ペットの柴犬の写真をツイッターに投稿し続け、その自然体のかわいさが人気となっている@inu_10kg。ESSEonlineでは、飼い主で写真家の北田瑞絵さんが、「犬」と家族の日々をつづっていきます。第63回は「犬と橙色の秋」について教えてくれました。

犬と過ごす「橙色」に染まった秋

「秋は橙色をしている」そう犬との暮らしが教えてくれた。畑で実った柿やミカン、庭で咲いた金木犀…10月にはいってから日毎深みを増していく橙色を犬と見てきた。

朝早くから収穫を始めていた両親と兄のいる畑に犬と向かう。収穫した柿を選りすぐりながらコンテナに並べる母の背中を見つけたとたん犬は歩く速度を上げる。

「あらぁ来たん」と、母が柔和な表情をして犬に声を掛ける。日除けの帽子とマスクで顔の大半が覆われていたって分かった。

犬は足早にずんずん近寄っていくと、母とコンテナを挟んだ真向かいでキキーッ! とブレーキを踏むように急停止し、「ここは自分の席ですよ?」とあらかじめ決まっていたかのようにおすまし顔で座った。あまりに滞りのないスマートな着席だもんで母と私の拍手が畑に響いた。

別の違う畑でも同じくダッシュで駆け寄ってはスス…と静かにしりもちをついて、へにゃぁと舌を出した。犬は居間でも畑でも母のそばに行くと荷物をおろすように落ち着くね。

そのまた別の日、母と犬とミカン畑へやって来た。柵内で繋いでいたリードを離すと、力いっぱい走り始める! おそらく犬は電車より速い。

犬が駆け回って、母と私はミカンを収穫していた。しばらくして犬がタッタッと軽快な足音を鳴らしながら、母のもとへ駆け寄ってきた。そしてやはりスス…と母の足元で立ち止まったのだ。あちこち駆けて駆けて、終着地点は母のもと。

「そんなに居心地ええんー?」と声を掛けたら、ええ顔で応えてくれた。広い畑のなかで、どこにだって行けるのに、一畳以下に収まっておかしいね。

●丹精込めて育てたうちの果物は日本一!

話は柿畑に戻るが、畑では収穫されるのを待たずに柿が地面に落下してしまうことがある。落ちてしまった柿は出荷しないためそのままにしておくが、もちろん食べても問題はなく、犬がかじって食べている。

手をつかってしっかり柿を抑えて、鼻先にムキとしわをよせ、皮ごと丸かじり。ハグハグと。こうなると柿に夢中。「目は口ほどに物を言う」とはまさによなぁ。とまらない咀嚼音と爛々とした瞳がおいしさを語っている。

犬の食べっぷりを見た母が「犬ちゃんもうちの柿好きかぁ」とうれしそうにふふふと笑うので「うちの柿は日本一やもんな」そう私が答えた。私もうちの柿を毎日食べているが、一日の楽しみになるほどおいしい。

柿だけではなくミカン・八朔・ネーブルだって、私にとっては日本一だと言いきれる。両親と兄が丹精込めて育てたうちの果物はいっとうおいしい。

読者の方にも食べてほしいくらい…。でもそれは難しいので、柿でおなかを満たし、口周りについたのもべろんと舐めとって(まだついてる)、一息つく犬をご覧ください。

ひと足先に畑から犬と帰宅すると、犬は「歩いて食べて歩いて、一仕事終えましたワ」と言わんばかりに芝生に横になった。おつかれさんです。

10月の日中は庭で過ごすのにちょうどいい天気。涼しい空気と温かい陽気のなかを漂うように昼寝をするのが最近の日課である。

犬を見ていたら食欲の秋、睡眠の秋、スポーツの秋は地続きだとつくづく思う。よく食べる、よく寝る、よく動く。そうしたらよく生きられる。シンプルで、極みで、なんもややこしくない。犬の境地に達すべく、私も修行を積むとする。