by █ Slices of Light ✴ █▀ ▀ ▀

OpenAIが開発した対話型AIのChatGPTは、人間が入力したプロンプトに対応した自然な文章を出力することができます。英語や日本語などの現代の言葉には対応しているChatGPTですが、紀元前に話されていたと考えられる「アッカド語」は果たして翻訳可能なのか、ブロガーのジャン氏が実際に試してみたときの様子を紹介しました。

jan's stuff: Translating Akkadian clay tablet with chatGPT?

http://www.janromme.com/2023/05/ChaptGPT-transaltion-of-Akkadian-texts.html

ジャン氏は2008年にロンドンで開催されたバビロン展に赴いたことがあり、そのときに展示されていた石版の写真を撮影しようとしたそうです。しかし、「フラッシュ禁止」の看板を「写真撮影禁止」と読み間違えたと思われるお節介な人物に撮影を邪魔され、記録として残すことができなかったとのこと。

それから十余年、記憶を頼りに石版のことを思い出してみると、その石版はユダのマナセ王に関する聖書の記述に関連したものであったことが分かります。これは、旧約聖書の歴代誌第二に記載された次の一節にまつわるものでした。

エホバはマナセとその民に語り続けたが、彼らは注意を払わなかった。

そこでエホバはアッシリアの王の軍隊長たちを彼らに差し向けた。軍隊長たちはマナセをかぎで捕え、2本の銅のかせで縛ってバビロンに連れていった。

マナセは苦悩の中で神エホバに願いを託し、先祖たちの神の前で大いにへりくだった。

彼が主に祈り続けたので、主はその懇願に心を動かされて願いを聞き入れ、彼をエルサレムで王権に復帰させた。それからマナセは、エホバが真の神であることを悟った。


ジャン氏は「この時、都市バビロンもアッシリアの支配下にありました。アッシリア人は決して寛大ではなかったのに、この時だけは寛大だったのです。その証拠があの石版にあるはずで、もう一度見つけられればいいのですが」と考え、石版を探すことにしたそうです。



by dun_deagh

古代文明に関するコンテンツをアーカイブしているサービスが複数ある中で、ジャン氏が目を付けたのは「Cuneiform Digital Library Initiative(CDIL:くさび形文字デジタル図書館)」というサービスでした。しかし、ここに掲載されているマナセに関するコンテンツは翻訳されていなかったため、「manasseh」で検索しても何もヒットしませんでした。

そこでジャン氏が利用したのがChatGPTです。ジャン氏はまずChatGPTに「あなたはバビロニアやアッシリア、ミタンニなどの古代石版のカタログを閲覧できますか?」と質問したところ、「できません」との回答があったそうです。

ジャン氏が手動でCDIL内を検索しようにも、検索ワードが不明のまま。そこでジャン氏は「ユダのマナセ王の名前は、バビロニアのくさび形文字でどのように書かれたのか推測できますか?」と質問してみました。



するとChatGPTは、「文字の翻訳プロセスにはある程度の不確実性があるということを念頭に置いて回答すると、𒈨𒂗𒀀𒈾(ma-na-si-iまたはma-an-si-i)という表記であると推測できます」という回答を返します。ジャン氏がWikipediaを確認したところ「𒈨𒈾𒋛𒄿(me-na-si-i)」という表記があったので、これも合わせて「me-na-si-i」「ma-na-si-i」「ma-an-si-i」という3つの表記でCDIL内を検索したそうです。

「me-na-si-i」で見つかった「RINAP 4 Esarhaddon 001, ex. 001 (P422293)」という石版はマナセの同時代の人として知られるエサルハドン王からのものでしたが、残念ながら翻訳はありません。

そこで、ジャン氏はChatGPTに石版の全訳を依頼しました。以下画像がそのときの様子で、「この文章を英語に訳してもらえますか?」というジャン氏に問いに対し、ChatGPTは「49.彼らは高台の神殿を建てた」「50.神殿の基礎については、彼らはそれを堅固に築いた」「51.アプスーのように、それは大地の中心から立ち上がった」など、各文に対する英訳文を出力しました。ただし、ChatGPTはユダの王マナセではなく「アッシュルのマナセ(Menasî king in Assur)」に関するものを出力していたようです。



ジャン氏は「なんてこった。単語だけでなく、アッカド語の全文も翻訳できるんでしょうか。今は石版を全部調べてChatGPTで翻訳する時間はありませんが、古代くさび形文字の石版を自動で翻訳するプラグインの構築を夢見ています。こうして翻訳されたアッカド語、シュメール語、エラム語などは、言語に精通した実際の翻訳者が校正することができます。そうして洗練された校正をもとに訓練されたChatGPTのバージョン5や6を想像してください。いつか、翻訳を機械に委託し、私たち人間はただテキストを読んでコメントするという、より楽しい仕事をすることができるようになるかもしれません」と述べました。