エージェンシーは、ジェネレーティブAIが生み出すテキストやアートから、次の段階に移行しつつある。ChatGPTやコンテンツクリエイター戦略を活用したテクノロジーやパートナーシップに、ビジネスの焦点を当てることが多くなっているのだ。

2022年11月にオープンAI(OpenAI)のChatGPTが公開され、ジェネレーティブAIへの関心が高まるなか、エージェンシーは社内とクライアント側の両方で、AIを活用した取り組みの下地づくりを進めている。

コード・アンド・セオリー(Code and Theory)のエグゼクティブチェアマンであるダン・ガードナー氏は、ジェネレーティブアートやコピーのテストも行われているが、その取り組みはビジネスユースケースや計算価値に移行していると述べている。

「私たちはビジネスイネーブルメントツールとしてのAIを信頼している」と同氏は話す。「真のチャンスは、AIの活用について長期的に考えることで生まれる。短期的に考えてはいけない。これは一度限りのキャンペーンと捉えるべき技術ではなく、本当の意味での創造的破壊だ」。

AIは既存戦略の補完的な要素



スタグウェル(Stagwell)のエージェンシーでは、より広範なAI機能を全社で活用し、テクノロジーコミュニティーでオープンソースツールを開発している。ロカリア(Locaria)はとくにグローバルブランドで、多言語コンテンツの自動化とAIを活用。

同社CEOのハネス・ベン氏によれば、従来の仕事でサイロ化が進んでいたオーディエンスインサイト、メディアプラン、コンテンツ、パフォーマンスの「点と点を結ぶ」ため、AIの活用を続けているという。「AIは既存戦略の補完的な要素であり、インクリメンタルな成長を促すものだ」と同氏は説明する。

スタグウェルのエージェンシーで、コード・アンド・セオリーのネットワークに組み込まれたばかりのYMLは3月、Yチャット(Y-Chat)というAIツールを開発した。10行足らずのコードであらゆるアプリにChatGPTを統合できるというものだという。

開発者向けのツールであり、特定のクライアントのためにつくられたわけではないが、あらゆる企業がプロジェクトにChatGPTをより早く導入できるようになる。今後もさまざまなプラットフォームでオープンAIのモデルや機能を追加していく予定だとYMLは述べている。

ジェネレーティブAIは経験の少ない新人?



自社の広告機能を拡張するため、オープンAIのモデルを試しているエージェンシーもある。PMGは4月、クライアント向けのペイドサーチキャンペーンのコピーライティングと効率化のため、すでにChatGPTの統合を開始した。ChatGPTは独自テクノロジープラットフォームのアリ(Alli)に組み込まれ、各チームがテスト環境として利用している。

ChatGPTはアリのキャンペーン管理データとインサイトに組み込まれ、マーケターはキャンペーンのパフォーマンスを加速させることができるという。まずはペイドサーチキャンペーンに重点を置くようだ。

また、PMGは2022年、リアルタイムデータを用いてキャンペーンオーディエンスのクリエイティブアセットを比較、検証するアリ・インサイツ(Alli Insights)を開発している。このプラットフォームは検索エンジン用の説明文の生成から、ブランドボイスやポジショニングのテストまで、PMGのポートフォリオ全体のブランドを支援するために使われている。

同社の検索・ソーシャル・ショッピング責任者のジェイソン・ハートリー氏は、「コンテンツに磨きをかける時間を短縮できるが、まだ実験段階だ」と話し、「私がチームに伝えているのは、ジェネレーティブAIは経験の少ない新人のように扱うべきだということだ。明確な指示を与えても、期待通りのアウトプットが出てくると思ってはいけない。そして、間違いを発見したら、きちんとフィードバックしなければならない」と説明する。

大手グループはエージェンシーを横断した用途を見出す



一方、大手エージェンシーグループのオムニコム(Omnicom)も同様に、AIのいくつかの分野で戦略的な動きを見せている。CEOのジョン・レン氏は2月、2022年第4四半期の決算発表で、自動化ツールは平凡なエージェンシープロジェクトを「取り除くのに役立つ」と発言した。同氏はさらに、「できるだけ早く(AIを)取り入れたい」と言い添えている。

同社は最近、マイクロソフトとの協力の下、データインサイトオーケストレーションプラットフォームのオムニ(Omni)にChatGPTモデルを統合した。オムニを管理する同社のデータおよび分析部門アナレクト・ワールドワイド(Annalect Worldwide)のCEOを務めるスラビ・サマージャ氏は、「ストラテジストやプランナーのためのインサイト自動化、メディア最適化ワークフローの新しいアクティベーション方法など、25以上のアプリケーションを開発中だ」と述べる。

マイクロソフトのクラウドプラットフォームであるアジュール(Azure)の専用環境で、「オムニ内でユースケースに特化したカスタムトレーニング済みのモデルを開発できるほか、全般的な自動化、変革の取り組みも支援できる」と同氏は説明し、その過程で機密性とプライバシーの評価を行っているとも補足した。

「プライバシーとビジネス倫理は、ジェネレーティブAIの使用に対するアプローチの中心にある」とサマージャ氏は断言する。ただし、モデルに保存されているクライアントデータの機密性、データセットや成果物のバイアス緩和など、懸念事項がいくつかある。

インフルエンサーサイドの状況



さらに、AIはインフルエンサーマーケティングビジネスにも変化をもたらし続けている。オープン・インフルエンス(Open Influence)の元CEOであるエリック・ダハーン氏は4月、フルファネルのインフルエンサーマーケティングに特化した新会社マイティージョイ(MightyJoy)を立ち上げた。ブランドのクリエイティブとパフォーマンスマーケティングを支援するエージェンシーで、データ、コンテンツクリエイター、ブランド戦略を用いてROAS(広告の費用対効果)を高めることを優先している。

同氏によれば、AIがクリエイターの世界に与える最大の影響は、人間にはできない「パターンの発見」に役立つことだという。「ツールを使ってクリエイターをカタログ化し、人間には難しいパフォーマンスが最も高いコンテンツの傾向をつかむことができる。キャンペーンごとのアプローチから脱却し、長期的なブランド構築に注力することが目的だ」とダハーン氏は説明する。

「私たちは最もインパクトをもたらすものに投資し、可能な限り肥大化を避けることを重視している。つまり、プロセスの不可欠な一部としてAIを組み込んでいる」と同氏は言う。エージェンシーが初歩的な分析の仕事を削減するなか、AIによって従業員の「頭脳」は解放できると考えているという。

オムニコムを率いるレン氏が決算発表で説明したように、AIはビジネス、なかでも「5年後」のクリエイティブな知識労働者の仕事に、さらによい影響を与えることになるだろう。

[原文:Media Buying Briefing: How ChatGPT and creators will transform media agency AI strategies]

Antoinette Siu(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:島田涼平)