日本人にもっとも知られている海外旅行地である「ハワイ」。ANAの井上社長はここをアフターコロナの海外旅行の鍵となる渡航先としています。ただ、コロナ禍でこの地の過ごし方にも変化があったようです。

日本人には金銭的“追い風”が多いものの

 日本人にもっとも知られている海外旅行地である「ハワイ」。2022年11月22日にハワイで行われた報道陣のインタビューに対し、ANA(全日空)の井上慎一社長は、海外旅行復活のカギとなる就航地を「ここ(ホノルル)でしょ!」と強調します。


ホノルルでインタビューに答えたANAの井上慎一社長(2022年11月、松 稔生撮影)。

「日本人に一番人気の海外旅行先でもありますし、年末年始のハワイ線の予約率は7割となっており、(コロナ前の)2019年とくらべて、6割までお客様の予約が回復しています。また、年末年始のピーク時は、ほぼ満席の予約を頂戴している状況です。ぜひ今のハワイを見ていただき、『やっぱりいいよね』と思っていただきたいですね」

 しかし、インタビュー実施日の11月18日から20日までのハワイは、以前と比較して日本人旅行者の姿はポツリポツリと見られるようになったものの、アメリカの祝日「感謝祭(サンクスギビング。11月24日)」を直前に控えていることもあってか、依然としてアメリカ本土からと見られる人の姿が多数を占めています。

 井上社長によると、ANAでは、SNSや媒体での発信を通じて、「ハワイでまたもう一回来ようと思っていただけるような仕掛けをしていこうと考えています」と話します。ただ一方で、現在も円安、そして燃料費を運賃に上乗せする「燃油サーチャージ」の高騰など、日本人旅行者への金銭的な“向かい風”が続いています。同氏は、比較的手頃な料金でハワイに行けるプランの展開も、「ホテルなどとコラボレーションしながらということになると思いますが、可能性としてはあるかもしれないですね」と話します。

 そのような現状のハワイですが、このコロナ禍でこの地にとある変化が起こっていると、井上社長は説明します。

「(コロナで)お客様が来なくなったなか、ハナウマベイ(眺望を強みとする自然保護区。海の綺麗さに定評がある)がよりキレイになったり、鳥が街の中でたくさんさえずるようになったり、花が『こんなに咲いてたっけ?』と思うほど咲いたり……と環境への良い変化があったとハワイの皆さんが認識されており、以前のような観光のあり方に対して疑問をもたれていると伺っています」

井上社長が掲げる「新たなハワイの過ごし方」

 ANA井上慎一社長はこれからのハワイ旅行は先述の変化点に沿った、リジェネラレルティブ・ツーリズム(再生可能ツーリズム)でなくてはならないと考えています」と話します。

「環境を保全するために観光客を増やすという取り組みではなく、ANAが1便飛ばすたびに街のどこかがキレイになるとか、街のなにかが再生されるようなツーリズムが求められるのではないかと思います。もちろんお客様がたくさん来るには越したことはないですが、環境に配慮のないツーリズムは、もう(現地の方に)受け入れられないのではないかと……。受け入れられるようにするために、先述したようなサイクルが求められるのではないかと思います。たくさん送客すればするほど、街がキレイに、再生されるのであれば、それはサスティナブルですよね」


ホノルルのホテル「シェラトン・ワイキキ」からみたワイキキビーチ(2022年11月、松 稔生撮影)。

 現在井上社長が思い浮かべているハワイ線の企画について聞くと、次のように話します。

ハワイにはツーリズムの種がいっぱいあります。たとえば通信講座の途中で挫折してしまった『ウクレレ難民』の方をハワイにお誘いできればなと思ったり、ホヌ、つまり『ウミガメ』の放流を体験したりですとかもいいですね。また、ハワイではクジラが来るシーズンに、ボランティアの方が来たクジラの頭数を数えるのですが、それを体験していただいたりするのもアリかもしれません。ほかにも、若い方を中心に精神的に傷められてしまった日本の方に対して、ハワイに来て癒やしていただき、もう一度『よし頑張るぞ!』と思っていただけるような場に出来ればなど、考えられる企画は枚挙にいとまがありません」

ハワイはみなさんの注目を大きく浴びます。そのことで今後、ハワイ以外の海外旅行の渡航先でも『ハワイでやったケースをここでもやりませんか?』といわれるケースもあるでしょうし、そういった意味では(今後ホノルル以外の海外旅行の就航地を発信していくうえで)、ハワイはショーケースになるんじゃないかなと予想しています」。井上社長はアフターコロナの就航地として、ハワイに注力する理由をこのように説明します。