50代、60代ともなると、ペットを飼っても果たして最後まで面倒をみられるのか…そんな風に思って、飼うことを躊躇してしまう人もいるのではないでしょうか。50代のライターmassacoさんは高齢の保護猫をもらうという選択をしましたが、やはり高齢だけにそのツライ瞬間に直面したそうです。今回はそこから学んだことを前後編でつづってくれました。

血の気の引いた年末。私とおじいさん猫に起こったこと

だんだんと行動制限もなくなり、コロナの克服も見えてきそうな2022年の年末、私は救急動物病院に駆け込んでいました。

わが家の飼い猫・タルボくんが、瀕死の状態だったのです。忘年会の酔いはすっかり冷め、深夜の待合室で、血の気がどんどん引いていくのがわかりました。今回は年末にタルボくんに起こった出来事についてつづります。

●愛猫との出合いは昨年3月のこと

タルボくんをもらったのは、2022年3月のこと。75歳を過ぎた母と50歳を過ぎた娘(私)との2人暮らしは、コロナ禍で少し行きづまっていて、どちらからともなく「猫を飼おうか」と言い始めました。

近所の動物病院が譲渡会をやっていることを知り、早速二人で行ってみることに。私は、そこで初めてタルボくんに会うことになりました。

タルボくんは、“メインクーン”という猫種で、キョトンとした丸い目をした、大きなかっこいいおじいさん猫。飼い主さんが入院し、飼えなくなってしまったということで、里親を募集していました。面食いの私は一目で気に入ってはいたのですが、年齢が「15歳」と高齢だったので、譲渡してもらう候補からは外していました。

ほかの猫ちゃんを見ていたわけですが、なんとそこへタルボくんが割り込んできて、「僕じゃないの?」と私を見上げてくるではありませんか! しかも、ピタッとくっついて腕に体重をかけてきます。いやもう、そうまでされたら、置いていけるはずもありません。

母は大反対でしたが、私はどうしてもこの子がいいと言って譲りませんでした。「子猫をもらっても最後まで飼えないかもよ」「この子ならもういたずらもしないよ」とタルボくんを連れて帰り、そうしてうちの子になってもらいました。

うちにやってきたタルボくんは、初日こそクローゼットに隠れていたのですが、次の日からはもう私のベッドに入り込んでくるくらいに、人が大好きな猫。以前飼っていた猫は、野良猫さんだったこともあり、どこまでいっても「人と猫」という関係だったように思うのですが、タルボくんはあまりにも人間っぽく、その関係は「家族」そのものでした。

テレビを見ている母のひざに当然のように飛び乗り、夜はベッドに潜り込み、枕を占領して添い寝をしました。そんなタルボくんに母も気をよくして、反対していたことなどなかったかのようにかわいがるようになりました。

「タルボは魚より肉が好きみたい」とか「尻尾の毛が生えそろってきたね」とか、私と母は毎日、彼についてのたわいのない話をして盛り上がりました。タルボくんが、母娘の仲を取り持ってくれていたのです。

●猫が出す病気のサインには敏感に

そうしてタルボくんがいることは私の「日常」になりました。

高齢であることは頭の片隅にはありましたが、よく食べる子だったので、とても元気そうに見え、あまり健康の心配はしていませんでした。たくさん水を飲み、おしっこも大量。1週間もつはずのおっしこシートが、2日くらいでびしょびしょになってしまっていました。

そのときは水をたくさん飲むことはいいことだとばかり思っていましたが、じつはこれが腎不全の兆候。腎不全は、猫の死因の第1位とも言われるほど、猫、とくに老猫にとってポピュラーな病気で、なかでもメインクーンなどの長毛種はかかりやすいとされています。私は高齢の長毛種の猫を飼うのに、そんな知識も持たずにいました。

秋に入った頃、多尿はおさまり、「おしっこシートが1週間もつようになってきたな」くらいに思っていました。

水を飲む量も減り、同時に、えさの選り好みが激しくなり始めていました。いつもあげていた缶詰は、歯に挟まるのか、噛みづらそうにして途中で食べるのをやめてしまいます。歳のせいだと思い、高齢猫用のやわらかいウェットフードに変更したところ、また食べるようになりました。

当時は「歯が悪いのかな?」などと思っていましたが、振り返るとこの頃にはもう腎不全は相当進んでいたのではないかと思います。おそらく、口内炎ができていたか、胃腸炎による吐き気が出ていたのかもしれません。

そのうち便が出づらくなり、トイレに行くと3回に1回は吐くようになりました。「きばりすぎ?」などと思っていましたが、これも腎不全による尿毒症が少しずつ進んでいて、胃腸炎になっていたのでしょう。

<猫ちゃんにこんな症状が出たら、腎不全を疑おう>

・多飲多尿 大量におしっこをするのは、腎不全の症状が現れ始めているのかも
・食欲減退 腎不全による胃腸炎や口内炎が原因担っている可能性あり
・よく吐く 吐く回数が多い場合も、腎不全による胃腸炎の可能性あり
・尿が少ない すでに末期の可能性があり、尿毒症になっているかも
・立てなくなる 尿毒症がすすんだ末期的症状かも…

●年末、帰宅してみると…

そして、2022年12月28日。

少し前に母はすでに帰省してタルボくんは私と2人で年末を過ごしていましたが、その日は仕事の挨拶回りのあとに友人たちとの忘年会の予定があり、タルボくんにたくさんの水とえさを用意して出かけました。

このとき、私は年末のわりに暖かな日だったため、暖房をつけずに出かけてしまうというミスを犯しました。

深夜12時に帰宅してみると、タルボくんは母のベッドの上に律儀に座って待っていました。「タルボ、遅くなってごめんね」と声をかけると、階段状にしてあったクッションを滑り落ちるようにしておりてきて、ゴロゴロと喉を鳴らしました。ふとみると、前足がありえない方向に折れ曲がっているではありませんか。そして、いざ立とうとしても、立てなくなっていたのです。

「タルボの足が折れてしまった!」

そう思った私は、街道沿いに見かけていた救急動物病院にタクシーで駆け込みました。診断は、タルボの足は折れているのではなく、衰弱してしまって立てない状態だという、思ってもみなかったものでした。

「体温も下がっていて危険な状態です」。そう告げた獣医師の言葉に、血の気がひいていき、手先が凍りつきました。「エアコンをつけ忘れたせい?」と、罪悪感が押し寄せます。藁をも掴む思いの私に、病院はたたみかけました。

「血液検査、レントゲン、点滴、入院費で10万円ですが、よろしいですか?」

私は、頷くしかありませんでした。

しばらく待っていると、扉の向こうからバリカンの音が聞こえ、タルボのワーオワーオという低い悲鳴が聞こえました。私はもうたまらなくなって、「やっぱりいいです、連れて帰ります」と受付に叫ぶと、処置はなにもせずにそのまま病院を去りました。

治療費が高いのはさておいても、瀕死の猫にバリカンをして検査をするというのは狂気の沙汰に思えたからです。これもあとからわかったことですが、そこはあまり評判のいい病院ではありませんでした。

もしものときのために、信頼できる救急動物病院も調べておくべきでした。

●かかりつけの病院での診断

翌日29日の朝、タルボをもらったかかりつけの病院へ連れて行きました。

「腎臓かなぁ」。その獣医師の言葉で、私はようやく、タルボの腎臓が悪いことを知ったのです。

腎不全というのは、尿をつくる機能が奪われ、毒素を排泄できなくなって尿毒症になり、命を落とす病気です。腎機能は一度失われると回復は見込めませんが、点滴をして水分を補給し、尿から毒素を排出することで症状を緩和し、命をとりとめることができます。

タルボにも点滴の処置がされ、帰宅してしばらくすると、横たわったまま大量のおしっこをしました。寝たきりのままではありましたが、気分がよくなったのか、チュールやスープ状のえさをぺろっと食べていました。

30日の朝、少し気分がよくなったのか、まだ立ち上がれはしないもののキョトンとしたいつもの顔が復活。その日も病院へ行き、点滴をしてもらいました。

点滴のあとはぐったりするものの、その日の夜には立てるようになり、そばに置いたトイレでおしっこをすることもでき、ウェットフードを少し食べてチュールも勢いよく食べました。

「もしかしたらよくなるかもしれない」、このときは期待をしていました。しかし、お別れのときは刻一刻と近づいていたのです…。

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後編では、massacoさんとタルボくんとの年始についてつづっていただきました。massacoさんがタルボくんとのかけがえのない日々で学んだこととはなんだったのでしょうか。