジョンがまったく見えなかったんです。それが、この仕事を引き受けた理由です。

――面白いですね、何をすればいいかわからないのに?

藤井 実写作品で成功体験が増えていっている中で、いまだに挑戦していないことに自分はとても興奮を覚えるんですね。アニメはまったく知らない世界だったので「これは良い機会だな」と。「自分には誰も期待していないだろう」と正直思いましたし(笑)、神山(健治)監督と荒牧(伸志)監督との面談を経て、正式にお受けしました。

――神山監督・荒牧監督の印象は?

藤井 大学の先生みたいな雰囲気でしたね(笑)。引き受けた理由を「何をやればいいかわからないから」と正直にお伝えしたら「そういう答えを待っていた! 僕らはこのタイトルに長く関わってきたので客観視ができない。なので、新鮮な目線で劇場版を作ってもらえることに興味があるんだ」と。それでならば、自分は手掛けることができるなと。

――逆に言えば、客観視しかできませんものね(笑)。

藤井 そんな自分をなぜ牧野プロデューサーや監督のお二人が選んだのか、やっと理解できたのは、つい最近なんですけれど。

――どんな風に理解されたのですか。

藤井 SF・アクション・サイバーパンクなどという要素が打ち出されてはいるものの、この作品の根本には2045年における「社会と個人の問題」がある、ということです。自分も今まで『ヤクザと家族』『新聞記者』などで描いてきた問題が社会と個人の摩擦や葛藤を通して「自分の中でどう折り合いをつけていくのか」ということを継続して追いかけていたストーリーとどこかマッチしていたんだと思います。

――シーズン2のストーリーに関しては、どんな印象を持たれましたか。

藤井 あれだけ面白いのに、シーズン1はまだセットアップの状態だったんですよね。その大風呂敷を一気に回収するわけですが、Netflixならではの「一気見推奨」にすごくフィットした面白い脚本ですし、物語の最後に「あなたはどう思いますか?」という哲学的な提示をして終わるのが実に良質なエンターテインメントだなと思いつつ……いちファンでいたかったな、と(一同笑)。

――それだけ大変な作業が待ち受けていたと(笑)。

藤井 「やる」って言っちゃったのは自分ですからねぇ(苦笑)。『持続可能戦争』の時は、共同編集の古川(達馬)が『攻殻』の大ファンなので「まずはファン目線で一回まとめてくれ」と頼んだところ、いわゆる世界観の説明がすごく多かったんです。それを僕が観客目線で分かりにくいところをバキバキとはぎ取って起承転結をつけて、さらに続編の期待を煽るラストも用意したことで、作品として綺麗にまとめることができたんですね。

ところが、今回まとめるシーズン2は、もうセットアップが終わってあとは結末に向かっていくだけの全12話なので、気軽に削れるところがほぼないのがめちゃくちゃキツくて(笑)。

――確かにずっと大きなストーリーが動いていて、余計な部分はないですね。

藤井 あと監督が本作で伝えようとした、観た人それぞれの解釈に任せたシーズン2のラストシーンをそのまま置くと、観客は唐突に感じるんじゃないかとも思ったんですね。なので、新規のラストシーンを作ることでひとつの「映画」としてまとめることにしましたが、久々に痺れる作業になりましたね。

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

――前作は風呂敷を思い切り広げていったわけですが、あの内容を綺麗に閉じるのは並大抵じゃないですよね。

藤井 そうなんです。しかも、ドラマだと物語を群像的に描けるんですが、この映画は草薙素子を主人公とした目線で追いかけるものにしているので、その辺りも大変でした。新規ラストシーンは古川にも共同演出で参加してもらって、『最後の人間』というサブタイトルにふさわしい場所に辿り着けたと思っています。

――Netflixシリーズ版を映画に変換する際に、藤井監督の中で何らかの物差しのようなものはあったのですか?

藤井 要は「語り口」の違いなのだと思います。Netflixシリーズ版は速射的にいろんな要素を投げていくものですが、映画は一定の時間の中でドラマやアクションを用いながら、「最後の人間」というラストへ観客を飽きさせず連れていく、ということを強く意識しました。

――編集の良し悪しをジャッジするのは、やはり体感を優先される感じ?

藤井 体感ですね。今回30バージョン制作したんですが……。

――30! それはすごいですね。

藤井 複雑な物語を語りながら観客の体温を上げていき、最終的に監督たちの思うラストへと持っていく、という流れをつかむためにああでもない、こうでもないと推敲を重ねるうちに、それくらいの数になってしまいましたね。

――今回のアニメの仕事を経たことで、何か実写の仕事に持ち込むことができたことはありますでしょうか。

藤井 アニメーションの世界観の作り込みは、かなり細かいところまで出来上がっていることがすごいと感じまして、ここ数作ではそういう取り組みをするようになりました。いつかは『SAC_2045』みたいな世界観を実写で表現してみたい、と思います。

――今回のコラボレーションは非常に相性が良く、作品的にも面白いものになったと思うのですが、今後もこういう取り組みの話が来たら受けますか?

藤井 いや、こういう仕事は今回がラストじゃないですかね。同じことを繰り返すのはつまらないし、どうせやるならアニメのスタッフとまったく別の形でご一緒したいです。その方がネクストステップになるじゃないですか。

――では最後に、公開を楽しみに待つ方たちに改めて本作に込めた思いをお聞かせいただけますか。

藤井 劇場のスクリーンや音響と共に改めて触れる完結編は、Netflixシリーズ版で観るものとは別の充実感や豊かさを感じてもらえると思います。神山監督や荒牧監督、そして自分たちが提示した『最後の人間』というサブタイトルに集約されたラストが、観る方の未来を生きていくための指針だったり思考の一助になればいいな、と愛をこめて作りました。劇場でお待ちしております!

藤井道人(ふじい みちひと)
1986年生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業後、2010年に映像集団「BABEL LABEL」を設立。伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』(2014 年)でデビュー。以降『青の帰り道』(18年)、『デイアンドナイト』(19年)、『宇宙でいちばんあかるい屋根』(20年)、『ヤクザと家族 The Family』(21年)、『余命10年』(22年)『ヴィレッジ』(23年)、『最後まで行く』(23年)など精力的に作品を発表。
2019年に公開された『新聞記者』は日本アカデミー賞で最優秀賞3部門含む、6部門受賞をはじめ、映画賞を多数受賞。

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会