●BiSHの生き様と重なる『天国大魔境』OPテーマ

6月29日の東京ドーム公演をもって解散する“楽器を持たないパンクバンド”BiSH。3月22日にラストシングル「Bye-Bye Show」をリリースし、現在放送中のテレビアニメ『天国大魔境』(毎週土曜 TOKYO MX/MBSほかで放送中)ではオープニングテーマ「innocent arrogance」(イノセント アロガンス)を担当している。BiSHにインタビューし、本作の魅力やアニメソングを歌う喜び、さらに解散が近づいてきている今の心境や今後について話を聞いた。

BiSHのアイナ・ジ・エンド、アユニ・D、セントチヒロ・チッチ、モモコグミカンパニー、ハシヤスメ・アツコ、リンリン(左から)

解散は、プロデューサーである渡辺淳之介氏が「一番輝いている時に解散してほしい」との思いで提案。そこからメンバーで話し合いを重ね、解散することに決めたという。BiSHでの活動を「青春」「人生の糧」などと語るメンバーは、「精一杯BiSHを生き抜いて6・29を迎えたい」と強い思いで解散ライブに向かって突き進んでいる。

そして、『ブラッククローバー』や『キングダム』など数々のアニメの楽曲も担当してきたBiSHにとって、最後のアニメタイアップとなるのが「innocent arrogance」だ。『天国大魔境』は、「このマンガがすごい!2019」オトコ編第1位にランクインした石黒正数氏の近未来SFアドベンチャー作品が原作。未曾有の大災害により廃墟となった日本で“天国探し” の旅をするマルとキルコと、壁の中の美しい世界で暮らしながら外の世界に想いを巡らせるトキオたちを並行して描いていく物語で、本作のために書き下ろされた「innocent arrogance」は、BiSHのサウンドプロデュースを務めている松隈ケンタ氏が作詞・作曲を手掛けた。

――「innocent arrogance」の魅力をどのように感じていますか?

セントチヒロ・チッチ:BiSHはパンクやロックが多いイメージがあると思いますが、曲の入りから『天国大魔境』の世界観に入り込めるような音楽になっていて、アニメを見て初めてBiSHを聴いた方にも好きになってもらえる楽曲ができたなと喜んでおります。歌詞はすごく物語の世界を表現していますが、私たちが生きているこの時代でもそういう風に思って生きている人はたくさんいるだろうなと思えるものになっていて、BiSHももがきながら光のもとへ向かってがむしゃらに生きてきたので、そういう思いが伝わればいいなと思っています。

――レコーディングで印象に残っていることを教えてください。

アイナ・ジ・エンド:レコーディングは最初にキーチェックがあり、私が松隈さんとやらせていただいたのですが、今回はキーチェックのときにメロの修正をしたり、何パターンかのメロを歌ったり、本当に熱がこもっているんだなと感じました。6人のレコーディングの日も、その熱は冷めずしっかりやり遂げられて楽しかったです。

リンリン:曲の最初がおとなしく始まるのですが、松隈さんから「ささやくように優しく歌って」と言われて、すごく小さい声でささやいて歌いました。

――先ほどチッチさんから、もがきながらがむしゃらに生きていたBiSHと重なる楽曲だというお話がありましたら、『天国大魔境』と重なる点や共感した点がありましたらお聞かせください。

『天国大魔境』ビジュアル

アユニ・D:『天国大魔境』のキャラクターたちは、自分たちを信じて未知の世界を切り開いていく姿がすごく勇敢で、読んでいて勇気づけられたのですが、BiSH自身も枠にとらわれず自分たちを信じて、自分たちを貫いてきたので、通ずるものがあるのかなと思いました。

モモコグミカンパニー:壁の中の学園にいる子供たちの中には、自分たちの世界はこれだけだと思っている子たちもいて、でも外には全然違う世界が広がっているというのは、生きていく上で身の回りのことがすべてだと思ってはいけないんだなとハッとしました。自分たちが過ごしている世界とは違うことが起こっているというのはあり得るなと思いました。

――アニメ作品の楽曲を担当する喜びややりがいはどのように感じていますか?

セントチヒロ・チッチ:BiSHが初めてオリコンで1位をいただいたのはアニメ作品の主題歌(『ブラッククローバー』第2クールオープニンググテーマ「PAiNT it BLACK」)でした。私もアニメが好きで、作品が好きだと主題歌も大好きになるのですが、そこで出会わせてくれる人たちがたくさんいて、そのパワーってすごいなと思います。あまりライブでやらない曲もサブスクの上位にいるなっていうのは、アニメ作品やゲームでやらせてもらった曲が多く、ファンの方の熱量ってすごいなと。BiSHはそこにすごくパワーをいただいています。

――「innocent arrogance」も『天国大魔境』のファンの方たちに愛されるといいですね。

セントチヒロ・チッチ:そうですね。アイナが振り付けしてくれているのですが、作品の世界を盛り込みながら振り付けをしてくれる時もあって、(作品に)出ている人になったような気持ちで踊ったり歌えたりするので、『天国大魔境』もどんな世界がライブで表現できるのか楽しみです。

●解散後「それぞれの未来が明るければいいな」



――昨年12月に、今年6月29日の東京ドーム公演をもって解散することを発表されました。解散が近づいてきている今の気持ちも教えてください。

ハシヤスメ・アツコ:解散の日が自分たちにとっては夢が叶う日でもあって、東京ドームでラストライブをやらせていただくので、楽しみでしかないですね。東京ドームのことを考えると、どんなステージにしようか、セットリストはどうしようか、とワクワクします。心境は日々変わっていて、ふとした瞬間に寂しい気持ちになったり、清掃員(BiSHのファン)はどんな気持ちなんだろうとか考えてしまいますが、現時点の心境は楽しみでしかないです。

セントチヒロ・チッチ:楽しみだけではなく、解散したらこの6人が離れてしまうという寂しさはもちろんあります。これが最後かもしれないなと思うこともたくさんあって、一個一個大事にしながらみんなで進んでいる感じがします。

――解散を提案され皆さんで話し合って解散を決断し、いろいろな思いがあったと思いますが、今の時点でBiSHとして活動、そして解散は今後の人生においてどのようなものになると思いますか? さらに、卒業後どのようになっていきたいかお聞かせください。

アイナ・ジ・エンド:これだけ命がけみたいな気持ちでやってきたグループが解散する経験をしたことがないのでわかりませんが、6月29日をみんなが生きて迎えられる気はするし、清掃員の人たちも来てくれる気がするので、それだけで幸せなんじゃないかなと。8年何カ月間かBiSHでいさせていただく中で、歌やダンスしかなかった生きがいが、いろんな人に認められて長い間6人で過ごして、(メンバーのことが)大好きだし、愛というものを知ったので、歌とダンスももっともっと深く掘り下げていくことができるようになった気がします。なので、解散後も前向きに表現について没頭していけるのではないかなと思います。

アユニ・D:BiSHでいられたことは自分の人生の糧なので、BiSHが終わって解散して、私がヨボヨボのおばあちゃんになったときも、「BiSHってすごく幸せだったな。今でも自分の生きる糧だな」ときっと思えると思います。もっとナイスな人間になれるように、いい方向にいけるように、BiSHが終わっても頑張りたいと思います。



セントチヒロ・チッチ:BiSHは自分にとって青春だと思っていて、青春が終わりを告げた先の人生がどういうものになるかわかりませんが、青春って何回思い返してもよかったなと思える、人生の糧だと思いますし、これだけいろんなものに恋い焦がれて熱を込めて生きてきた時間は一生残っていくと思います。それくらい思いを込めたものが音楽として残っていくのはすごく幸せで、きっと自らのパワーにもなっていくので、BiSHの曲を聴きながら生きていきたいと思いますが、今はまだ先のことは考えたくないなと。解散までBiSHらしく6人が生きていけたらきっとみんないい人生になっていくと思うので、精一杯BiSHを生き抜いて6・29を迎えたいなと思います。

モモコグミカンパニー:私たちも何年間も頑張ってきましたし、お客さんたちにとってもBiSHが一人ひとりの中ですごく大切なものになっているんだなと最近日々感じています。だからこそ東京ドームがどんな意味合いを持つかはその日の醍醐味でもあると思っていて、東京ドームでどんな景色が見られるか楽しみで今も頑張っています。その先は、学生から社会人になるような楽しみというか、青春が終わってまた一歩踏み出すような、ちょっと大人になれたらいいなと思います。

ハシヤスメ・アツコ:解散がどんな意味合いを持つかはすごく難しくて、6・29になったらわかるかもしれないですし、『天国大魔境』と同じ2024年に何かわかるかもしれないですし、まだ何も言えません。今は、それぞれの目指す未来が明るければいいな、素敵な世界が広がっていればいいなというのをただただ願うのみです。

リンリン:BiSHにいた時間はたぶん私という人間にとって一番大事な時期で、その時期に普通ではできないような体験ができたので、奇跡的なことだなと思います。BiSHでの時間はタイムカプセルみたいにずっと大事にしたいなと思うので、何年後とかにたまにふっと思い出して恋しくなったらみんなに連絡したり、見返したいですし、おばあちゃんになったら1回くらい会ってみたいです。

●それぞれのBiSHへの思いを大切にしてほしい



――ファンの方にとっても大切なものとして生き続けると思いますが、ファンの方たちの中でどのようになっていってほしいと思っていますか?

セントチヒロ・チッチ:BiSHへの思いはそれぞれ違うと思うので、その思いを大切にしてそれぞれの形で持ってくれるのが一番BiSHとしては幸せだなと思います。それぞれにとってのBiSHがあるから、そのままの形を大切にしていってほしいです。

――最後に、『天国大魔境』にちなみ、皆さんにとって天国はどんな印象か教えてください。

アユニ・D:炊飯器を開けたときの炊き立てのご飯の湯気を感じたときに天国だなって思います(笑)

モモコグミカンパニー:みんな一緒です(笑)

アイナ・ジ・エンド:みんな!?(笑)

モモコグミカンパニー:ご飯つながりでいうと、お寿司が大好きなので、この前北海道で高級なお寿司に連れて行ってもらって幸せでした。天国のような。

――皆さん幸せな瞬間に天国を感じるわけですね。

モモコグミカンパニー:そうですね。“天国=幸せ”な感じはあるかもしれません。

セントチヒロ・チッチ:やっぱり、みんなでいる瞬間が天国なんじゃないですか!?

アユニ・D:はい。絆です!

――そういう時間を大切に、6・29の東京ドームまで突き進んでいただけたら。

セントチヒロ・チッチ&アユニ・D:(東京ドームも)天国にします(笑)

■BiSH

アイナ・ジ・エンド、セントチヒロ・チッチ、モモコグミカンパニー、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・Dからなる“楽器を持たないパンクバンド”。2015年3月結成。同年5月にインディーズデビューの後、2016年5月にシングル「DEADMAN」でメジャーデビュー。以降、「オーケストラ」「プロミスザスター」「My landscape」「stereo future」等ヒット曲を連発。2021年12月24日に、2023年をもって解散することを発表。同年、『第72回NHK紅白歌合戦』へ初出場を果たす。2022年12月22日に、2023年6月29日に東京ドームで開催されるライブ「Bye-Bye Show for Never」をもって解散することを発表した。