文筆家の大平一枝さんが、グリーンフィンガーとの出会いを求めて、東京・目黒にあるフラワーショップ「MUNSELL(マンセル)」を訪ねました。色ではなく、贈りたい気持ちや相手の人柄、嗜好をヒアリング。店主の梅澤秀さんの贈り主の言葉をヒントにつくるアレンジメントと、もがき苦しんだ日々に、大平さんは心揺さぶられました。

枯れゆくさまにも表情がある、花の奥深さに魅了されこの道に

美大を目指す予備校で、毎日花をモチーフに描くことになった。店主の梅澤秀さんは十余年前を、述懐する。

「全然うまく描けないので家でも花を買って練習するうちに、あれ? かわいいな、と。生きていることが止まっていない。変化し続け、枯れゆくさまにも表情がある。自分の気持ちによっても違って見える。花の奥深さに魅了されていきました」

大学入学後はいけばなの草月流に入門。いつか自分の店をと心に決めた。卒業後は家元補佐を経て、フラワーアーティスト、華道家、街の花店で学ぶ。2018年、満を持して中目黒でマンセルを開店。翌年、パンデミックが起きる。

「お客さんが定着する前で、もがきましたね。スタッフの人件費や家賃もあるので、定期便や配達に挑戦したり。でもだめで。どうせ倒れるなら、派手にやり切って倒れてやろうと思ったのです」

 

店名は、画家アルバート・マンセル考案の「マンセル表色系」から。

 

アレンジメントは8800円〜。

 

色ではなく、贈りたい気持ちや相手の人柄、嗜好をヒアリング。温かい、さわやか、北欧風など、贈り主の言葉をヒントにつくるそう。

もがき苦しんだ時間が気づかせてくれた、本当の自由

店を閉め、注文のみにした。それまでは客の求めるものに自分が合わせて、葉が多めのナチュラルなものが中心だった。

「色だけでバッチバチに見せました。どうやったら自分が目指すラグジュアリーを表現できるかだけを考えた。そのとき花のスタイルが変わったのです」

アレンジをインスタに載せると、反響が大きく次々注文がきた。小売りは土・日だけの現在も、コロナ前より売り上げが伸びている。守りでなく攻めを選んだ結果、アーティストとして自由になれた。もがき苦しんだ時間が気づかせてくれたものの尊さに、私は大きく心を揺さぶられた。

 

店名に当て字をしたオリジナルTシャツ。「しゃれでつくりました」と梅澤さん。購入可だそう。

 

花のように感性を潤すファッションアイテムやアクセサリーなども扱っています。フラワーアレンジのほかヨガのワークショプも。

 

梅澤さんの今日のお気に入りは、中心部の球状が特徴的なエキナセア。「この色はなかなかないので」。

 

黒いひまわり。品種名はココア。シックで控えめな存在感が魅力です。

●DATA
MUNSELL(マンセル)
住所:東京都目黒区目黒2-13-28
営業時間:年中無休 10:00〜18:00
※店舗売りは土・日のみ(詳しくはInstagramのストーリーで確認を)

●大平一枝さん
文筆家。編集プロダクションを経て1999年独立。エッセイのほか、市井の生活者を独自の目線で描くルポルタージュコラム多数。著書に『東京の台所』『届かなかった手紙』など。新刊『それでも食べて生きてゆく 東京の台所』HP「暮らしの柄