年間の自殺者が3万人を超えていた1998〜2011年に比べ、ここ7年は約2万人に減少。しかし、コロナ禍になって微増している。臨床心理士であり、大学で自殺についての講義を持つ末木新さんは「SNSに『死にたい』というつぶやきがあふれているように、自殺を考える人は多い。しかし、実行する人は全体の2%ほど。もし親しい人から打ち明けられたら、どう対応するか考えてみてほしい」という――。

※本稿は、末木新『「死にたい」と言われたら 自殺の心理学』(ちくまプリマー新書)の一部を再編集したものです。

■SNSで可視化された「死にたい」というつぶやき

皆さんは、Twitter(現・X)で「死にたい」と検索したことがあるでしょうか? 必ずしもTwitterでなくても良いですが、TwitterなどのSNS上には「死にたい」という声があふれています。

「死にたい」にはもちろん、さまざまな意味があります。どのような意味でこの言葉を発しているかは、ケースバイケースです。かなり深刻に自殺を考えており、具体的な自殺の手段まで準備している場合もあれば、冗談のようにつぶやいている場合もあるでしょう。この言葉だけでその人の状態を判断することはできませんが、とはいえ、そんなことを言う人と言わない人を比べれば、前者の方が何らかの問題を抱えている可能性が高いだろうと推論することに異論はないでしょう。

「死にたい」という思いを抱えることそのものはそれほど珍しいことではありません。どのように質問をするかにもよりますが、たとえば、「過去1年の間に、自殺をしたいと考えたことがあるか」という質問をすると、一般的には5%前後の人が「はい」と回答します。

過去1年ではなく、これまでの人生で、というような縛りにすると、20〜30%前後の人が、自殺をしたいと考えたことがあると回答します。つまり、長い人生を送る上で、2〜3割程度の人はそれなりに深刻に自殺をしたいと考えたことがあるということになります。「死にたい」と思うことは珍しいことではないというのはこのような意味です。

出典=「令和4年中における自殺の状況」令和5年3月14日、厚生労働省自殺対策推進室、警察庁生活安全局生活安全企画課

■「死にたい」と言う人は、放っておいて大丈夫?

これだけ多くの人が、自殺をしたいと過去に考えたことがあり、そして一部の人は今もまさに考えています。しかし、現実に自殺で亡くなるのは、おおむね人口の2%程度です。2〜3割の人が人生において一度は自殺を考えるとしても、実際に自殺で亡くなる人はその10分の1の2%ですから、自殺を考えたとしても、自殺で亡くなる人はそれほど多いわけではないと言うことそのものは間違いありません。自殺で亡くなるのは、自殺を考えることに比べてはるかに難しいと言い換えることもできるかもしれません。

では、「死にたい」とか「自殺したい」という発言はそれほど意味がないもので、軽く扱ったとしても実際には自殺が起こることはないのでしょうか。別に死ぬつもりで言っているわけではなく、ただ単に周囲の注意をひきたいとか、そういう意味合いで発言されているものだと理解して良いのでしょうか。

■Twitterで「死にたい」と投稿する人は危険因子が多め

この問題については、私は、実際に調査をしたことがあります。Twitterで「死にたい」とか「自殺したい」とか、そういうことをつぶやいている人はどういう人なのだろうか? という調査です。実際に、つぶやいている人と、そうではない人を比較すると、Twitterで「死にたい」とかつぶやいている人は、過去に自殺企図をしたことがある人が多く、自殺の計画をしており、自殺念慮を抱いていて、自傷経験があり、抑うつ度が高く、精神科に通った経験があり、アルコールを飲む頻度が高いようでした。

自殺の危険因子のオンパレードという状態です。

Twitterで「死にたい」とか「自殺したい」とかつぶやいている人が、これまでの人生で自殺したいと真剣に考えた割合は7割程度でしたので、一般人口での2〜3割という調査結果と比較するとかなり高いことが分かります。一方で、10割ではないので、冗談のように「死にたい」とつぶやいている人も一定の割合でいるということです。

Twitter(現・X)の画面、「死にたい」とつぶやくと支援窓口が表示される

「「死にたい」と他人に言うような人は実際には自殺しない」という話があります。一方で、自殺に関する専門家や識者が、そんなことはなく、それは神話であって、実際には自殺するのだと言う場面を目にすることもよくあります。

「死にたい」とか言う人が、“今すぐ”に自殺を試みて実際に亡くなる可能性は低いものです。ですから、「死にたい」なんて言うやつほど死なないというのは、短期的に見ればほとんどの場合、正解です。

一方で、「死にたい」と言う人は実際のところ自殺の危険因子をかなり多数保有しているので、長い目で見れば自殺で亡くなってしまう可能性はそんなことを言わない人間に比べるとはるかに高いということになります。そして、もちろん可能性としては、それが「死にたい」とか言った直後に起こることもあります。

出典=「令和4年中における自殺の状況」令和5年3月14日、厚生労働省自殺対策推進室、警察庁生活安全局生活安全企画課

■もし友人や恋人にそういう気持ちを打ち明けられたら…

「死にたい」という表現はSNSの専売特許ではなく、実際に、我々は身近な人からそう言われる場合もあります。私は所属大学で「自殺学」という半期15回の間、自殺のことしかしゃべらない授業をやっていますが、受講生の大学生からは頻繁に、「友人や恋人から『死にたい』と言われてどうしたらいいのか分からなかった」という質問を受けます。

2〜3割前後の人が人生で一度は自殺を考えるのであれば、それを打ち明けられる経験をしたことがある人もそれなりの数はいるでしょう。

■親しい人が極端な行動に走るのをどうしたら止められるか

それでは、我々は「死にたい」と言われた時にどうすれば良いのでしょうか。私の考える正解は必ずしも「自殺を予防する」ではありません。特に、自殺することを考えている人や、身近な人を自殺で亡くした人が「自殺を予防するのは人間として当たり前のことだろう」「それ以外の選択肢なんて考えられない!」なんてことを聞いたら、傷ついたり、しらけたりする場合もあるでしょう。

とはいえ、自分にとって大事な人から「死にたい」「自殺するつもりだ」と言われたら、多くの人は自然と「どうすれば止められるだろうか?」と考えるでしょうし、そういうことについて知りたい人も多いと思います。

そこで、まず、自殺を防ぐために何をどう考えればいいのかということについて説明をしていきたいと思います。

■基本中の基本、緊急事態の場合は119番と110番

ごくごく当たり前の話ですが、まず、すでに自殺企図をしている状態に遭遇したのであれば(例:自殺をしようと思って睡眠薬を過量服薬し、意識朦朧とした中で電話をかけてきた)、119番に電話をして速やかに救急車を呼ぶということになります。

なんとも当たり前の話ですが、これが最も重要なことです。

写真=iStock.com/kohei_hara
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara

では、まだ自殺企図をしていない状態であるが、今にも自殺企図をしそうだという場合はどうでしょうか(例:自殺の手段の準備が済んだ状態で「これから自殺する」という連絡が来た)。もちろん、この場合はベストな対応が一義的に決まるわけではないのですが、もし自分一人ではどうにもできないがこの人の自殺を止めたいと思った場合は、110番をして警察に連絡をするのが良いと私は思います。

■警察に通報する前、本人に了解を取るのがベター

警察法の第二条には、「警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもってその責務とする」と書かれています。一般に我々は、警察は他殺や事故の問題を扱うと考えがちです。しかし、ここでの「個人の生命、身体及び財産の保護」には自殺の問題も含まれており、警察は自殺の危険が差し迫った状態にある市民の保護も行ってくれます。

警察に通報をする場合には、可能であれば通報の前に、自殺の危険に晒された人に警察を呼ぶことの許可を得た方がその後の関係性を考えれば良い場合が多いと思います。警察に対してはさまざまなイメージを持っている人がいるので勝手に通報をしない方が良いとは思いますが、とはいえ、それを拒否する人もいるでしょうし、拒否をされてでも呼んだ方が良いと判断している場合もあるとは思います。

拒否をされてでも警察を呼ぶつもりであったとしても、「通報して保護してもらおうと思うけれども良いか?」と聞いてみると案外あっさりOKしてくれるという場合もあるので、そのようなやりとりを挟んだ方が良いと思います。

写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■緊急事態でなければ自分で対応することを考えてみる

119番や110番をするほど差し迫った状況ではない場合、自分でなんとか対応してみようと考える人もいると思います。こういうことは専門家(例:精神科医)に任せた方がいいのではないかと考える人もいるかもしれませんが、私は、「死にたい」と言われたその人が頑張って対応をしようとすることは基本的にとても良いことだと思います。

もちろん、専門家に任せた方がいいとか、任せなければどうにもならない場合もあります。しかし、自殺というものは基本的にかなり稀な現象であり、長い目で見ても「死にたい」と思った人の大半は自殺をしません。一方で、死にたいと思うことそのものはそれほど稀なことではないため、死にたいと思ったあらゆる人に専門家が対応することはそもそも現実的ではありません。専門家というのは「資源」であり、資源には限りがあるからです。

■あなたに「つながり」を感じているから打ち明けている

末木新『「死にたい」と言われたら 自殺の心理学』(ちくまプリマー新書)

また、自殺を引き起こす最も大きな問題は孤独やつながりの欠如です。常識的に考えても、我々の人生の大半を支え豊かにしてくれるのは対人支援の専門職の人間ではなく、家族や友人といった周囲で共に生きる人々です。「死にたい」などという気持ちは人生における重大な秘密であり、仮にそれを周囲の人に打ち明けることがあるとすれば、誰でもいいから言ってみたということはほぼありえません。

打ち明けた側は意を決して、その人だからこそ打ち明けたのであり、そこに特別なつながりを感じている可能性はかなり高いと思われます。だからこそ、可能であれば、死にたい気持ちを打ち明けられたその人が、何が最善か分からなかったとしても頑張って対応することが、周囲とのつながりの回復につながる可能性が一番高いですし、それが結果としては自殺を予防するということへの最短ルートになっている可能性も高いわけです。

● 電話やSNSによる相談窓口の情報
・#いのちSOS(電話相談)
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・生きづらびっと(SNS相談)
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・10代20代女性のLINE相談(SNS相談)

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末木 新(すえき・はじめ)
和光大学現代人間学部教授
1983年生まれ。東京大学大学院教育学研究科臨床心理学コース博士課程修了。博士(教育学)、公認心理師、臨床心理士。主な著書に『インターネットは自殺を防げるか――ウェブコミュニティの臨床心理学とその実践』(東京大学出版会、第31回電気通信普及財団賞受賞)、『自殺学入門――幸せな生と死とは何か』(金剛出版)、『公認心理師をめざす人のための臨床心理学入門』(大修館書店)など。
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(和光大学現代人間学部教授 末木 新)