“働くこと”をテーマに、日々奮闘するキャラクターを描いてきたP.A.WORKS「お仕事シリーズ」の最新作・映画『駒田蒸留所へようこそ』が11月10日に公開。本作は、経営難の“ウイスキー蒸留所”が舞台で、父亡きあとに若くして実家を継いだ駒田琉生(るい)が再起をかけ、家族の絆とも呼べる“幻のウイスキー”の復活を目指すオリジナル長編アニメーションです。

声優・小野賢章さん『駒田蒸留所へようこそ』インタビュー

今回は、映画『駒田蒸留所へようこそ』でやりたいことを見出せずに転職を繰り返してきたニュースサイトの記者・高橋光太郎を演じる小野賢章さんに、作品の見どころや演じる役についてはもちろん、小野さんにとっての「働くこと」など、貴重なお話をたっぷり伺いました!

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●ものづくりに込められた想いが伝わってくる

――まずは、『駒田蒸留所へようこそ』の台本を初めて読んだときの感想を教えてください。

小野賢章さん(以下、小野):この作品に携わるまでは、そこまでウイスキーに詳しくはなかったんです。だから、最初に台本をいただいたときは、“初めて見る世界”という印象がすごく強くて、新鮮な気持ちでした。劇中にも、「(ウイスキーができるまで)そんなに時間がかかるんだ!」という光太郎のセリフがありますが、僕も本当に同じような感覚でしたね。

あと、これはお酒に限りませんが、普段の生活で手に取るものに“込められた想い”ってなかなか知れないじゃないですか。でもこの作品は、お酒づくりの「工程」が丁寧に描かれているので、“つくる人の想い”を知ることができる。だから皆さんにも、作品を通して、ものづくりのひとつひとつにかけている想いを感じてもらえたらいいなと思います。

――確かにその“背景”みたいなものが分かると、もっとおいしく感じたり、より興味をもったりしますよね。

小野:そうですね。映画では、光太郎が初めて(ウイスキーの)蒸留所を取材したあとの飲み会で、普段は飲まないウイスキーを頼んで、友人から「珍しいね」みたいな言葉をかけられるシーンがあるんですけど、“関わりをもったことで興味を持ち始める”っていう、光太郎の行動の心理は、僕自身もあるのですごくわかるんですよね。

●仕事はやりつづけることに意味や楽しさがある

――本作は、崖っぷちの蒸留所の行方や家族の絆、働く人の想いなど、さまざまな物語が描かれていますが、小野さんはどんな方にこの作品をみてほしいですか?

小野:もちろん多くの方に見ていただきたいですが、若い人にもぜひ見てほしいですね。光太郎って、調べ物も全部スマホだし、考え方も現代っ子なんですよ(笑)。あとは、「仕事が合わないからすぐやめちゃう」、「やりたいことが見つからずに転職を繰り返す」とか、若い人の感覚に少し近い部分もあるんじゃないかな、なんて思います。

――1つの会社でずっと働き続けるというのが当たり前ではなくなってますもんね…。

小野:昔と今では働き方も違うので、すぐにやめることが絶対悪いとは思いませんが、「もうちょっとがんばってみてもいいのでは…?」なんて思う部分もあって…。

僕は小さい頃からこの仕事をずっとやっている身なので、やりつづけることに意味があるというか、やり続けないと楽しくなってこないんじゃないのか? なんて思う。だから仕事で、そういう「やりがい」を見つけられるかって重要ですよね。

――演じているうちに光太郎の印象で変わった部分はありますか? また、ご自身と光太郎が似ていると感じたところがあれば教えてください。

小野:光太郎の印象は割と最初に読んだときのままだった気がします。というのも、ウイスキーに対して、彼と同じ感覚を持っていたし、考え方など共感できる部分も多かったので、自然のままで演じられたら、それがいちばんいいのかな…と思っていました。

映画のなかで、光太郎がリサーチ不足で、取引先の酒造を名前が似ている競合酒造と間違えてしまう…というミスをするんですけど、それに対して光太郎が「そんなの知らないよ!」みたいな態度を取ってしまうところとか、「それわかるな!」って思っちゃいましたね(笑)。そこまで調べなかった自分が悪かったっていうよりは、そんなのわかりづらいよ…って思っちゃうところは少し共感できますね。

●役者以外の仕事は想像がつかない

――光太郎はニュースサイト「ニュースバリュージャパン」の記者ですが、もし小野さんが記者だったら密着したいものや取材したいものはありますか?

小野:やっぱり興味あるものがいいですね。やる気につながりますし、自分のモチベーションにもつながる。興味がないことに対して、嫌々やっているものってわかるじゃないですか。「この人全然興味ないんだろうな…」みたいなものって伝わっちゃう。

それを無理にでもやるのが仕事かもしれないけれど、僕は割とわかりやすく態度に出てしまうタイプなので、それだったら興味があって楽しくできるモノをやりたい! だから、ゲームとかそういう取材は最高ですね。

――度重なる転職の末に記者という職業を選択した光太郎ですが、もし小野さんが違う職業に就いていたとすると、その職業はなんだと思いますか?

小野:全然想像つかないですね…! 子役からやっていて、始まりこそヒーローになりたいみたいなものでしたけど、今僕からこれをとりあげたらなにも残らない。だからほかの職業を想像するのは難しい。でも、ファッションや写真、広告とか…そういう近しいところにはいそうな気もします。

●働くことが自分にとって楽しいか、楽しくないか

――今回の作品では「働くこと」が大きなテーマになっていますが、小野さんにとって「働く」とはどういうことだと思いますか?

小野:「働くこと」って、なにを重視するかによるのかな。生きていくために働かなきゃいけない人もいるし、有名になりたいとか…理由や働き方は人それぞれ。全員が全員、楽しくて興味があるところで働けたらハッピーだけど、そうやって働いてる人ってほんのひと握りだと思う。だからなにかに折り合いをつけて、生きていくために働かないといけないですよね

僕は、お芝居をするのが仕事なので、そこに楽しさを感じていないと長続きはしない。お金が欲しい、有名になりたいとかってもちろん多少はあるにしても…それはやっぱり若い頃の野望みたいな。20代前半までそういう野望を持ってきたからこそがんばれたし、ガツガツなんでもこなして、今こうやって仕事をもらえている。

でも、年齢を重ねて30代になった今、仕事のスタイルはそこが重要ではなくなってきた。お金とかの選択ではなく、働くことが自分にとって楽しいか、楽しくないか。有意義なのか、そうでないのか。この作品を僕がやる意味みたいなところに重きを置いてやっていますね。

――では、最後に伺いたいのですが、ご自身はこれからどんな風になっていくと思いますか?

小野:もう変わらないかもしれないですね。今回の作品も、ウイスキーをもっと身近なものにしたいとか、少しでもウイスキーに興味をもってもらえたらいいなって想いがつまってるし、若い人たちの働くってどういうことなんだろう、みたいなものもメッセージとして強く入っています。

もちろん、なにも考えずに見れるものも楽しいし、おもしろいからどんどん出たいけれど、今回の作品のようにメッセージ性の強いものや、伝えたいものが明確にあるものにも参加していきたいですね。ただまぁ…とはいいつつも、割とのんびりやっているので、自分のペースでできたらいいなと思います(笑)。