いつしか必ず訪れる別れのとき。そう頭で分かっていてもなかなか受け入れることは難しいものです。前編では、高齢の保護猫をもらうという選択をした50代のライターmassacoさんの愛猫タルボくんが「腎不全」だとわかったことについて紹介しましたが、今回の後編では12月31日からの様子をつづってもらいました。

15歳の高齢猫のためにできることはなにか?

12月31日の朝は、タルボくんの気分がかなりよさそうでした。ついに歩くことができるようになり、ふと気がつくと、寝床にしたリビングのこたつから、いつもえさ台のあった冷蔵庫の前まで、3メートルくらい歩いていました。スープ状のえさをあげましたが、半分ほどは飲んだものの、気持ちが悪いのか、顔を背けてしまいました。

年末年始で病院がお休みだったこともあり、この日から私は自分で皮下点滴をすることになりました。先生から針の刺し方を習い、やってみたのですが、これがうまくいきません。刺さったと思って点滴を落とし始めたものの、針が抜けてしまってほとんど液は入らなかったようでした。

1月1日の朝、いつもそうしていたように、タルボは窓辺まで日向ぼっこに出てきました。歩けるようになって、トイレにも行けていて、気分がよさそうだったので、もう一度、私は皮下点滴に挑戦。しかし、少し元気になっていたタルボは動いてしまってうまく針が刺さりません。しまいにはポタポタと流血させてしまい、私は動揺してしまいました。

「できないよぉ、ごめんね、タルボ」。

涙が出てきてしまいました。こちらもショックでしたが、あちらもショックだったのかもしれません。

この日はそのあとのえさは一切受けつけませんでしたが、おやつのチュールだけは食べたので、朝昼晩と3本あげました。

●ぐったりする愛猫にどうするべきなのか…

2日の朝にまた点滴を試みるもうまくいかず…かかりつけの病院へ連絡したところ「来てもいいですよ」とのことで向かいました。点滴をしてもらい、もう一度皮下点滴のレクチャーも受けて、「これで食欲が戻ってくれれば…」と先生はおっしゃるので、なんとかがんばって欲しいと思いながら帰宅。

この日の夜はとてもいい状態で、トイレも自分でして、えさは私の手からウェットフードを半分ほど食べ、チュールも2本食べました。夜、リビングに布団を敷いて寝ていたのですが、この日は中に入ってきて、私の隣で枕をつけて一緒に眠りました。

3日の朝、いつものようにタルボは窓辺まで日向ぼっこに来ました。ただ、えさをやってみても、顔を背けて拒絶。水は音を立ててガフガフと飲むのですが、じつは大して飲み込めていないようでした。チュールも半分舐めてくれたものの、途中でやめてしまいました。食欲が戻らないな、と私はがっかりしました。

それでも夜は、私の足元にうずくまって就寝。けれど、布団に入ったり、枕の方へ来ることはありません。ぐったりして、とても機嫌が悪くなっていました。その姿を見て、私は点滴を続けるべきか悩んでいました。

●悩んで、悩んで…悩み抜いて出した結論

4日の朝、少しずつよくなるかもしれないと期待して、私はタルボに点滴をしました。

レクチャーのおかげでかなりスムーズに針を入れることができ、100mlの輸液をしました。「うまくいった」と飼い主は悦に入ったのですが、この日の夜、タルボはとても苦しそうでした。立ち上がって少し歩いても、どこか痛かったり違和感があるのか、抗議をするような「ニャー!」とびっくりするような大声をなんども出していました。

うんちもしていたのですが、どこかが切れてしまったのか、お尻に血がにじんでいました。おしっこはトイレではせずに、また横たわったままシートにして、少し赤く、血が混じっているようにも見えました。

体をふいてあげようとタオルを下半身にあてたときです。もともと下半身を触られるのが嫌いな子だったのですが、気も狂わんばかりに怒り、私の手に思い切り噛みつきました。

「ひどいよ、タルボ」

私も泣きそうでしたが、タルボももう我慢の限界、という顔をしていました。こたつの下に入ったまま、ぐったりとしていました。

ネットで「老猫 点滴 回復」「老猫 皮下点滴 やめる」といった検索をしまくり、ありとあらゆる記事を読んだところ、獣医さんでも意見が別れていて、点滴を続けると苦しんでなくなる子が多いという人や、立てなくなってからでも点滴のおかげで2年生きていたといった体験談など、いろいろなケースがありました。

5日、タルボにえさをあげてみても、もう絶対に食べないと決めたように拒絶されました。大好きだったチュールすらなめようともしません。この状態で点滴をするか、悩みに悩み、かかりつけの病院に相談に行くことにしました。

様子を伝えると、先生は「難しいね」と言いながらも、「点滴をやめるとは決めずに、少しずつでもやってもいいとは思う」と言われました。

そう言われはしたものの、やっぱり私は、「無駄に延命して苦しめるだけなのではないか?」そう感じ、点滴することがいいと確信がもてずにいました。

帰宅してタルボにチュールを差し出しましたが、やっぱり拒絶して口をあけません。タルボはもう決意したんじゃないか…そう感じた私は点滴するのをやめることにしました。

その日の深夜、母に予定を繰り上げて帰省先から帰宅してもらい、なんとか生きてタルボに会うことができました。

●寝たきりになったタルボに気持ちが揺らぐ

6日、私は仕事があって外出。この日からタルボは寝たきりになりました。

少しは水を飲みましたが、もうえさもチュールも受けつけません。おしっこすらもほとんど出なくなり、下にしいたシートにうっすらしみている程度。それでもときどき頭をあげて、こちらを見ることがあり、1時間おきくらいに態勢を変えて少しなでてやったりしました。

7日、タルボはもうほとんど動かずに、じっと寝ていました。それでもジタバタすることがあったので、水を飲ませてみたりしましたが、ぺろっと舌を出すのがせいぜいでした。

「やっぱり点滴をしようか…」。何度も何度も思いました。もしかしたらここからでもまだ生きてくれるかもしれない。ここで諦めてしまっていいんだろうか。

逡巡する私に、母は、「もうがんばらせなくていい」と言いました。同じく老いた母がいうのなら、それがいいのだろう、と思いました。

8日、妹がやってきました。もうタルボはひたすらじっとして動きませんでした。ときどき体勢を変えてやって、水を含ませた布で口を濡らしてあげていましたが、嫌そうな顔をするばかり。「枯れるように」という言葉の通り、タルボは自分の中から水分を抜いているようでした。

妹はそれでも、「私だったら点滴する」と言いましたが、私には、この段階から体に水を入れるのは、タルボにとっていいことに思えませんでした。タルボはときどき小さなかすかな声で鳴いていました。呼ばれて、私は少しだけ抱いたり、なでたりしました。

夜9時ごろ、妹が帰宅して少しした頃に、タルボは荒い息をし始めました。ぐわっぐわっ、というような声に、私と母は駆け寄って、タルボをなでて言葉をかけました。

「がんばったね。ありがとうね。楽しかったね。大好きだよ」

タルボは何度か苦しげに大きく息を吸いました。そして、私の顔をじっと見つめながら、最後のときを迎えました。

●寝ているように息を引き取ったタルボ

恐れていた大きな痙攣や血を吐くようなことはなく、比較的、苦しまなかったのではないかと思います。ただ、本当にこれでよかったのかは、やっぱりわかりません。

あの日、暖房をつけていたら、腎不全にもっと早く気づいていたら、点滴をしていたら、もっといい救急に連れていっていたら…。後悔は尽きることがありません。

後日、お世話になった動物病院の先生にご挨拶に行きました。先生から「タルボくんもいろいろあった猫でしたけど、最後は幸せだったと思います」とおっしゃっていただき、救われた思いでした。私が実際にタルボと過ごし、老猫を飼うならやっておいた方がいいと思ったのは

<老猫を飼うならやっておきたいこと>

・老猫の飼い方の本などを一読して、注意点を把握しておく
・猫にはどんな病気があるのかを知り、治療法を知っておく
・信頼できる動物病院と救急病院を調べておく
・最後はどこまで延命するのか、家族で話し合っておく

ということです。譲渡会には、おうちのない猫ちゃんたちがまだまだたくさんいます。さみしさを乗り越えて、また困っている猫ちゃんに、おうちを与えてあげられたら、と思いました。

タルボは私に、そんな使命を与えて逝ったのかな、と今は思っています。