連続強盗に悪用されたTelegramのメッセージ画面のイメージ(左)。事件の影響もあってGoogleの検索候補は香ばしい状態に!(右)。しかし、Telegramそのものは独自機能を多く搭載する有能なメッセージアプリとなっている

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連続強盗に悪用されたTelegramのメッセージ画面のイメージ(左)。事件の影響もあってGoogleの検索候補は香ばしい状態に!(右)。しかし、Telegramそのものは独自機能を多く搭載する有能なメッセージアプリとなっている

日本の広域連続強盗事件で、実行犯への指示に利用されたメッセンジャーアプリ、Telegram。ロシア発祥で、かつ各種秘匿機能が満載という報道もあって"闇アプリ"として一躍トピックスに! そんなメッセンジャーアプリの成り立ちから闇要素以外の使われ方を徹底解説です!

【画像】メッセージ削除機能、出会い機能も優秀なTelegram

■闇利用だけじゃない。テレグラムの実力とは?

全国で相次ぐ強盗事件。その指示役たちが、実行犯への指示ツールとして利用し有名になったメッセンジャーアプリ、『Telegram Messenger』(以下、テレグラム)。

一連の強盗事件だけでなく、ここ数年はウクライナ戦争を伝える報道ソースとしても一般に知られるようになったアプリを、ITジャーナリストの三上洋さんに解説してもらいます!

――まず、テレグラムとは、どんなアプリなんですか?

三上 2013年にロシアでローンチしたメッセンジャーアプリです。メッセージのやりとりを基本機能としており、誰でも無料で利用できます。現在の月間アクティブユーザーは全世界で約7億人。

LINEのアクティブユーザーが9000万人強なので、それ以上に普及しているメッセンジャーアプリです。そして、これほど大きなシェアを獲得した理由のひとつが、秘匿性の高いメッセージのやりとりを行なえることです。

――そこ、詳しく解説お願いします!

三上 例えば、【シークレットチャット】という機能ではメッセージが暗号化され、テレグラム運営側にもその履歴が残りません。また、メッセージ削除機能も独自の仕様になっており、例えば【送信後○秒で全削除】という時限設定ができ、メッセージをやりとりする双方の履歴を同時に削除します。

そして、近年はスクープ報道のソースとして利用されることの多いスクリーンショットや動画での画面収録も制限することが可能。例えば、スクリーンショットや画面収録を行なうと、相手側に通知が表示されたり、スクリーンショットを撮っても画面表示が真っ黒で読めなくなるといった制限機能があります。


削除されたメッセージはサーバー側にも履歴が残らないことで犯罪に利用されることが多い(右)。さらに【シークレットチャット】機能では相手側はスクリーン不可、相手側にはスクリーンショットのアナウンス表示。ほかにも時限式でメッセージ削除など特殊機能が特盛り

――それ、悪い意味で犯罪がはかどる仕様になってるんじゃないですかね?

三上 なので、テレグラムの発祥地であるロシアでは、18年にアプリの利用が規制されました。テレグラムは麻薬や児童ポルノの取引に利用されることが多く、ロシア政府はメッセージに関する情報開示を求めました。しかし、テレグラム側がこれを拒否したのが規制の理由です。

――そんなの、規制されて当たり前かと!

三上 しかし、20年より規制措置が解除されました。

――解除したらダメでしょ!

三上 18年当時、すでにロシア国内ではテレグラムが一般ユーザーや企業はもちろん、行政にも普及しており、規制措置に反対するデモが起きたほどです。そしてテレグラムには、新型コロナに関する医療情報を発信する用途もあり、この巨大な通信インフラを完全停止するのはロシア政府としても難しかったのです。

――確かに、日本でLINEを止めるのもかなりの無理ゲーですからね。

三上 現在、テレグラムの運営拠点はドバイ、ロンドンなどに移されて非営利団体として活動しています。LINEや中国のWeChat(ウィーチャット)ほどではありませんが、犯罪捜査やテロ対策にも協力的な姿勢を見せるようになりました。

――それでも日本の連続強盗や、今年1月に発生したブラジルの議会襲撃事件でも首謀者のツールとして利用されていましたよね。これは世界的に圧力をかけて禁止の方向にしたほうがいいのでは?

三上 しかし、テレグラム特有の"高い秘匿性""国の圧力に屈しない"という部分はメリットも大きい。それが最大限に生かされているのが、ウクライナ戦争です。テレグラムには【チャンネル】というSNSのタイムライン的な機能があり、そこにはウクライナ軍の公式から市民まで参加して情報が共有されています。

そして、ここを1次ソースとして、画像や動画などがほかのSNSへ発信され、各種報道にも使用されることが多い。もちろん、秘匿性の高いメッセージ機能も多用されています。実は、このような活用はウクライナだけでなく、ロシア側も同じなのです。


ウクライナ戦争では、双方がTelegramを利用して積極的に情報を発信。ウクライナ軍は部隊ごとにTelegramを運用しており、それが報道の1次ソースとなることも多い。PCからも利用でき、スマホからQRコードを読み込む2段階認証が採用され、汎用性だけでなく、乗っ取り対策のセキュリティも高い

――確かに報道では「○○のテレグラムより」って注釈が多いですね。

三上 テレグラムのように秘匿性が高く、他国からの圧力に屈しない非営利団体が運営するメッセンジャーアプリは、現在のウクライナ戦争や19年の香港デモなど混乱の中での情報発信、コミュニケーションのツールとして大いに役立っています。

そして、このような状況で注目されることで、一般にも普及していくことが多いのも特徴です。そもそも、アプリそのものに"有害"な要素があるものではありませんから。

――それを聞いて安心。で、実際にテレグラムをスマホにインストールしてみましたけど......。これUIが日本語で表示されないじゃん!

三上 スマホもPCもブラウザで【Telegram:Set Language】と検索して、表示されたページの【SET LANGUAGE】をタッチすればアプリのUIも日本語で表示されるようになります。

――そしてスマホの電話帳へのアクセス権限を認証すると、電話帳内で誰がテレグラムを利用しているのか一目瞭然。このへんは一般的なメッセンジャーアプリと同じ感じ。あと気になったのが【近くにいる人】という機能。

これ、付近のテレグラムユーザーにDMをいきなり送信できて、出会い要素が強すぎッ! しかも、国内のチャンネルは"アダルトな出会い"要素が多く、異様な雰囲気がアリ!

三上 前述した"高い秘匿性"という部分も含め、国内では"浮気ツール"として普及しそうな雰囲気がありますね。とりあえず、パートナーのスマホにLINEやSMSのアイコンに並んで、"青い紙飛行機のアイコン"があったら、要注意です(笑)。

――現在、闇アプリ認定されがちなテレグラムですが、純粋なメッセンジャーとして利用するには安全で有能なアプリですよ!


GPSから近くにいるTelegramユーザーを検出して、メッセージを直接送信できる機能を実装(右)。出会い用途でも思いのほかスペックが高く、日本では「P活」「寝取り寝取られ」などアダルト系のチャンネルが乱立中。パートナーのスマホにLINEと並んで青いTelegramアイコンがあったら、要注意!(左)

取材・文/直井裕太