AIはフォトストック業界を殺すのか?
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AIの発達により多くの職業が影響を受けると予想されており、すでにゲーム開発者やイラストレーターの働き方や収入に大きな変化が出始めています。本物の写真と見分けがつかないような画像を生み出せるようになってきたジェネレーティブAIが、ストック写真を扱う業界にどのような影響を与えるのかについて、フォトストックサービスの比較分析を行う企業・Stock Performerの共同設立者であるオリバー・キューデル氏が解説しました。
https://www.stockperformer.com/blog/is-ai-killing-the-stock-industry-a-data-perspective/
・目次
◆1:ストック業界の概況
◆2:本当にフォトストック企業の収益は減っているのか?
◆3:AI生成画像をアップロードする人は全体の何割?
◆4:AI生成画像の売れ行き
◆5:売れるのはどんなAI生成画像なのか?
◆6:フォトストック業界とAIの今後
◆1:ストック業界の概況
キューデル氏が2010年にStock Performerを設立した当時、フォトストック業界ではShutterstockが大きな成功を収めており、業界が安価に大量の写真を提供するサブスクリプションモデルの導入を急いだことで、写真家の収入が不安定になり始めました。この懸念は目新しいものではなく、インターネットが普及しし安価な機材で誰もが写真を撮れるようになった2000年代にも、それまで写真1枚を売るごとに大金を稼いできた写真家たちは自分たちのキャリアが終わると真剣に考えていました。
そして、AIが精度の高い画像を生成できるようになってから、業界関係者たちは再び「今度こそフォトストック業界が消滅するのだろうか?」と自問するようになっています。そこでキューデル氏は、フォトストック業界上位3社の収益の推移を分析して、Midjourneyのような強力な画像生成AIの登場がフォトストック業界にどのような変化をもたらしたのかを分析しました。
◆2:実際にフォトストック企業の収益は減っているのか?
以下は、iStockphotoの収益の推移を表すグラフで、青いバーは収益、赤い折れ線グラフはダウンロード回数、下の方の色が濃い領域がアップロード数を示しています。iStockphotoは2017年以降着実に収益を伸ばしており、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るった2020年と2021年に収益はさらに加速しました。強力な画像生成AIが次々と登場し始めた2022年後半以降も収益は安定しており、大きく減少している様子は見られません。
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続いてShutterstockです。2022年にはアップロード数が急増していますが、ダウンロード数や収益には結びついていません。とはいえ、これをAIの影響とするのには疑問の余地があるとキューデル氏は述べています。なぜなら、景気の悪化に伴って大企業が広告費を削減しており、ストック写真やストックビデオの売り上げが減るのは自然なことだからです。
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前の2社とは異なり、Adobe Stockの収入は2022年から明らかに急増しています。Adobe Stockは2022年12月にAIが生成したストック写真の取り扱いを正式に開始しており、そのことが売り上げの増加に多少の影響を与えている可能性は否定できません。しかし、増加分に占めるAIの売り上げはごく一部に過ぎないだろうとキューデル氏は予想しています。
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◆3:AI生成画像をアップロードする人は全体の何割?
3社の中で唯一AIが生成した画像を受け入れているAdobe Stockでは、AI生成画像は写真のように見えるものであっても「イラスト」としてカウントされているほか、画像には「AI生成」というタグを付けなければなりません。
「AI生成」のタグが付いた画像をアップロードしている人の割合は以下の通り。2023年5月の時点では、Adobe Stockを利用しているStock Performerユーザーの13%がAI生成画像をアップロードしています。
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AI生成画像をアップロードしている人の「AI依存度」は大きく二分されています。以下は、月に1つはAI生成画像をアップロードしている人を対象に、その月にアップロードした全ての画像に対するAI生成画像の割合を色分けしたものです。Adobe StockにAI生成画像をアップロードしている人は、少しAIを触っただけの人(0〜10%)か、AI生成画像の制作に専念している人(90〜100%)のどちらかで、その中間の人はほとんどいないことが分かります。
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◆4:AI生成画像の売れ行き
Stock Performerが収集しているデータから導出される指標のひとつに、「STR(Sell-Through Rate)」というものがあります。これは、少なくとも1回は売れたファイルの割合です。キューデル氏によると、AI生成画像を取り扱っているAdobe Stockの場合、画像全体のSTRは13%とのこと。言い換えれば、2022年にAdobe Stockにアップロードされた画像のうち、87%はまだ売れていないことになります。
画像全体のSTRが13%なのに対し、AI生成画像のSTRは9%とやや低めです。つまり、これまでのところAI生成画像の多くは普通の画像より売れないということになります。
とはいえ、AI生成画像の投稿者にとってはSTRの低さはさほど大きな問題ではありません。なぜなら、大量に制作できるAI生成画像は、制作に時間がかかる一般的な画像より費用対効果が高いからです。また、画像の売り上げが伸びるのには時間がかかるため、時間がたつにつれてAI生成画像のSTRは平均に近づく可能性があると、キューデル氏は考えています。
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キューデル氏は「ウワサによると、Adobe StockではAI生成画像が多すぎて検査が遅れがちとのこと。つまり、ある種の『AIゴールドラッシュ』が起きているようです」と話しました。
◆5:売れるのはどんなAI生成画像なのか?
ユーザーが販売している画像を直接掲載するわけにはいかないので、キューデル氏が売り上げ上位のAI生成画像を再現したものが以下。売れているAI生成画像は写真のようなリアルなものではなく、抽象的な画像や壁紙風のイラストがほとんどとのこと。Adobe StockではAI生成画像はイラストに分類されるので、購入者はイラストを求める層が主軸になり、「抽象」「背景」「アート」などの検索ワードでヒットするのが要因ではないかと考えられています。
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リアル系の画像が売り上げ上位に来ることはほとんどありませんが、売れる場合は肖像画や食べ物を扱ったものが多くなります。
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キューデル氏は「これまでのところ、特にモデルが写っている画像では、AI生成画像が高品質なストック写真に取って代わる気配はありません。一方、イラストレーターは困難な時期を経験しているかもしれません。イラストの需要は減りませんが、競争は激しくなるでしょう。とりわけ、イラストを制作する時間と手間はAIによって大幅に削減されるので、Adobe StockのイラストレーターはAIツールを使用して画像を制作する方がいいかもしれません」とコメントしました。
◆6:フォトストック業界とAIの今後
キューデル氏は、今回の分析に使ったデータはあくまでStock Performer上で利用可能なデータのみであり、すべてのフォトストック関係者がStock Performerの顧客というわけではないため、必ずしも完全な全体像ではない点に注意が必要としています。また、扱うデータは平均値なので場合によってはまったく異なるケースもありうるほか、急速に変化しつつある技術なので1年もすれば事情が大きく変わっている可能性もあるとしています。
その上で、フォトストック業界が今後AIから受ける影響について「まだ答えが出ていない大きな問題は、企業がフォトストックサービスを解約して自社でAI生成画像を作るようになるかどうかということです。中小企業にはそのようなリソースはないかもしれませんが、大企業にはあります。しかも、フォトストック業界に最も大きな収益をもたらすのはそのような大口顧客なので、もし大企業が画像を自社で調達するようになればフォトストック業界は大打撃を被ります。とはいえ、大企業は時代の変化への対応が遅く、プロのプロンプトエンジニアもまだ一握りです。ですから、もし大企業がフォトストック業界を切り捨てることがあるとしても、それはまだ先のことでしょう」と述べました。