日本ハム・万波中正【写真:矢口亨】

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投手力安定のロッテは打も復調、日本ハムが上昇の5月

 好調なチームと、波に乗り切れないチームとの差が徐々に開き始めた5月のパ・リーグの「月間MVP」をセイバーメトリクスの指標で選出してみる。選出基準は打者の場合、得点圏打率や猛打賞回数なども加味されるが、基本はNPB公式記録が用いられる。ただ、打点や勝利数といった公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標と扱わない。そのため、セイバーメトリクス的にどれだけ個人の選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、公式に発表されるMVPとは異なる選手が選ばれることもある。まず、5月のパ・リーグ6球団の月間成績を振り返る。

○ロッテ:12勝6敗2分
得点率3.95、打率.247、OPS.717、本塁打18
失点率2.80、先発防御率2.58、QS率55.0%、救援防御率2.92

○日本ハム:14勝11敗
得点率3.08、打率.223、OPS.642、本塁打22
失点率2.59、先発防御率1.95、QS率56.0%、救援防御率2.57

○オリックス:13勝10敗2分
得点率4.33、打率.265、OPS.702、本塁打16
失点率2.92、先発防御率2.42、QS率60.0%、救援防御率3.38

○ソフトバンク:12勝9敗2分
得点率3.83、打率.244、OPS.660、本塁打17
失点率3.64、先発防御率3.65、QS率43.5%、救援防御率3.52

○楽天:9勝13敗1分
得点率3.00、打率.216、OPS.632、本塁打18
失点率3.56、先発防御率2.61、QS率65.2%、救援防御率3.34

○西武:7勝16敗1分
得点率2.04、打率.210、OPS.555、本塁打11
失点率3.76、先発防御率4.25、QS率54.2%、救援防御率2.08

 4月に続き、月間勝率1位を勝ち取ったのはロッテ。先発、救援ともに2点台の防御率を誇る安定の投手陣に加え、徐々に打線にも活気が生まれ、チーム月間OPS.717はリーグ1位である。4月はホームでの強さが目立ったが、5月はビジターでも8勝4敗と4つの貯金に成功。1度も連敗を記録しない安定の戦いぶりであった。安定の要因の一つとして、初回失点率5.6%と、相手を勢いづかせない先発投手陣の立ち上がりの良さがある。

 4月に最下位発進となった日本ハムは、5月攻勢で月間14勝をマーク。球団史上、2019年5月以来4年ぶりだ。4月からは投手陣が大きく改善し、先発防御率が1点台と安定してきた。楽天と西武はともに月間チーム打率が2割1分台と低迷。特に西武の得点率が2点台と深刻な得点力不足にあえいでいる。そんなパ・リーグの、セイバーメトリクスの指標による5月の月間MVP選出を試みる。

3勝、防御率0.30の日本ハム加藤貴之を上回った投手とは…

 投手の評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す「RSAA」を用いる。上位ランキングは以下の通りとなった

○宮城大弥
RSAA:6.56、登板4、イニング29回1/3、防御率1.23、WHIP0.92、奪三振率7.36、奪空振率10.9%、QS率75%、HQS率75%

○佐々木朗希
RSAA:5.10、登板2、イニング11、防御率1.64、WHIP0.45、奪三振率17.18、奪空振率21.1%、QS率50%

○加藤貴之
RSAA:4.92、登板4、イニング30、防御率0.30、WHIP0.77、奪三振率5.10、奪空振率6.2%、QS率100%、HQS率75%

○西野勇士
RSAA:4.393、登板4、イニング27、防御率1.67、WHIP1.00、奪三振率5.67、奪空振率4.8%、QS率75%、HQS率50%

○山岡泰輔
RSAA:4.392、登板3、イニング17、防御率2.12、WHIP0.94、奪三振率8.47、奪空振率14.3%、QS率66.7%

○東浜巨
RSAA:4.21、登板4、イニング27回1/3、防御率4.61、WHIP1.28、奪三振率8.56、奪空振率8.8%、QS率50%、HQS率25%

○山本由伸
RSAA:4.18、登板3、イニング21、防御率2.14、WHIP0.86、奪三振率9.43、奪空振率10.8%、QS率100%、HQS率66.7%

 日本ハムの加藤貴は月間3勝、防御率0.30を記録し、NPBによる公式の月間MVP最有力候補である。魅力は四球の少なさ。5月も打者109人に対してわずかに2つだった。全投球に対するストライクゾーンを通過する割合「ZONE%」も60%と他の投手を圧倒している。その加藤貴がRSAAランキング3位で、それを上回ったのがWBCでも活躍した若手2投手だ。

 佐々木朗は2試合11イニングの登板ながら、39人の打者から21個の三振を奪い、その率53.8%。つまり半数以上の打者から三振を奪っている。奪空振率も21%、スイングされたときの空振り率「Whiff%」も40%と驚異的だ。

 その佐々木朗以上のRSAAを記録したのが、オリックスの21歳左腕・宮城だ。5月の登板は4試合ともビジターだったが、3試合でHQSを記録。そのうち5月9日の楽天戦では被安打4、奪三振6、与四球1で今季チーム初となる完封勝利を達成した。イニングイーターとしてオリックス投手陣に大きく貢献した宮城を、セイバーメトリクス目線で選ぶ5月のパ・リーグ月間MVPに推挙する。

実績ある浅村、柳田以上の得点を叩き出した日本ハムの23歳

 打者の評価としては、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりも、どれだけその選手が得点を増やしたかを示す「wRAA」を用いる。上位ランキングは以下の通りとなった

○万波中正
wRAA:8.95、99打席、OPS.916、打率.267、本塁打7

○中村奨吾
wRAA:6.44、91打席、OPS.903、打率.338、本塁打2

○浅村栄斗
wRAA:6.33、96打席、OPS.872、打率.253、本塁打7

○柳田悠岐
wRAA:5.96、104打席、OPS.889、打率.267、本塁打6

○頓宮裕真
wRAA:5.20、97打席、OPS.858、打率.369、本塁打0

○安田尚憲
wRAA:4.70、76打席、OPS.889、打率.290、本塁打3

 5月のパ・リーグの打者成績を見ると、打率4割以上とか、OPS1.000以上といった突出した記録が生まれていない。今季も投高打低のパ・リーグを象徴しているようだ。そんな中で最も高い「wRAA」を記録したのが日本ハム期待の23歳、万波中正である。

 3月にバンテリンドームで行われた侍JAPANの壮行試合にサポートメンバーとして出場すると、広いバンテリンドームで特大のホームランを放ち、今季の活躍を予見させた。勢いはシーズンに入ってからも続き、4月はチームでトップのwRAAを記録し、低迷するチームのけん引役を担ってきた。5月に入り打撃はさらに磨かれ、長打率.600と大きくチームに貢献している。

 昨季まで荒いと評価され、外角のボールとなるスライダーに手を出して空振りするイメージがあった打撃は、40%以上あった「O-swing%」が30%台にまで減少、全投球に対する空振り率「SwStr%」も、昨年の23%から14%にまで改善してきた。コンタクト率が上がったことにより、持ち前のパワーが打球に乗り移る確率が上がってきたのだ。怪我人が多いチーム状況の中、丈夫な身体と磨かれつつある技術でチームに貢献する万波中正を5月の月間MVPパ・リーグ打者部門に選出する。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修や、「AKB48選抜じゃんけん大会」の組み合わせなどエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。