子どもの小学校入学を機に、仕事と家庭・育児との両立が難しくなる「小1の壁」問題。お受験・入学準備のシーズンの今、頭を悩ませているという方もいるのではないでしょうか。では、海外での小学校ではどうなっているのでしょうか? そこで、アメリカ・シアトルに住んで20年、子育てに奮闘するライターのNorikoさんに、「アメリカの小学校事情」について教えてもらいました。

アメリカの小学校は、「幼稚園年長」から始まる

アメリカでは同じ州でさえ地域によって教育制度はまちまちです。私の住むシアトルを例に説明すると、日本の保育園に当たるのがフルタイム保育の「デイケア」、それ以外に日本の幼稚園に相当する半日程度の「プリスクール」があり、幼稚園年中で「プリK(プリキンダーガーテン)」と呼ばれるクラスに進級し、地域によっては公費で通えることもあります。ここではアルファベットの書き方や発音などを学習し、「キンダーガーテン」入学に備えます。シアトル地区ではキンダーガーテンが「エレメンタリースクール」(小学校)に組み込まれており、小学5年生までが同じ小学校に通います。

小学6年生で日本の中学校に当たる「ミドルスクール」に進学し、6〜8年生として3年間を過ごすと、今度は「ハイスクール」(高校)で9〜12年生となり、4年で卒業です。

●キンダーガーテンの入学を待ち望んでいる理由

キンダーガーテンからハイスクールまでの教育期を「K(キンダーガーテン)-12(年生)」と表しますが、この間は公費で通えるので、公立校であれば無料! そのため、子どもの幼稚園年長からのキンダーガーテン入学は、「壁」どころか、待ちに待った喜ばしい出来事です。

アメリカでの保育料はとんでもなく高く、全国平均で年間1万4000ドル、5年間通わせると7万ドル、総額で1000万円近くかかります。低所得家庭は無償ですが、それ以外の中流家庭の負担は計り知れません。子どものキンダーガーテン(小学校)入学をもって、ついに未就学期の甚大な経済的負担から解放されるというわけです。

日本では4月からが新年度ですが、アメリカのほとんどの地域では9月が入学シーズン。キンダーガーテンの新入生が、「バックパック」と呼ばれるリュックを背負い、小学校の門をくぐります。日本のような入園式や入学式の類は一切なく、突然授業が普通に始まるのが日本人的にはものたりない気もしますが、その代わりにパジャマデーやシャツ裏返しデーなど、日々のお楽しみはいっぱい。

ランチは日によって給食か、弁当持参かを選択でき、低所得家庭は給食が無料になります。その前に「スナックタイム」と呼ばれる朝のおやつの時間があるのも、日本の小学校とはだいぶ違いますね。指定区域内に限られますが、学校授業時間に合わせて行きと帰りにスクールバスが手配され、家と学校間の送迎をしてもらえます。

●入学に関してもさまざまな選択肢が存在

アメリカでは日本と違い、4〜3月生まれが同じ学年というようなくくりはなく、子どもの成長や家庭の事情に合わせて入学時期を決められます。たとえば、夏生まれの子どもの場合、「ちょっとまだ早いかも?」と思えば、1年遅らせて翌年9月に入学できるし、逆に秋生まれの子どもが成長著しい場合、1年早い入学で1年分の保育費を節約することも可能。

一方で、まだ子どもと一緒の時間を多く持ちたい、学校に行きたくない子どもの気持ちに寄り添いたい、などとホームスクーリングを実践する家庭も少なくありません。その名の通り、学校に行かずに自宅で勉強するという選択肢です。じつは、シアトルのあるワシントン州では8歳からが義務教育。全米でもかなり高齢ですが、その背景には根強いホームスクール需要があります。

そのほかにも、子どもの多様性に対応する仕組みがたくさん。公立でも特別支援学校ほか、成績優秀者などへのギフテッド教育、飛び級、アドバンスプログラムが無償で利用できます。

地域によってはSTEM(理系)、イマージョン(多言語)、モンテッソーリなどの特別プログラムを持つ公立校があり、小中一貫校も。お受験はなく、学区内なら原則誰でも入れて、希望者が多ければ抽選となります。すでに兄弟が通学している場合、優先枠で同じ小学校に入学できるので助かります。

●アメリカの「学童保育」の仕組み

アメリカの小学校も、授業が午後早くに終わり、学校都合による不定期の休みや長期休暇があるのは日本と同じです。日本では学童保育がこれを補うところですが、地域による格差が深刻で学童に入れない待機児童も増えていると聞きます。

アメリカでは、学童保育のような位置づけにあるのが、「アフタースクール」や「サマースクール」です。学校の授業時間の前後に、学校の敷地内もしくは地域のコミュニティーセンターで保育を行うビフォアースクール/アフタースクールは、働く親にとってはありがたい制度。そこが定員いっぱいの場合でも、「ボーイズ&ガールズ・クラブ」という非営利団体が展開する施設が全米各地にあり、学校から徒歩やスクールバスで子どもを連れていってもらえます。

低所得家庭は無償で、それ以外はどちらも月数万円かかり、決して安いとは言えませんが、専任のスタッフがガイドラインに基づき適切に配置され、子どもは外の遊具や体育館で遊び、工作などのアクティビティーを楽しみ、おやつを食べ、宿題も行うという充実ぶり。夏休みなど長期休暇もオープンしています。

毎日でなくていいなら、アフタースクールアクティビティーもあります。これは1週間に1回、決まった曜日に行われるプログラムのことで、いわば習い事ですね。学校の敷地内、もしくは学校からの送迎サービスのある地域の習い事の教室で放課後に民間委託で実施されています。約3か月おきに申し込めて、料金はさまざま。アート、音楽、演劇、スポーツ、料理、マジック、カードゲーム、プログラミング、野外学習など、季節ごとの多彩なラインナップの中から好みのプログラムを選べ、低所得家庭には手当もあります。

●休み期間中の学童も充実!

その夏休み版とも言えるのが、サマースクール/サマーキャンプ。1週間程度から、各習い事の教室で実施されています。人気の教室は、年明けからの予約開始からすぐ定員に達してしまうことも。年末年始、冬休み、春休み、各学区による休日などにも同じように行われます。

よりフレキシブルに利用できるのはシッターですが、シアトル地域は全米でも人件費が高いため、1時間約20ドル(約2600円)かかり、チップや交通費、食事代などを渡すとさらに跳ね上がります。日本と違ってアメリカでは基本的に「鍵っ子」はご法度であり、ちょっとの間でも子どもを置いて外出したり、近所の公園や友人宅にひとりで行かせて遊ばせたりということはできませんので、仕方のない出費と言えます。

ただ、職種や職場にもよりますが、アメリカでは「ちょっと子どものお迎えに行ってくるから」と仕事を抜けるのは、かなり許容されている気がします。不定期の休校や子どもの病欠により出社できなくても、「仕方ないね」という雰囲気。個々に業務が明確に決められているため、「やることをやっていればOK」というのが、アメリカで働くよさかもしれませんね。普段から残業もほぼありません。

ちなみに、シアトルのあるワシントン州では有給の病欠が認められていて、本人ではなく子どもの病気や通院でも規定以内の日数であれば適用されます。

●アメリカにもPTA活動はあるの?

日本の「小1の壁」の1つとしてもあげられるPTA活動ですが、アメリカの小学校では、どうなのでしょうか?

実際にアメリカの小学校に子どもを通わせている体感として、日本のPTA活動ほどの負担感はないように思います。学校全体の役員が定例ミーティングで活動方針を決定し、クラスごとにいる取りまとめ役はそれをメールで知らせ、呼びかけや集金などをします。私自身も手伝ったことがありますが、仕事をしていてもそこまで差し支えはないレベルです。イベント開催など保護者のサポートが必要なときには、その都度ボランティアや寄付を募ります。しかも、そのイベントは平日の夜か週末に行われるため、働く親も参加しやすくなっています。

内容もかなり細分化され、ひとりに多くの負担がかかることのないよう配慮されています。たとえば、息子の通う小学校で行われた音楽発表会の場合、イスを並べる係、あと片づけ係、フルーツの寄付、クッキーの寄付、ドリンクの寄付、紙皿の寄付、紙コップの寄付、紙ナプキンの寄付…など、それぞれ複数名という具合です。

担当の決め方も、オンラインフォームであいている項目に希望を出すだけの先着順。わざわざ保護者会が開催されて分担を話し合うこともありませんし、イベント参加もボランティアや寄付も強制ではなく自由。それにもかかわらず、ほとんどの家庭が協力的で、驚くほどスムーズに分担が決まります。キリスト教信仰から根づくボランティア精神は、もはやアメリカならではの文化と言えるかもしれませんね。

●コロナ禍で大変だったけれど…

アメリカでは、コロナ禍で親がリモート勤務と子どものリモート学習のサポートを約1年続けていました。私も経験しましたが、まさに地獄の日々! 両立に苦しんでいた多くの親たちが、小学校とアフタースクール再開の知らせにホッとしたものです。

周りでは、早めに小学校再開に踏みきった日本に一時帰国して子どもを通わせていた日本人の専業ママもいましたが、親だけでなく子ども自身の成長にとっても、小学校という「社会」があることは大切なのだと再認識させられました。昨年からマスクを外せるようになり、イベント開催も増え、すっかりコロナ前に戻っています。
日本でも「5類」見直しにより、ようやく子どもたちのマスク着用義務がなくなりそう? 日米の違いはあれ、未来に向けて、子どもたちが元気にすくすく育つ環境をつくってあげたいものですね。