コンテンツプロバイダーとして利益拡大を模索するTBS。佐々木社長は「今は必ずしも視聴率イコールお金とはならない」と語り、社長賞の選定基準も変わっていくとの見方を示した(記者撮影)

テレビの視聴率低下に伴い広告費の縮小が続く今、テレビ“以外”での収入をいかに拡大するかは放送業界にとって死活問題だ。

TBSホールディングス(以下TBS)は2023年6月に学習塾大手のやる気スイッチグループを子会社化し、同日に動画配信大手のU-NEXTを持ち分法適用会社化することを発表した。近年は政策保有株の売却資金を元手に、アニメ制作会社などさまざまな業種に投資している。

立て続けのM&Aの先で、どのような成長ビジョンを描くのか。TBSの佐々木卓社長に聞いた。

大好きなのに弱かった教育コンテンツ

――6月末にやる気スイッチグループを子会社化しました。なぜテレビ局が学習塾を買収したのでしょうか。

5年前の社長になったばかりの頃、毎週金曜日に若手とランチミーティングを行っていた。2030年に放送以外でどんな仕事をやりたいかを話し合う中で、「なんで教育のジャンルを触らないのですか?」という声が上がったのがきっかけだ。

僕らは「どうぶつ奇想天外!」や「世界ふしぎ発見!」のように、学校では教えてくれないことを学べるコンテンツが大好きだ。にもかかわらず、ここが弱いという話が出て、「知育・教育」を大きな柱に掲げようと判断した。


3年前に社名を「東京放送ホールディングス」から「TBSホールディングス」に変更したときの合い言葉が、「東京を超えろ。放送を超えろ。」だった。放送事業だけでないコンテンツ企業になると腹をくくり、会社としての拡張戦略の中に「知育・教育」というジャンルを入れ込んだ。

バレエ教室の展開などから始まり、より本格的な教育事業を志向する中でやる気スイッチグループに目をつけた。僕らは教育に関しては素人。プロではないので、本格的に教育事業をやっている人たちと一緒に学びたかった。

――少子化の時代でも、教育領域は伸びていくと見ていますか。

教育事業といっても、昔われわれが受験していた頃の学習塾のイメージとはまったく違う。

少子化は確かに真剣に考えなければいけない問題だが、逆に子供1人ひとりに使うお金は増えている。学習塾以外のところで市場が伸びているのも間違いない。教育事業は少子化で厳しい、という図式は必ずしも正しくないと思っている。


ささき・たかし/1959年7月生まれ。早稲田大学卒業後、1982年に東京放送(現TBSホールディングス)入社。グループ経営企画局長などを経て、2013年にTBSテレビ執行役員編成局長。2015年に当社取締役を経て2018年から現職(撮影:尾形文繁)

――やる気スイッチグループとTBSの既存事業の間で、具体的にどうシナジーを?

すぐ思いつくのは、教育現場におけるニュースやバラエティの素材といったアーカイブの活用だ。今は「探究学習」が重視されるが、問題提起をするための映像素材がわれわれには大量にある。

もう1つは、やる気スイッチの皆さんと一緒に映像を共同制作し、それをIP(知的財産)として世界中で展開していくことも考えられる。

――教育コンテンツの映像制作などは、TBSが持つリソースだけでは難しいのでしょうか。

教育では、子供たちの心に入っていき、彼らがどう反応するかが重要だが、これまでテレビは「流しっぱなし」だった。子供たちが求めているものは何か、どんな反応をしたのかという分析は、(やる気スイッチグループのような教育事業者と)タッグを組まないとなかなかわからない。

逆に、やる気スイッチ側は子供たちが求めるものや反応には詳しいが、それを具体的に映像化し、より興味深く面白くするノウハウ、メソッドに関してはあまり持っていないだろうから、二人三脚でうまくやっていける。

出口は多いほうが儲けられる

――やる気スイッチグループを買収した同日、動画配信サービスを展開するU-NEXTへの追加出資により、同社を持ち分法適用会社化することを発表しました。「テレビ離れ」が進む今、TBSにとっての放送と配信の位置づけを教えてください。

僕らは一義的に「テレビ離れ」と言われることをあまりよく思っていない。テレビという機器から離れるのか、テレビコンテンツから離れるのか、というのは全然違う話だ。

今でもテレビの番組制作ノウハウは配信やYouTubeの世界でも主流中の主流で、今後もテレビコンテンツ自体はますます有意義になっていくだろう。ただし、出口は地上波だけではないということだ。われわれは配信を各放送局の中でもいちばん熱心にやってきたと思う。

とくに無料配信に関しては、(無料動画配信サービスの)TVerにテレビコンテンツを出すと地上波とカニバリになり、損ではないかという見方もあった。それはもちろんわかるが、出口をいっぱい作り、より大勢の人に見てもらうほうがコンテンツは儲けられる。僕らはコンテンツを提供するコンテンツプロバイダーとして利益を出していく方向性を強めた。

そうした中で、僕ら自身も有料配信サービスのParavi(編集注:テレビ東京ホールディングスなどとの共同出資で設立。2023年3月にUSEN-NEXT HOLDINGSが買収し、傘下のU-NEXTに吸収合併)という拠点を持っていた。拠点を持っていないと、根無し草のようになってしまう不安があったからだ。

ただ、有料の配信プラットフォームでは海外勢がいて、過当競争であることは間違いない。そこで、日本でいちばん大きいプラットフォームを作ろうと思い立ち、ParaviとU-NEXTが合流した。


やる気スイッチグループやU-NEXTなどと連携したコンテンツ制作を強化すると語った佐々木社長(撮影:尾形文繁)

――TBSとして、有料配信サービスではU-NEXTが日本一を取ると見た、ということですか。

もちろん(日本テレビ傘下の)Huluなど皆さん頑張っているけれども、われわれが組んで最も伸びるだろうなと思ったのがU-NEXTだった。

僕らはテレビコンテンツで言うとドラマが強い。これから先、ドラマを作る工場としての供給能力は相当あると思う。一方でU-NEXTは、韓流など多様なコンテンツを僕らにはないスピード感と資金力で作っている。ただ、テレビドラマに関して言うと、存在感があまりなかった。だからお互いの補完機能としては完璧だと思った。

U-NEXTとより近い関係になりたかった

――USEN-NEXT HOLDINGSによる買収の段階で業務提携を発表していましたが、今回持ち分法適用会社化に踏み込んだのはなぜでしょうか。

ParaviとU-NEXTが合流しただけでは、遠い親戚ぐらいの間柄で、これから一気に兄弟・姉妹ぐらいの関係になりたいと思った。U-NEXTが大きくなれば、コンテンツを提供しているわれわれにも大きなリターンが返ってくるような形にしたかった。

今後はオリジナルドラマを作っていく。(U-NEXTの持ち分法適用会社化によって)僕らは真摯にU-NEXTに向けたドラマを作れる。仮にHuluや(フジテレビ運営の)FODと組むと、どっちのテレビ局がイニシアチブを持つかといった難しい問題がある。テレビ局傘下ではないU-NEXTは、テレビコンテンツを提供するうえではいちばんやりやすい提携先だ。

例えばオリジナルコンテンツを開発したり、大きな予算で一緒にスポーツ中継を行ったりするには、自社コンテンツを優先的に供給する配信プラットフォームが必要だ。そういう全力投球するものは、U-NEXTと組むと決めている。

――配信市場が拡大する中で、これまでのテレビ視聴率とは別の指標が求められているように感じます。コンテンツ作りを強化するに当たって何を重視していきますか。

僕らは今、「ライフタイムバリュー」という考え方を重視しようと思っている。1つのコンテンツがその生涯でいくらを儲けたかという指標だ。それを数値化して最も儲けたコンテンツが偉いんだ、という意識改革をしようと旗を振っている。

以前「MIU404」というドラマがあり、その中で出てきたメロンパン号という車両が話題になった。その車が日本全国を走るとお客さんが集まり、たくさん商品を買ってくれた。例えばこれらをカウントすると何千万円、あるいは何億円になっているかもしれない。

昔はテレビの視聴率だけで褒められていたが、今は必ずしも視聴率イコールお金とはならない。コンテンツが後々派生していくことで価値が最大化される。教育コンテンツのアーカイブ活用もまさにその1つになる。

最近までは視聴率にリンクして社長賞をあげていたが、今後は放送から4年たった後に社長賞をあげるようなコンテンツが出てくるかもしれない。放送したときの視聴率が低くても、その後の配信やイベントで儲けを生んでくれればそれは社長賞だ。

「PBR1倍割れ」への受け止めは?

――視聴率はもはや重要ではない、ということですか。

地上波が最優先ということはなんら変わらない。ただし、昔は精神主義が強く、地上波だけの数字で頑張ることが美しいとされていた。今は地上波以外の窓口でも展開していくのが理想の姿だ。

――東京証券取引所は日本企業のPBR1倍割れを問題視していますが、テレビ局は総じてPBR1倍割れの状況です。資本効率の低さについてはどのように受け止めていますか。

これは申し訳ないが、報道機関としてどんな災害があったときでも報道を続けられる基礎体力を持っておく必要がある。その前提は普通の企業とは違う。僕らはCMがなくても続ける必要があり、停電になっても対応できる設備を確保するには、キャッシュも必要となる。

あくまでそれを前提としたうえで、PBRで1倍を目指すことや株価を上げるという、これまで語ってこなかった部分は重視し始めている。とりわけ今東証が言っているPBRで1倍という指標は十分に考えており、ステークホルダーのために株価を上げる努力も当然していく。

(郄岡 健太 : 東洋経済 記者)