近年、JR各社を中心とする鉄道会社は、通勤形車両の改良を進めています。ここ数年で登場した新型車両には、それまでは見られなかった設備や性能も。今回は、JR九州の最新型通勤電車821系を紹介します。

水戸岡鋭治氏のデザイン

 通勤形電車といえば、ロングシートの座席とつり革以外はほとんど設備もなく、殺風景な車両というイメージがありましたが、近年はサービス改善の動きが顕著です。フリーWi-Fiや空気清浄器、トイレが設置されるなどしています。
 
 そうした最新の通勤形電車はJRでも取り入れられています。今回は、JR九州で2019年に営業運転を開始した「821系」を取り上げます。


JR九州の821系電車(安藤昌季撮影)。

 JR九州は老朽化した国鉄型415系電車の置き換え用として、2018年から821系を導入しました。工業デザイナー・水戸岡鋭治氏によりデザインされており、非常に凝っています。

 前頭部には、69個のLEDライトによる「縁取り」がされており、導入当初は電車の輪郭が輝いていました(現在は非点灯)。また、側扉の乗降部には、足元を照らすLEDライトが設置されており、乗降時の事故軽減を図っています。室内灯も全てLEDライトです。

 車体はオールアルミダブルスキン構体を採用しており、軽量化と保温性、遮音性に優れています。側扉には開閉ボタンも設置されています。

 座席は特徴的です。3扉ロングシート車で、側窓の縦幅がかなり狭いのですが、その代わりに背もたれに高いハイバックシートを採用しています。特に袖仕切りに近い、窓のない部分にはヘッドレストも備えられており、特急車両のような座席形状です。

 座席は1人あたり46cmの幅を持ち、座り心地はまずまずです。座面の奥行きとクッション性に、筆者(安藤昌季:乗りものライター)は改良の余地があると感じました。

長距離を走る通勤形

 一部の側扉には、袖仕切りの近くにゴミ箱を備えています。通勤形電車でのゴミ箱設置はかなり珍しく、サービス性の高さは特筆すべきものです。また、消火器が剥き出しで置かれ、その上に小テーブルが設置されています。

 側扉上には、4か国語表示の液晶ディスプレイ「マルチサポートビジョン」が備え付けられています。扉前のつり革が円形に配置されているのは、JR九州らしさです。


トイレが設置されている(安藤昌季撮影)。

 車いすやベビーカーのためのフリースペースは、3両編成中の2か所に設けられており、フリースペースの床面は分かりやすく黄色です。ただし、デザイン優先なのか「優先席」などの大型文字表示はありません。

 また、車いすに配慮して床面の段差を極力減らしたトイレも設置されています。これは821系が、鹿児島本線の門司港〜八代間とかなり長距離で運行されることがあるため、長時間乗車に備えた設備といえます。ほかにも、福北ゆたか線の博多〜黒崎間や、豊肥本線の熊本〜肥後大津間でも運行されています。

 台車は通勤形としては珍しく、鹿児島本線内の快速運用を想定して、横揺れ低減に寄与するヨーダンパ付きです。

 821系は2025年まで製造される予定でしたが、コロナ禍などもあって、2022年で製造打ち切りとなりました。整備予算も140億円あまりから54億円に減らされており、JR九州の通勤形施策が今後どうなるのか、注目されます。