警視庁が自転車の取り締まりを強化、その先に来るのはA案かB案か!

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「自転車の悪質違反、取り締まり強化 減らぬ事故に「赤切符」―警視庁」と10月22日、時事通信が報じた。以下はその一部だ。

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 自転車の交通事故が後を絶たないことを受け、警視庁は10月末から悪質な違反に対する取り締まりを強化する。交通切符(赤切符)も積極的に交付し、事故の抑制につなげる。
 重点的に取り締まるのは、重大事故につながりやすい「信号無視」「一時不停止」「右側通行」「徐行せずに歩道通行」の4項目の違反。自転車事故が多発したり、苦情が多く寄せられたりする地域を中心に対策を強める方針で、9月中旬、各警察署に通達を出した。
 同庁はこれまでも危険性の高い違反を取り締まってきたが、今後は比較的軽微で警告にとどめていたものにも積極的に赤切符を交付する。

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自転車違反の取り締まりを強化する、警告から赤切符へ、このネタは1週間ほど前にも多くのTV新聞が報じた。警視庁(いわば東京都警察本部)はよっぽど本気と思われる。

私が見た報道はすべて、一番重要なことが見事に欠けている。「4項目の違反」のうち、これまで警告にとどめていたものを、たとえ1割でも取り締まったらどうなるか。もう大変なことになる、そこがスルーなのだ。どう大変か、簡単に説明しよう。

2021年の自転車違反について、都道府県別、違反別の「検挙」つまり取り締まり件数の一覧表と、「指導警告票交付数」(以下、警告)の一覧表が手元にある。警察庁(いわば全国警察の総元締め)に開示請求してゲットしたものだ。

双方の一覧表は、違反の項目がぜんぶは一致しない。が、4つの違反のうち「信号無視」と「一時不停止」は、双方に件数が載っている。警視庁の2021年の検挙と警告の件数はこうだ。

信号無視  検挙=2285件 警告=2万4227件
一時不停止 検挙=323件   警告=2万0896件

桁が違う。信号無視の警告の1割が検挙に転じたら、検挙の合計は約4708件。2倍以上になる。一時不停止の警告の1割が転じたら、検挙の合計は約2413件。約7.5倍だよ。

警告と検挙では、警察官の手間がまったく違う。警告は警告カードに必要事項を記入して違反者に渡し、控えを持ち帰って署に提出すれば終わる。ところが検挙のほうは、超めんどくさい。「赤切符」は簡易な共用書式とはいえ、記入すべき事項が警告カードよりずっと多いからだ。

しかも赤切符には、違反者に署名押印させる欄がある。違反者が「みんな違反してるのに、なんで俺だけ取り締まるんだ」とか文句を言って署名押印を拒んだら大変。否認事件の扱いになり、作成すべき書類がどっと増えるらしい。

それだけじゃすまない。検挙のあと、警察は事件を検察に送致する。ちなみに検察は、自転車違反のほぼすべてを不起訴にしているようだ。たまに起訴すると「自転車の違反に罰金刑」「当県で初めて」などと報道される。不起訴でも、検察は手間がかかる。書類を整え、上司の決裁を得なければならない。場合によっては違反者を呼び出して取り調べる。検察からすればこうだろう。

「自転車違反はどうせ不起訴と、警視庁も分かってるだろ。なのになんで大量に送致するんだ。検察の負担をなんだと思ってる。ふざけんな!」

現場の警察官だって、どうせ不起訴なのに検察送致の書類を作成させられるのは、ばかばしいはず。にもかかわらず警視庁は、記者クラブメディアを通じて全国に宣伝してまで、自転車違反の取り締まりを増やす。なぜ? 答えはひとつしかない。しばらくしたらこう言いだすのだ。

「取り締まり強化で自転車事故は減りました。しかしまだまだ自転車の危険な違反、迷惑運転はあとを絶ちません。そして、じつはですね、現在の法律ですと車やバイクの違反は反則金つまり軽い行政罰ですみますが、自転車違反のペナルティは罰金刑、刑法に規定された刑事罰なのです。前科になります。当然に手続きは厳格であり、警察、検察、裁判所の負担には大きいものがあります。そこで…」