関東の廃止鉄道路線のなかでも長い40kmのほぼ全線が「自転車道」に生まれ変わっているところがあります。鉄道廃止から37年、いまや日本中からサイクリストが集まる名所になりました。

36年前に廃止された長大ローカル線

 廃止された鉄道は全国にありますが、関東地方の場合、路面電車などの軌道を除くと、長い廃線は多くありません。そうしたなか、約40kmもの長大な鉄路が廃止され、今も全線をたどることができ、人気スポットにまでなっているところがあります。


旧筑波鉄道の真壁駅(乗りものニュース編集部撮影)。

 それは茨城県の私鉄だった「筑波鉄道」です。もともと関東鉄道が運営した4路線のうちのひとつで、常磐線の土浦駅(茨城県土浦市)と水戸線の岩瀬駅(桜川市)を南北に結んでいました。筑波山の観光アクセスを担い、国鉄との直通列車もあったものの、当時開発が進んでいたつくば研究学園都市からは離れており、やがて経営難に。関東鉄道から分社化され筑波鉄道となった後も経営は好転せず、1987(昭和62)年4月1日、国鉄が解体されJRが発足したその日に廃止されました。

 ちなみに、関東で40kmの廃線というのは、旧草軽電気鉄道(軽井沢〜草津温泉)の55.5kmほどではないものの、かなり長い部類です。その40kmはほぼ全線が自転車道として整備されており、「つくば霞ケ浦りんりんロード」の一部を構成しています。

 沿線周辺には小高い丘も点在するものの、旧筑波鉄道は絶妙にそれを避けるルートをとっており、全線がアップダウンの少ない快走路です。土浦や北条(旧筑波町)、真壁(旧真壁町)など一部市街地も通りますが、大部分は見渡す限りの田園風景。とはいえ、1980年代と比較的新しい廃線だけあって、鉄道時代に整備された国道や県道が自転車道を立体交差している箇所もいくつかあり、クルマ社会のなかで生きていた鉄道であることも感じさせます。

 鉄道には必須のキロポストや踏切だけでなく、休憩所として再整備された6つの駅を含め、鉄道の遺構が随所に現存した状態で自転車用の施設へ生まれ変わっています。石積みのホームや通過線のある駅構内の線形、ホームの上の桜並木まで、そのまま残っているところもあるほどです。

 さらに嬉しいのが、休憩所となった旧駅の多くに駐車場が備わっていること。クルマで自転車を持ち込んで、ちょっとの区間だけサイクリングを楽しむことも気軽にできます。

「世界に誇る自転車道」へ転身 その秘策

 旧筑波鉄道を活用した自転車道は「つくばりんりんロード」として平成前期を通じ整備されてきました。そして廃線から40年近く経った2023年現在では、サイクリングの“聖地”的なスポットとして、脚光を浴びています。

 2019年には、旧筑波鉄道区間を含めた「つくば霞ケ浦りんりんロード」が、国の「ナショナルサイクルルート」に指定されています。これは「日本を代表し、世界に誇りうるサイクリングルート」であるとされています。この指定を受けているのは、ここを含め全国でいまだ6か所しかありません。

 また、サイクリング熱の高まりもあり、「つくば霞ケ浦りんりんロード」の利用者数は順調に増えており、茨城県の推計によれば2017年に約5万5000人、2019年に約9万3000人、そして2022年は約12万5000人にまでなっているとのこと。

 このナショナルサイクルルートへの登録にあたって、茨城県がとった秘策、それこそが、土浦駅の東に広がる霞ケ浦を一周する自転車道「霞ケ浦湖岸道路」と、旧筑波鉄道跡のつくばリンリンロードを“一体化”することでした。こうして旧筑波鉄道は2016年、全長180kmという長大な自転車道「つくば霞ケ浦りんりんロード」の一部に組み込まれたのです。

「自転車が約20km/hで走るとして、40kmだと2時間ほどで走れてしまいます。それだとナショナルサイクルルートに選定されるには短く、少なくとも100kmは越えたいという意識はあったでしょう」。茨城県スポーツ推進課の担当者はこう振り返りました。


ホームが残る旧虫掛駅。休憩所となっている(乗りものニュース編集部撮影)。

 さらに、2018年には筑波鉄道の起点だった土浦駅の駅ビル「アトレ」が、「プレイアトレ」へリニューアル。宿泊施設やレンタサイクル、シャワー設備などを備えた「全国初の駅直結型の複合サイクリング拠点」に生まれ変わり、2つの自転車道の中継地点となりました。

 鉄道を廃止して自転車道に活用したところは全国にありますが、そのなかでも旧筑波鉄道の自転車道は、最も成功した例かもしれません。ちなみに、茨城県の担当者によると、もともと鉄道から自転車道への転換は通学利用も想定してのことだったといい、生徒・学生の姿も見られるということです。

※一部修正しました(9月24日16時01分)。