楽曲制作やゲームの設計・開発などなど。クリエイターが抱えるさまざまな課題を生成AIが解決してくれます(写真:USSIE/PIXTA)

各種生成AIが登場したことを機に、「テクノロジーの進化で変わる働き方」にどう対応していくべきなのか?

AIが多くのクリエイターを失業させてしまうという批判的な意見や、反対に、わたしたちの仕事の支援やクオリティーアップにAIが貢献してくれるという前向きな見方が混在するいま、AIとクリエイターの向き合い方や生存戦略について、山本康正氏による最新著書『世界最高峰の研究者たちが予測する未来』からひもといていく。

本格的な楽曲制作でも生成AIが大活躍

生成AIが急速に進化していますが、音楽の世界にもますます広がりそうです。まず、作曲活動においても、本格的な楽曲が簡単にできるようになります。

ユーザーはテキストで望みの楽曲のテイストを打ち込むだけ。「ジャズっぽい3分くらいの楽曲を作って」とか、「〇〇のアーティスト風のテイストの楽曲を作って」と投げるだけで、即したテイストの楽曲が生成されます。

アーティストというのは、それぞれが独特、独自のパターンと言いますか、テイストを持っていますよね。ゼロからそのような曲を生み出すことは、もちろんそのアーティストにしかできないことです。

一方で、すでに発表されている多くの楽曲から、イメージしている楽曲を創作することは、生成AIの得意分野になります。 

つまり、音楽創作の知識や技術がまったくない素人でも、それなりの楽曲を作ることができるようになるのです。

実際、生成AIによる楽曲サービスはすでに多く発表されています。「Drayk.it」はその1つです。

カナダ出身のラッパーであり、俳優でもあるドレイク氏。ミリオンセラーを何度も達成している、名実共に偉大なアーティストである彼のような楽曲が作れるアプリです。

ユーザーは、自分が作りたいスタイルの文章をテキストで入力するだけ。すると生成AIが、ドレイク風の楽曲を作ってくれます。

楽曲の新規制作、アレンジも低予算で実現できるように

音楽制作における生成AIの使い方としては、大きく2つのシーンが考えられます。

1つは、すでにプロのミュージシャンが、これまでとは違ったテイストの楽曲を作ってみる。できた楽曲にさらなるアレンジを加える際の利用です。

オン・オフどちらでも構いませんが、これまではアーティストが集まりセッションをすることで、アレンジを行っていました。もちろんこのようなリアルな集まり、取り組みも重要ですし、今後もなくなるとは思いません。

しかし、生成AIを使えば手軽に、さまざまなテイストの楽曲を、簡便かつスピーディーに生み出すことができるのです。

そうしていろいろと試したうえで、「これだ!」と思った楽曲が生成AIによって生み出されたら、そこからはプロのミュージシャンに実際の演奏をお願いして作り上げる。このような使い方も考えられます。

もう1つはプロではない、あるいはプロであってもそれほどメジャーではないミュージシャンの活用方法です。TikTokやInstagramへの投稿をきっかけに、一気にスターになるような流れが一般的となりつつあります。

この流れが、生成AIを使うことで加速します。とくに、TikTokのような動画は音楽が重要な役割を占めます。たとえばダンサーを目指している若者が、自分のダンスにあった楽曲を作成することで、高品質な独自の音楽が生成できるようになる。余った時間を活用し、自分はダンスに集中することができるからです。 

YouTubeも同様です。有名になりたい、もしくは一攫千金を狙いたい人にとっても、自分のパフォーマンスにマッチした楽曲を、生成AIが簡単かつスピーディーに作成しやすくなります。

同じような意図で、インディーズのアーティストや映画監督などが、楽曲のプロデュースや制作をプロにお願いするには予算が足りない。けれども生成AIを活用することで、それなりの楽曲を作れるようになる。そんな未来はもうすぐそこなのです。

ゲーム開発においても、生成AIの登場により、これまでよりも楽にゲームの開発を進めることができるようになります。大きいところでは、先にも紹介した各種CG作成、キャラクター同士の会話、プログラミングです。

Nintendo SwitchやPlayStation、パソコンといった、プラットフォームを使った本格的なゲームに限らず、スマホで手軽に遊べる無料のゲームなど、世の中には数多くのゲームがあります。

値段や規模などはそれぞれ異なりますが、どんなゲームを作るのかという企画に始まり、設計、開発、実装、テストを経てローンチ、という流れはさほど変わりません。

クリエイターのさまざまな課題を、生成AIが解決支援

その中にあって設計・開発段階は、プログラミングやイラストレーションといった専門の技術を持つ、クリエイターが必要不可欠なフェーズです。ここを、生成AIが担ってくれるようになります。

たとえば、キャラクターのデザインや設計・開発です。クリエイターがイメージしたキャラクターの雰囲気をテキスト、あるいはラフ画像で入力し、補足を加える。そしてチャットを繰り返すことで、望むキャラクターに短期間で近づいていくからです。

背景、武器などのアイテムも同様です。とくに、昨今のオンラインゲームで人気の高いフォートナイトなどのRPGは、多くのキャラクターやシーンが登場します。中には、キャラクターでありながらもユーザーが操る主人公と、とくに会話をしない、あるいは誰も操らない背景的なキャラクターも少なくありません。NPC(ノン・プレイヤー・キャラクター。以下、NPC)です。

ただ、このNPCもゲームの中では、言ってみれば映画におけるエキストラ的な存在です。つまり、しっかりとした動きが求められる一方で、ゲーム制作に限らず予算は限られていますから、どこまで作り込むか、との問題がありました。

この問題を生成AIが解決支援します。言葉や相手のリアクションに対して、適切な動きや会話を行うことが、できるからです。

実際、2023年の3月にサンフランシスコで行われた、ゲーム開発者向けのイベント「ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス」では、紹介したような取り組みが話題となっていました。

プログラミングにおいても同様です。プログラミングが好きな方には怒られるかもしれませんが、ゲームに限らず、プログラミングはあくまで目標を達成するための手段です。

そのため開発者が実現したいゲームの世界観などを伝えれば、あとは生成AIが自動でプログラミングの提案をしてくれる。実際、ソフトウェア開発のメジャーなプラットフォームGitHubなどに、コードが無数に公開されています。

そしてすでに、プログラミングを行わずにアプリを開発する動きは、以前からあります。フレームワークや専用のツールなどもたくさん提供されています。

つまり、ゲーム本来の楽しさ、魅力である、根本のアイデア出しの良し悪しやセンスのある人が、よりゲーム開発に注力できる。もちろん、大きなゲーム会社であればこのような取り組み、作業分担は当然行っているでしょうが、これから世の中に出ていく個人や若いクリエイターに、よりチャンスが到来する未来になると、私は考えています。

さらには、最初の企画・アイデア出しの部分まで、生成AIが担ってくれるような未来も考えられます。

実際、デンマークのコペンハーゲンIT大学研究チームは、『スーパーマリオブラザーズ』のステージを自動生成する研究開発(*1)に取り組み、「MarioGPT」なる生成AIと、実際に生成したステージを公開しています。

つまり企画の段階からも、「マリオのような世界観のRPGを」とか、「ファイナルファンタジーの世界観が詰まった縦スクロールのアクションゲームを」といった使い方もできるのです。おそらくすでに活用して、斬新なゲームを開発しているクリエイターはいると思われます。

エンタメにおける生成AIが描く未来においては、アップルやグーグルがまだ今ほど大きくない、初期のころから投資をしてきたアメリカの大手VC、セコイアが公開している「Generative AI: A Creative New World」(*2)の内容が興味深いので紹介します。

「文書作成においては、コピーライティング、法的文書など専門領域の文書作成、脚本制作ができるようになる未来が見え始めている。そのほか、メモや文章を生成AIに入力することで、ピクサー映画レベルの作品を作れるようになる

ゲームにおいても瞬時に、Robloxのような壮大なゲーム開発プラットフォームならびに、プレイができるようになる。プログラミングにおいても、GitHub Copilotを使えばプロジェクトで使われるコードの40%近くが自動生成できる」

そのほか、同発表では「エンタメ業界に限らず、iPhoneのアプリやスニーカー、ロゴ、建築物などのデザインが行えるようになり、かつ、3Dプリントで出力できるような未来が予測できる」と論じています。

Robloxはゲーム開発プラットフォームであり、GitHub Copilotは先述したとおり、Microsoft Officeに搭載されているような、AIがコーディングを提案する機能で、オープンAIとGitHubが共同で開発しています。

ユニークなのは、著者の欄にGPT-3がクレジットされていることです。こちらの発表ではそのほか、労働生産性、経済的価値、生成AIのリスクなど、幅広いシーンにおける未来予測を論じていますので、気になる方は読んでみるといいでしょう。

生成AIと人間は、同じ土俵で闘うべきなのか?

アメリカはテキサス州で行われたCGコンテンストで、Stable Diffusionで作成した作品が1位を獲得し、話題になっています。AIが描いた絵でもいい肯定派、反対に、それを認められない否定派という対立構造も生まれています。

生成AIが当たり前に広まっていくこれからは、このような問題、議論は繰り返し起きるでしょう。実際、ほかのトラブルも起きています。

アメリカのIT企業で働くデザイナーが、Midjourneyを使って絵本を創作し、アマゾンで販売していることに対し、同業のイラストレーターなどのクリエイターから、批判が集まっている事例です。

小学生の夏休みの宿題でありがちな、夏の思い出を一枚の絵に描くといったことも、生成AIで行う。このような生徒や親御さんが出てくることも、十分考えられます。というより、すでに利用している人はいると思われます。

このような背景を受けてか、オープンAIはAIが書いた文章かどうかを判別する「AI Text Classifier」というツールを公開しています。おそらく今後は、画像領域でも、同様の判定AIを発表してくると思いますし、同じく生成AIを開発している各社が、似たようなサービスを開発・提供する流れになるでしょう。

AIが作成した作品でもあっても、人が感動すればよい。それはれっきとしたアートである。このような考えから、AI賞という別のカテゴリーを設ければよいのではないか。そんな考えや動きもあります。

難しいのは報酬や著作権

議論を深掘りしていくと、そもそもアート、クリエイティビティーとは何なのか、という点に集約されます。「コンピューターの力を借りるなんてけしからん」といった感じで全面否定する人もいるようですが、私はそのような考えには否定的です。

人が描いた作品であれ、生成AIが描いた作品であれ、観た人が感動したのであれば、どちらも構わず一定の評価をすべきだと思うからです。


ただ、難しいのはその報酬でしょう。学習させた素材の著作権は、十分に公平に尊重されているかを考えなければなりません。ただ同時に、どこまで生成AIが人を感動させる作品を生み出すことができるのか。突き詰めるべきだとも思っています。日本がやらなくとも、ほかの国がやる可能性が高いからです。

そして両方のシーンが盛り上がったり、互いに切磋琢磨することで、結果としてアート業界全体が進化し、活気づいていく。

元データの著作に関しては、ルールをきちんと決める必要があるでしょう。実際Adobe Fireflyでは、著作権がクリアになった画像しか使っていません。アドビのアプローチは正しいと思いますし、今後、生成AIをエンタメで使っていく際の、1つの試金石とも言えるのではないでしょうか。

報道、文学、作曲の功績に対して授与する、ピューリッツァー賞を受賞した人物なども多く輩出している、テキサス大学オースティン校。同大学のカリム・ネイダー氏、ポール・トップラック氏らは、AIについての印象などを、アメリカ在住の1222人に対して調査(*3)しました。

質問項目は、AIの知識や未来、AIと心理的なつながりが持てるようになるか、などといった内容でした。結果は6割の人がAIについて理解しており、約半数がAIに関わる未来を楽観視している。そのような成果が得られたそうです。

(*1)
Sudhakaran, S., González-Duque, M., Glanois, C., Freiberger, M.,
Najarro, E., & Risi, S. (2023). MarioGPT: Open-Ended Text2Level
Generation through Large Language Models. 1-10. DOI: https:// doi.org/10.48550/arXiv.2302.05981

(*2)
Huang, S., Grady, P., & GPT-3. (2022). Generative AI: A Creative
New World. Sequoia Capital. https://www.sequoiacap.com/
article/generative-ai-a-creative-new-world/ (accessed 2023-06-
22).

(*3)
Nader, K., Toprac, P., Scott, S., & Baker, S. (2022). Public
understanding of artificial intelligence through entertainment
media. AI & Society. Ann Arbor, MI: Inter-university Consortium
for Political and Social Research, 1-14. DOI: https://doi.org/
10.1007/s00146-022-01427-w

(山本 康正 : 京都大学客員教授)