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パタゴニア(Patagonia)の飲食物部門は3月7日、クラッカーブランドのムーンショット(Moonshot)の買収を発表した。同社が買収を行うのはこの20年間で初めてで、これによって、魚の缶詰や海産物を含む、パタゴニアプロビジョンズ(Patagonia Provisions)の成長著しいCPG商品ラインがさらに拡大されることになる。パタゴニアプロビジョンズのジェネラルマネージャーを務めるポール・ライトフッド氏は、この買収は、農家と協力して持続可能な食品を実現するための取り組みをさらに推し進める方法だと、米モダンリテールとの対談で説明した。「アパレルを製造するときはゼロエミッションを達成することも可能だが、それは大変な作業だ。しかし、食品では、ゼロよりもさらに良い結果が可能だ。適切な農業の手法であるため、再生性の高い生産が可能になるからだ」と、同氏は述べている。パタゴニアのプロビジョン部門は2012年に設立され、2013年に最初の商品である天然サーモンのジャーキーを小売店で売り出した。ライトフッド氏によれば、パタゴニアプロビジョンズに一貫するテーマは、「地球を救おうと思うなら、その目標を達成するために食品はもっとも重要な要素となり得るし、なるべきだ」という考えだ。現在、同社の品揃えは、6ドル(約798円)の調味料ブレンドから、8ドル(約1064円)のムラサキイガイの缶詰、10ドル(約1330円)の燻製鹿肉ソーセージまで、30種類以上に広がった。このサステナブルな手法は、同社が提携する組織がどこであるかにも示されている。この部門は現在、小麦若葉から収穫された商標登録済みの穀物であるカーンザ(Kernza)の栽培者と協力しており、この穀物は同社のパスタなどパントリーの主力商品に使用されており、近日中にはビールにも使用される。ムーンショット自体は、プラネットフォワード(Planet Forward)というソフトウェア企業が社内プロジェクトとして作ったものだ。2020年に立ち上げられたこのクラッカーの商品ラインは、昨夏にターゲット(Target)に進出し、現在は、全国の食料品店で販売されている。同社は気候に優しいスナックブランドであることをアピールしており、再生可能なオーガニックな方法で小麦の栽培や製粉を行っている。この契約は、ムーンショットのビジネスの価値観がパタゴニアのものと自然に一致したたことによるものだ。このため、パタゴニアプロビジョンズが近いうちにさらに多くの買収を行うようなことはないと、ライトフード氏は語る。この対談で、ライトフード氏は、ベタフォーユー(better-for-you/より良い商品)カテゴリーがパタゴニアにとってどのような意味があるか、そして今回の新しい買収はクラッカーの市場シェア獲得にどのように役に立つかについて解説した。以下の対談内容は明瞭性と簡素性を考えて編集を加えたものだ。

パタゴニアプロビジョンズは約10年の歴史がある。2012年以来、どのような種類の取り組みや商品に注力してきたのか?

市場に出てから最初の数年間、気候に配慮したサプライチェーンのなかで、とても革新的な商品をいくつか生み出した。当社は、良質な食品を入手しやすくすることが重要だと考えている。しかし、標準的な米国の食事にかかるコストの大半に、環境への影響は反映されていない。これは残念なことだ。しかし我々は、当社の価値観と一貫しない方法で運営を行うくらいなら、より高価な商品を販売する方がいいと考えている。とはいうものの、当社の商品はいくぶんプレミアムだが、極端にプレミアムなわけではない。当社のアパレルも同様だ。責任を持ってものを作るのは、多くの場合、コスト高になる。アパレルの場合なら、ジャケットを7年間着られれば十分に価値があるだろう。そして栄養と健康を考えれば、人々は地球の健康のためにも、自分の健康のためにも妥当な価格を支払うべきだと、当社は考えている。ベタフォーユーとは、体のために良い食品であると同時に、地球のために良いものだと考えたい。そして今は、パタゴニアプロビジョンズの事業を商業的に成功する方法で拡大しようとすることが重要だ。

この数年は、パントリーやスナックなど、商品ポートフォリオを拡充している。品揃えはどのように進化してきたのか?

当社の事業のもっとも大きな部分を占めるのは、今も昔も海産物だ。現在は、サバや、ムール貝、アンチョビをスペインから販売している。これらの魚は当社の基準に従って収穫されたもので、海洋に害を与えるものではない。常に漁業や海洋の生態系に多くの注意を払ってきたため、これは当社にとって非常に重要なことだ。当社は、栄養価の高い海産物について別の条件を作成しようと試みている。これは我々にとって、もっとも重要で成功したベンチャーであることは変わらない。また、当社は現在、パスタの会社でもある。我々の商品には、カーンザの穀物を使用するフジッリがあり、来年には新商品が6つ増える予定だ。また、カーンザからビールを作るテストも進めており、今年の夏には本番運用に移行する。これは大ヒット商品になるかもしれない。またムーンショットについて、当社は農地の小麦を再生可能なものに転換するためのクラッカーを研究している。

パタゴニアプロビジョンズが買収した企業はムーンショットがはじめてだ。どのような経緯で契約に至ったのか?

実は当社はプラネットフォワードの顧客になったばかりで、当社の原料や商品に同社のソフトウェアを使用しようという話をしていた。彼らは、社内で進めていた事業のことを話してくれたのだが、それがムーンショットだった。ムーンショットは、このすばらしい事業を生み出した優れた女性グループによって運営されている。同社は、ワシントン州スカジットバレーの周辺に、非常に優れたサプライヤーのエコシステムを構築している。2つの農場と製粉所は、再生可能エネルギーを使用して適切に運営されており、契約生産者も統合している。同社は有力なクラッカーのブランドから急速に市場シェアを奪っており、その事業の成功ぶりに、我々もこの驚かされ、大きな関心を抱いた。

この新しい商品ラインでは、どのような小売流通の戦略を考えているか?

ムーンショットのチームは、ブランドを成長させるために大きな役割を果たした。しかし、当社のもっとも重要な顧客はホールフーズ(Whole Foods)とターゲットの2つで、両社は非常に協力的だったし、今後もあり続けるだろう。数多くのパートナーシップを結ぶのは最優先の事項ではない。当社はむしろ、狭く親密なパートナーシップを望む。当面はこの2つのパートナーシップを継続する。そのうちに、ブランドやブランドブロックを本当に大切にし、それらを育てるために必要なサポートを与えてくれる、ほかの小売業者の棚にも並ぶことになるだろう。ポートフォリオの拡充について、今年のうちに新たな契約を行うことはないだろう。ムーンショットは非常に稀で貴重な出会いで、このような機会を逃す手はなかった。しかしほとんどの点において、当社の役割はごく明確だ。それは、農場が再生可能な生産の実践と転換に投資する動機となる市場機会を創出することだ。[原文: How Patagonia Provisions is building out its product portfolio with its first-ever acquisition] Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)Image via Patagonia Provisions