アニメのオープニングやエンディングでは「脚本:○○」「作画監督:○○」といったように誰がどの役割を担当したのか示すクレジット情報が流れます。このクレジット情報に着目して「オンエア版とパッケージ版のクレジットが異なる理由」や「クレジット誤記が発生する理由」について語るイベントを「マチ★アソビ vol.27」で見てきたので内容をまとめてみました。

マチ★アソビ

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あなたの知らないアニメデータベースの世界 アニメーターから見る「クレジット」とは

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イベントは2023年10月28日17時からufotableCINEMAで開催されました。タイトルは「あなたの知らないアニメデータベースの世界 アニメーターから見る『クレジット』とは」です。



イベントの司会はアニメデータベースについて研究している大坪英之さん(写真左)が務め、ゲストとして「ヱヴァンゲリオン新劇場版:Q 」の原画や「銀の匙」の作画監督を務めた徳野悠我さんが参加しました。



◆クレジットで分かること

徳野さんは日本アニメーター・演出協会(JAniCA)の理事を務めており、JAniCAの役員紹介ページを確認すると「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」と「攻殻機動隊ARISE」の原画や「銀の匙」の作画監督を務めていたことが分かります。



JAniCAの役員紹介ページには3作品分の情報しか記されていませんが、徳野さんは実際にはもっと多くの作品に参加しています。有志がクレジット情報をもとにアニメーター情報をまとめているウェブサイト「作画@wiki」内の徳野さんの仕事をまとめたページの一部を抜き出したものが以下。徳野さんが「戦国BASARA」の原画作監補佐を務めていたことや、「ギルティクラウン」の作画監督を務めていたことなど、とにかく膨大な情報がまとめられています。クレジット情報が残ることによって、アニメーターがどんな仕事に関わっていたかを知ることができるわけです。



さらに、海外のアニメ情報サイト「Anime News Network」内にも徳野さんの仕事をまとめたページが存在しており、ここにも膨大な情報が記録されています。大坪さんによると「徳野」という名前は「TOKUNO」以外の表記がないため海外のデータベースで情報が散逸しないメリットがあるとのこと。一方で「光」という名前だった場合「HIKARI」「HIKARU」といったように表記揺れが発生することがあるため海外では情報がバラバラになってしまうことがあるようです。



◆クレジットに必要な情報とは?

アニメについて詳しくない人だと「○○という作品の作画を担当したということは、第1話から最終話まで全部担当しているのでは?」と勘違いしがちですが、実際には「第3話と第5話にだけ参加した」といったように特定の話数にだけ参加する状況が多く発生します。また、アニメでは再放送時に素材の差し換えなどで担当者が変化することもあります。このため、クレジット情報には「どの作品の」「どのシーズンの」「何年何月何日に放送したバージョンの」「何を担当したのか」という情報が含まれることが望まれます。



◆クレジット誤記が発生する理由

放送時と再放送時だけでなくオンエア版とパッケージ版でクレジットが異なることもあります。徳野さんによると、オンエア版では「誤植が発見されたものの、もう1回V編(ビデオ編集)するのは勘弁してくれ」ということでクレジットの誤りが残る場合があるとのこと。また、オンエア時には「スケジュールがかなりギリギリ」という状況も手伝ってクレジットの誤りは見過ごされることが多いようです。



また、劇場版では「パンフレット用のクレジットが映像と別のタイミングで作成される」という事情があり、パンフレットに誤った情報が記されることも多いとのこと。このため、大坪さんは「パンフレットは信じちゃダメですよ。一番信じちゃだめなやつです」「(クレジット情報を確認するうえで)一番いいのはパッケージ版です」と述べていました。



クレジットの誤りが発生する原因を列挙したスライドが以下。「斉藤・齋藤のような混同しやすい名前の場合、正しい表記と社員台帳の表記が異なることがある」「カットの描き直しで担当者が変わる」「NHKではクレジットの枚数が決まっているらしい」といった原因が並んでいます。また、「Shift-JISからUnicodeに移行したことで扱える文字が増えた結果、クレジットの表記が揺れる」といった問題も発生しているそうです。



◆クレジット情報をまとめる取り組み

クレジットはアニメーターにとって「アニメ制作に関与した実績の証明」「次の作品への名刺代わり」といった重要な役割を果たします。また、クレジット「アニメーター本人が覚えていない仕事を記録する」という役割も存在しています。





そんな役立つクレジット情報などをデータベース化するプロジェクトが「メディア芸術データベース」です。メディア芸術データベースにはマンガ・アニメーション・ゲーム・メディアアートの作品情報や所蔵情報まとめられており、誰でも自由に閲覧可能。さらに、データベース上の情報を取得できるAPIやデータセットも公開されています。

メディア芸術データベース

https://mediaarts-db.bunka.go.jp/



メディア芸術データベース(ベータ版) WebAPI仕様

(PDFファイル)https://mediaarts-db.bunka.go.jp/resources/pdf/mediaartsdb_webapi_documents.pdf



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