「多くの高級ブランドの『ロゴのデザイン』も大幅に変化している」のに気づいていますか?(写真:Jason Alden/Bloomberg)

一部上場企業の社長・企業幹部、政治家など「トップエリートの話し方」を1000人以上変えてきた岡本純子氏。

たった2時間の指導で「棒読み・棒立ち」を「会場を総立ちにさせるほどの堂々とした話し方」に変える劇的な改善ぶりと実績で「伝説の家庭教師」と呼ばれている。

その岡本氏が、全メソッドを初公開し、15万部を超えるベストセラーとなった『世界最高の話し方』に続き、このたび『世界最高の雑談力――「人生最強の武器」を手に入れる! 「伝説の家庭教師」がこっそり教える一生、会話に困らない超簡単50のルール』を上梓し、発売3日で3万部を突破するなど、話題を呼んでいる。

コミュニケーション戦略研究家でもある岡本氏が「『世界から"色"が消えている』という衝撃事実の驚きの訳」について解説する。

「黒」「白」「グレー」が増えている?

気づかないうちに、皆さんの視界から「あるもの」が、少しずつ消えていっています。それは何でしょうか。


実は「色」なんです。最近のAI研究で、世界から「色」が消えつつあることがわかりました。

英国科学博物館が、1800年代から現在までの数千のアイテムを記録し、時間の経過とともに色の変化を追跡して行った調査によれば、200年前には、「多くの色」が存在し、「黒」や「白」「グレー系」の色は全アイテムの約15%にすぎませんでしたが、現代では、なんと約60%が「黒」「白」「グレー」だったというのです。

たとえば、自動車の場合、ある記事のポーランドのデータによれば、1995年には、「青」や「赤」「緑」など華やかな色の車が半数近くを占めていました。2010年代に入り、その割合は2割強まで減っています

そういえば、1980年代後半、私の弟が大学に入って初めて買った車も「赤」のスバル・アルシオーネ、私が昔、付き合っていた男性の車も「赤」のトヨタMR2、私が新聞社の新潟支局記者時代に乗り回していたのも「真っ赤」なスバル・ジャスティでした(懐かしい!)。

一般財団法人自動車検査登録情報協会の統計によると、2015年の国内の乗用車のうち、「赤い車」の比率はわずか4%、「青」が6%。一方で、「白」が47%、「グレー」が23%、「黒」が14%にのぼりました。この3色でなんと8割以上を占めるというわけです。

家やカーペットや家具、ファストフードの店頭などの色も「白」や「グレー」などが中心になってきています。

その要因のひとつが素材の変化です。かつての木材、布といったものから、「落ち着いた色」のプラスチックや金属が増えていることが挙げられます。

また、たとえば、家などを考えた時、将来売却を想定すると、「自分好みのカラフルな色使いのもの」や「個性的なもの」よりも、「汎用性の高いニュートラルな色調」のほうが売りやすいという要因もあるようです。

消費者の嗜好も多様化する中、10人が「素晴らしい」と思うより、1000人が「いい」というデザインや色のほうがリスクは少なくなるからです。

昨今は何を売るにも市場調査が行われますが、そうした調査のうえで、「最も幅広く受けるものを選ぶ傾向」はますます強くなっているといえるでしょう。

「企業ロゴ」も似たものが増えている

華やかさを削いだ、シンプルでミニマムなデザインは、企業ロゴの世界にも広がっています

ロゴのデザインを大幅に変えた高級ファッションブランドが少なくないのですが、結果的に多くのロゴが非常に似通ったものになってしまったことが話題になりました。

たとえば、イヴ・サンローラン。流麗な斜め細字のロゴが太字文字のものへ、バーバリーバレンシアガも細字から太字に変わりました。

すべてシンプルな大文字で黒字色が強くなり、結果的にどれも非常に似通って見えます。つまり、個性がなくなっているのです。

この傾向は2017〜2018年頃に増加したと言われます。多くの有名ファッション企業が、これまでの「個性的でクラシカルなロゴ」を捨て、当たり障りのない、非常によく似た「サンセリフフォント」に切り替えました。

「サンセリフ」とは、ハネや飾りのようなもののないシンプルな角ばった字体です。非常に視認性が高く、読みやすいという特徴があるため、小さなモバイル上でもよく見えるというメリットがあります。

日本のフォントでいえば、「明朝体」が「ゴシック」へと変化したようなイメージでしょうか。

こうした「ロゴデザインの変化」はテック企業でも相次いでおり、グーグル、マイクロソフト、エアビーアンドビー、フェイスブック、スポティファイなどが次々と「個性的な文字」から「似たようなシンプルな文字」に変更しています。

日本の企業でも、たとえば、バンダイナムコが、今年4月、赤と黄色の背景色をなくし、吹き出しにシンプルな文字だけのロゴに変更しました。日産も2020年にシンプルなデザインへと変更。「『立体感のあるデザイン』から『平面的なデザイン』へ」というのもトレンドになっています。

ロゴの色も、たとえば、昔のアップルのロゴはカラフルな虹色のリンゴでしたが、今はシンプルなシルバーですよね。インスタグラムも、かつてはカメラの絵でしたが、赤みのある単色系のデザインに変わりました。

「情報」を絞り込むほど「メインのメッセージ」は届く

こうした傾向の裏にあるのは、情報過多の時代に、より多くの人の目に留まるように「装飾性」より「視認性」を重視する傾向です。

コミュニケーションも同様で、「情報」を絞り込めば絞り込むほど、「メインのメッセージ」は届きやすくなります

というわけで、私の『世界最高の話し方』『世界最高の雑談力』も、表紙のデザインを一新して、一部書店で売り出しました

前のデザインは青地にイラストやカラフルなデザイン、かなり多めの文字量でしたが、新しいものは、白地に金もしくは赤、そして、タイトルと著者名だけという究極的にシンプルなデザインです(外部配信先では画像を閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。


左が発売時のカバー、右が新カバー。「カラフル+文字多め」から「情報と色」を絞り込み「メインメッセージ」が届くデザインに変化させている。出版界でも「白いカバー」が増えている。


同じく左が発売時、右が新カバー。「色」や「文字量」だけでなく、「書体」も「視認性が高く、読みやすいもの」が好まれ、「イヴ・サンローラン」や「バーバリ」など世界の高級ブランドのロゴも、同じく「似たようなシンプルな文字」に変化している。

以前のカバーの上に、カバー全体を覆うような新しい帯をもう1枚つけた格好ですが、カラフルとシンプル、どちらが目に留まりやすいのか

ぜひ、皆さんにもお手にとっていただき、感想をお聞かせいただけましたら幸いです。

(岡本 純子 : コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師)