この記事をまとめると

■現在、日本では8000万台を超えるクルマが保有されている

■今後、一般ユーザーが使うクルマはEVに置き換わっていくことが予想される

■すべてのクルマがEVになったら何が起こるのだろうか?

不足する発電能力は10〜15%程度

 日本では8000万台を超えるクルマが保有されている。

 カーボンニュートラル、ゼロエミッション化という政策は、これらをすべてEV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)といったZEV(ゼロエミッション車)に置き換えることとニアリーイコールであるというのが世間的な認識だろう。

 再生可能エネルギーを利用した人工ガソリンなどのエンジンを利用したカーボンニュートラルも研究されているが、一般ユーザーの使うクルマにおいてはEVに置き換わるであろうというのが、現時点でのもっとも考えられるカーボンニュートラル社会のシナリオだ。

 では、8000万台のクルマがすべてEVに置き換わったら何が起きてしまうのか。どんな問題が考えられるのだろうか。

 誰もが思いつくのが電力不足であろう。普及率からすると電力系統に対するEVの負荷は計算しなくてもいいくらいの現在でも、電力の供給不足は社会問題になっている。

 とはいえ、圧倒的に足りないというほどではない。

 2020年に自工会が発表した数字を参考にすれば、保有車すべてをEVに置き換えたとして、不足する日本の発電能力は10〜15%程度だという。

 仮に倍以上の発電所が必要になるといわれれば全EV化は非現実的な気もするが、この程度の増強であれば発電所を増やせばカバーできるといえなくもない。非常に難しい政治的判断が求められるが、原発再稼働をすることでずいぶんと電力供給量は確保できるであろう。

 また、発電能力が10〜15%不足するというのはあくまでピーク時での試算になる。すべてEVになっているのであれば、EVのバッテリーを再生可能エネルギー(太陽光発電など)のバッファに利用することにインセンティブを持たせる設定にするなどして、むしろピーク時にはEVは充電するのではなく、電力の安定供給に役立たせるといった活用法も検討されている。

 参考:資源エネルギー庁 資料(https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/jisedai_bunsan/pdf/002_05_00.pdf)

エンジン車を保管しておいても走らせることができなくなる

 さて、エンジン車がなくなると排ガスを出すクルマが消えるので大気汚染はずいぶんと改善することだろう。近年はNOx(窒素酸化物)など見えない大気汚染が問題となっているが、化石燃料を燃やさないのであればNOxが出るはずもないからだ。

 ただし、ガソリンや軽油といった燃料を使わなくなるということは、ガソリン諸税と呼ばれる税収がなくなることを意味する。前述したようにEVのバッテリーを系統につないでバッファとして利用するとなれば、EVコンセントだけを別メーターにしてそこに課税するというのも難しい。

 昨今、観測記事として「走行税」の新設が報道されることが増えているのは、政府がガソリン諸税に変わる徴税を考えているからに他ならない。

 理屈としては、受益者負担として道路整備に当てるものとして走行税を新設するというのは納得してしまうかもしれないが、過去には道路を整備するためという名目だった「自動車重量税」が一般財源に組み入れられたこともある。走行税についても、そうなる可能性が高いことを考えると、単純に自動車ユーザーの負担を増やすだけといえそうだ。

 ナンバー付きの保有車すべてがEVになった世界において、ガソリンの入手はどのようになるのだろうか。

 世界的にEV化が進むと、原油のニーズが激減するため採掘量・流通量などは大幅に減るだろう。運用性を考えると、自衛隊の車両など一部は内燃機関が残る可能性があるが、一般人が化石燃料を入手することはかなり難しい状況になることは確実だ。

 エンジン車を大事に保管しておいても、燃料が手に入らないために動かすことができないという時代になる可能性が高い。

 それでもエンジンにこだわって保存しておくのか、パワートレインをEVにコンバージョンして電気で走るように改造するのか……、旧車趣味のトレンドも二分されることになりそうだ。