老後のことを考えて、「家」を住み替えてコンパクトに暮らす人が増えています。不要なものを処分できるメリットも。ここでは平屋やシニア向けマンションなど、その後の暮らしを見据えて引っ越した人たちの暮らしを紹介します。

ものを捨てて気づいた、50代からの新しい暮らしの整え方

整理収納アドバイザーのRINさんは、50代で引っ越し、20坪の平屋で夫婦2人暮らしをしています。

【写真】50代・団地で一人暮らし

「掃除もラクな平屋の暮らしは、子育てが終わった私たち夫婦には丁度よい大きさです」とRINさん。
介護の仕事を20年以上しているRINさんは、高齢者のお宅を訪問する機会が多く、ものが多くて生活しづらくなったお宅を、たくさん見てきました。

「その方々も、片づけなくてはいけないとわかっていても、体力、気力ともに失われてしまって動けないのです。

少しでもラクで軽やかな老後を送るために、元気で動けるうちにものを整理しておこうと思い、整理収納アドバイザーの勉強を始めました」

使っていないものや、処分に困ってとりあえずしまってあったものをどんどん処分。身軽になったお陰で、ひと回り小さな平屋に引っ越すことができました。

「ものを減らしていなければ、今の暮らしは手に入らなかったと思います。ものを減らしたことによって、心も体も軽くなり、性格まで明るくなった気がします」

新築マンションから「築50年越えの団地」に住み替えて気づいたこと

50代で都内の新築マンションから築50年越えの団地に引っ越したというブロガーのきんのさん。団地暮らしのメリットを教えてもらいました。

おひとり様の老後は、生活に便利な都内でマンション暮らしの予定でした。35年ローンが組める40代ギリギリで、滑り込むように都内の新築マンションを購入。

終の住処として一大決心の末購入したマンションを10年もたたずに売却し、50代で郊外の団地に住むことになったのは、親の介護がきっかけです。

都内マンションから郊外団地に住み替えて5年、実際に暮らしたからこそ気づいたことがあります。

 

●1:暮らしがシンプルになり、生活の質も上がった

日々実感するのは緑の多さ、まるで公園の中に住んでいるみたいです。窓から見える風景は四季移り変わる団地の豊かな植栽たち。周囲の建物と距離が離れているので、人目をそれほど気にせずに生活できるのもうれしい。

もちろん日当たりは抜群で、植物を育てるにもいい環境です。住み替え後はキッチンでハーブを育てたり、ベランダで家庭菜園も始めました。

ほどよく生活インフラが整っている場所だったことも、功を奏しました。徒歩圏内に商店街やスーパー、病院、図書館、役所、交番等があり、無料シャトルバスでショッピングセンターや映画館にも行けます。最寄駅へは少し遠いけど、バスが発達しているので不便は感じません。

自分に必要なものがコンパクトにまとまっているから、移動にかかる時間が減りました。車に依存せず、徒歩か公共交通機関で生活ができることは、老後生活の安心材料にもなっています。

●2:老後資金が貯められる

住み替えで35年ローンから解放され、住居にかかるお金が約5分の1になりました。固定資産税・都市計画税は約3分の1に減り、差額分を老後の貯蓄にまわせます。

新築でマンション購入、10年以内に売却はタイミング良く、思ったより高値で売却できました。築50年越えの分譲団地は底値で購入できたので、リノベーションしてもお金が残り、残ったお金を老後の資金にまわせました。株やiDeCoなどに投資し、少しずつ増え始めています。

●3:おいしい野菜がお値打ち価格で手に入る

ほどよい田舎なので、近場に畑や果樹園があり、無人販売をしていたり、月に数回近所で朝市が開催されたりと散歩がてら覗くのも楽しみです。

デパートで購入するお高い野菜に負けないぐらい野菜がおいしいです。しかもびっくりするぐらいのお値打ち価格。

住み替えてからは野菜を多く消費するようになり、体の調子もいい感じです。

1LDKの住まいを好きになろうと決めた

1LDKのマンションで一人暮らしをしているブロガーのショコラさんは、60歳を迎えた頃、「自分になにかあったとき、子どもたちに迷惑はかけたくない」と、身の回りのものを減らす「生前整理」ならぬ、「老前整理」を始めました。

広い家や多い持ち物に慣れていると、生活のサイズをダウンさせることはハードルが高いものですが、ショコラさんは、現在お住まいの1LDKのマンションを購入されたとき、迷いはなかったのでしょうか?

「ここを購入した17年前は、“年をとると賃貸住宅を借りられない”という風潮がありました。マンションの値段も底値と言われていましたし、友人のすすめもあって、思いきって新築を購入しました。“狭すぎる”という後悔した時期もあったんですが、今は満足しています」

とはいえマンション購入後、もっと広い住まいに引っ越したいと思ったことも。

「私は離婚して一人暮らしなのですが、母や息子たち、友人たちが遊びに来ることもあって、“人が泊まれる部屋”が欲しくなったんです。50歳を過ぎた頃にここを売って、同じマンション内の2LDKを購入しようかと考えたこともありました。

でも、そこでハッと“自分はぜいたくな考えをしてるんじゃないか”って気がつきました。息子たちも独立したら頻繁に泊まりにこないだろうし、母も足を悪くしていましたし、“この先だれが泊まりに来るんだろう”と考えて。使わない部屋をもっている意味はないし、それよりも今住んでいるこの部屋のことを好きになろうと思ったんです」

暮らしをリセットしてシニア住宅へ

70代で住み慣れた家を離れてサービスつき高齢者住宅(分譲)に移り住んだ、真藤眞榮さん。真藤さんは東京生まれの東京育ち。23区内の都心部にご実家がありました。結婚後も実家で暮らし、その後離婚。就職・子育て・家の建て替え・親の介護…と奮闘しました。

「元の家は母が亡くなったら売却することにしていましたし、子どもに老後の面倒をみてもらおうとも考えていません。さてどうするか…と思っていたところに、知り合いのおばあさまが住んでいたこの部屋が空いたと聞いて、老後の参考に見学させていただいたんです」

来てみると、周囲は緑がいっぱい。施設も充実しています。
「いつでも相談にのってくれるスタッフも常駐しているし、敷地内に病院もある。すぐに『ここ、私が買います!』って宣言しちゃった」

驚いたのは周囲の人たちです。都心のゆったりした家からコンパクトなマンションへの移転。しかも縁もゆかりもない土地なんですから。

「70代のうちなら、まだ体力もあります。こんなはずでは…と思っても、まだやり直しもできるでしょう。実際、引越ししてみてつくづく思いましたよ。『80になってからじゃ、到底無理だったわ』って(笑)」

共有スペースの廊下から玄関、内廊下から居室へと、すべてが段差のないバリアフリー設計のマンションは、とても住み心地がいいそう。

「大食堂があって、一日三食、栄養管理されたお食事をいただけるんですよ。もちろん、都合に合わせてキャンセルしてもいいの。食べた分だけ、毎月清算するしくみです」
そのため、部屋ではごく簡単な調理しかしません。
冷蔵庫やトースターは転居にあたって、小ぶりなものに買い替えました。

大好きな骨董品は厳選して持ってきました。お気に入りの小皿は見せる収納(アクリルケース)に納め、日々の食事で使っています。