日本テレビ開局70年記念舞台『西遊記』の上演が、11月3日(金)より大阪オリックス劇場でスタートします。今回主人公の孫悟空を演じるのは、ドラマや映画など、さまざまなジャンルで活躍する歌舞伎俳優・片岡愛之助さん。多くの人に愛される『西遊記』をどのようにつくり上げていくのか、さらには普段の暮らしで意識していることについて、お話を伺いました。

片岡愛之助さんインタビュー。「自分にできる限りのことをやり尽くしたい」

孫悟空を中心にした、三蔵法師一行が天竺を目指す物語「西遊記」は、だれもが知っている作品。これまで何度も映像化・舞台化されていますが、今回はどんな「西遊記」が観られるのか気になるところです。

【写真】クールな表情の愛之助さん

「西遊記は僕らの世代はみんな当然のように知っている作品です。今回の舞台は、昔からご存じの方々が『懐かしいな』と感じるような場面もありますし、初めてご覧になられる方にも十分楽しんでいただけるエンターテイメント性抜群の作品になっています。堺正章さんのテレビ版の西遊記のイメージがある方をいい意味で裏切る、マキノノゾミ先生のすばらしい脚本と、堤幸彦監督の演出にもご期待ください」

牛魔王役の松平健さん、三蔵法師役の小池徹平さんといった錚々たるキャストがそろう本作。愛之助さんが座長として意識していきたいことを尋ねると、「それぞれをまとめようとは思っていない」という意外な答えが。

「ベテランの方や一流の方ばかりなので、放っておいてもなにも気にすることなくまとまっていくのではないでしょうか。あえて言えば、いかに物語をみんなで楽しくつくり上げていくか、その雰囲気をつくることが座長の仕事なのかなと思います」

●牛魔王・松平健さんとの対決も見どころ

愛之助さんといえば、歌舞伎だけではなく舞台や映像作品でも大活躍中です。歌舞伎というホームグラウンドがある中で、それ以外の舞台に立つおもしろさを尋ねると、「やっぱり『他流試合』だという部分ですよね」という言葉が。

「みなさん、歌舞伎だったりテレビだったり、育った畑が違うんです。そんな人たちがひとつの舞台という同じ畑で育とうとしているので、よく考えたら本当にめちゃくちゃですよね(笑)。でも、僕がチケットを買う側だとしたら、この人たちがどんなふうにセリフのキャッチボールをするんだろう? というところに興味が湧くと思います」

豪華な俳優陣がそろう中、愛之助さん演じる孫悟空が戦う相手が松平健さん演じる牛魔王です。松平さんと戦うことに、「光栄の極みです」と愛之助さん。

「将軍さまですよ? どの作品を拝見しても、殺陣の姿がとにかく美しい。刀を持っていただくと、待ってました! と客席で手をたたいてしまうくらい。作品でご一緒させていただくのは二度目なのですが、プライべートでも存じ上げておりまして、製作発表記者会見では松平さんといちばん話が盛り上がりましたね」

●自分にできる限りのことをやり尽くしたい

壮大な冒険の物語である「西遊記」。それにちなんで、愛之助さんにとってこれまででいちばんの冒険や挑戦について尋ねると、「今の自分の人生です」ときっぱり。「元々歌舞伎界に生まれた人間ではないので、本当に運がよかったのかなと思います」と言い、これまでを振り返ってくださいました。

「以前取材のときに、『45年前はなにをしていましたか?』と聞かれたのですが、45年前は僕がちょうど本名で役者になった頃。本当にたまたま松竹芸能のオーディションに受かって入れていただいた、という感じでした。元々僕の祖父は、奄美大島の徳之島生まれ。そこから大阪へ出て、船のモーターのスクリューをつくる会社を経営していました。それを父が継いで、僕はそこに生まれたので、もしかしたら今プロペラをつくる人になっていたか、徳之島に帰って漁業や農業をしていたかもしれない。そういう立場の人間だからこそできるような冒険はしていると思います」

現在の八面六臂の活躍には、そんな愛之助さんだからこその思いもあるそうで…。

「これまで、師匠である十三代目片岡仁左衛門、二代目片岡秀太郎の背中を見てやってきました。恩返しとして自分になにができるかを考えると、やっぱり師匠たちが守ってきた上方の歌舞伎の火を絶やさないことなのかな、と。そのためには、お芝居をしてお客様が来てくださることがいちばん大事。そこで、多くの人に興味を持ってもらえるんだろう、と考えたときに、いろんな活動をしたほうがいいと思ったんです。現代劇やテレビ、映画に出させていただいたり、歌舞伎の新作をつくったり…。自分の許してもらえる環境の中で、できる限りのことをやり尽くさせていただいています」

●50代を迎えた今は、むしろやりたい役がない

そんな中で、50代を迎えられた愛之助さん。今と昔とで変わった点もあるそう。

「昔、やりたい役はなんですか? とよく聞かれたのですが、その当時はたくさんありました。あの役もこの役も、と。でも、実際30代になって自分が主役をやらせていただくようになると、お芝居は一人でできないんだなと改めて実感しました。

歌舞伎の場合、その月にその劇場にいるメンバーが決まっています。たとえばそのうちの1つの演目で、主役・片岡愛之助で、二番手、三番手、四番手の人が決まったときに、僕がチケットを買っていくなら、この人たちでどんなおもしろい芝居を観たいかなと考えるわけです。いかにそのメンバーでおもしろいものに挑戦するか、という方に意識が変わってきました。だから、今はむしろやりたい役や憧れの役というのはないんです」

●妻のつくる健康を意識したメニューが日々の助けに

歌舞伎に舞台に映像に、日々大忙しの愛之助さん。気になってしまうのが、ストレスが溜まってしまわないか? ということです。しかし、意外にも「ストレスのスの字もない」と言います。

「仕事が特殊だからかもしれませんが、舞台の上で、役者同士やお客様とのキャッチボールをして出しきって終わるので、もうカスカスになって帰っていますね(笑)。発散は舞台でしているので、ストレスはないです。性格もあるとは思うのですが、あまり引きずったりもせず、どんどんきり替えていきます」

そんな愛之助さんが日々の生活で意識していることは食。奥様の料理が愛之助さんの生活をサポートしてくれているそうです。

「健康を意識したメニューをつくってくれるので、本当に助かっています。僕はハンバーグを食べたい時期なら毎日ハンバーグを食べたい人なのですが、「なにがいい?」と聞かれたときに毎日ハンバーグと答えても、同じものはあまりつくってくれませんね。バランスよく、その方がいいんでしょうけど(笑)」

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