「中古」のタワーマンションリフォームやリノベーションについて注意したいこと(写真:Q'ju Creative/PIXTA)

眺望がよく、便利な立地に建てられるケースも多いタワーマンション。一帯のランドマークのような存在でもあり、ある種のステータスを有する住まいとして憧れを持つ人は多いだろう。

とはいえ、都心を中心に新築マンション価格が高値で推移し、物件数が減少傾向にある。そこで手の届かない新築物件ではなく、比較的リーズナブルな「中古」でタワーマンションを検討する人も増えている。

中古のマンションを購入した後、ライフスタイルに適したリフォームやリノベーションを施し、自分好みの住まいを手に入れるというわけだ。また中古物件にリフォームやリノベーション工事が施されている「リノベーション済み物件」も販売されている。

前のオーナーが住居に手を入れていた中古物件や、不動産業者が中古物件を購入しリフォームやリノベーションを施して販売する「買取再販」のケースが該当する。

さまざまな背景から人気を集める中古マンションのリフォームやリノベーション。その一方で、思いも寄らないトラブルにつながるケースも少なくないことをご存じだろうか。まずは当社に寄せられた具体的なトラブル事例から詳しく見ていこう。

騒音から事故につながるリスクまで

【CASE:1】間取り変更で火災報知器やスプリンクラー設備など未警戒区域が!

在宅勤務が普及し、住まいを間仕切りで区切り、ワークスペースを増設したいという相談は少なくない。既存の空間に間仕切りを設けて楽器の演奏室やオーディオルーム、シアタールームなど趣味の空間を作りたいというニーズも同様だ。

しかし間仕切りでスペースを新設した場合、火災報知器やスプリンクラーなどを増設しなければ、未警戒のスペースができてしまう可能性がある。未警戒とは、火災への対策がなされていないことを意味する。

相談を受けた事例では、消防設備点検により指摘・報告されて発覚した。消防設備に関する不備は、大事故につながるリスクがあるため注意が必要だ。タワーマンションで間仕切りを増やす場合、あらかじめ消防署に相談しアドバイスをあおぐことを推奨したい。

【CASE:2】理事会に工事申請をし、床材を変えたところ騒音トラブルに発展

マンションのリフォーム・リノベーション工事を行う際、マンションの管理規約によるルールにのっとる必要がある。具体的な内容は後ほどお伝えするが、事前に工事申請をしたうえで、管理組合の許可を得なければならないのだ。

床材の施工では工法もさまざまあり、遮音性能が不明な場合は使用が制限されるケースがある。床材の遮音性能とは室内で発生する生活音などの影響をどの程度遮れるのかを表すもので、騒音のトラブルにも大きく関わってくる部分だ。

さらに工法だけでなく、床材にも防音性能を表す遮音等級が設けられている。遮音等級とは床への衝撃音をどれくらい防ぐことができるのかを示す値(L値)で示され、その値ごとに適用等級が異なる。L値が小さいほど防音効果が高いとされ、遮音等級が何等級〜でなければ用いることができないという制限があることが多い。

今回の事例では、遮音性能が明確に示されていない大理石を使用する申請が提出され、理事会(管理組合)でも承認されていたが、施工を行ったところ、案の定騒音トラブルが発生する結果を生んだ。その後、騒音対策を施す改修工事を行う結果になった事例だ。床材などの知識を持つ建築士が工事内容をチェックしていれば、トラブルとならなかった可能性がある。

大型テレビを壁掛けしようとしたら

【CASE:3】戸境壁を加工したらテレビの音で苦情が…

3つめの事例は、大型テレビを壁掛け型で設置するため、リビングの戸境壁(こざかいかべ)を加工したところ、隣室から「テレビの音がすごく伝わってくる」と苦情を受けたというもの。

戸境壁とは、マンションなど共同住宅の各住戸の間を区切る壁で、基本的には加工は禁止されている。とくにタワーマンションの場合、建物全体を軽量化する目的で戸境壁に乾式パネルを用いるのが一般的だ。

本来であれば理事会で戸境壁を加工する工事が承認されることは考えにくいのだが、見落としなど何らかの要因があって工事が承認されたのではないかと推察される。

【CASE:4】カーテンや絨毯に関する確認項目がないために起きるトラブル

タワーマンションなどの超高層物件では、一般のマンションとは異なる注意事項がある。例えば火災が発生した場合、その高さから避難に時間がかかるため、大きな被害へとつながるリスクがある。そのため、高さが31メートルを超える(地上11階建て以上)のマンションでは、防炎性能を持つ製品の使用が消防法で義務づけられている。

しかしリフォーム工事の申請書に防炎性能についての確認項目がなければ、該当製品ではないものを使用してしまう可能性も考えられる。タワーマンションでありながら、防炎性能について記載がない申請書を利用するケースは少なくない。あらためて確認が必要になるだろう。

【CASE:5】リノベーション済み物件に入居後の苦情に困惑

これまでの4例とは異なり、すでにリノベーションされた物件を購入し、トラブルとなったのが5つめのケースとなる。入居者自らが施工を希望したわけではないのに、階下の複数の住人から騒音苦情が相次いだのだ。騒音の理由は、新しく取り付けたドアの建具が原因だった。リノベーションの際に重量のある建具を取り付けたため、階下に重い音が響くようになったのだという。

買い主が売り主の不動産会社に相談したところ、「工事申請して承諾済みだから」との理由でこれといった対応もしてもらえないとのこと。買い主(入居者)が困惑の表情を浮かべていたのが印象に残っている。

リノベーション済みの物件を購入する際は、入居後にリノベーションが原因でトラブルがあった際、売り主の対応についての記載があるかどうかを確認しておきたい。契約書や重要事項説明書に記載されている内容次第で、交渉もスムーズになる可能性がある。

専有部分でも勝手なリフォーム・リノベはできない

そもそもマンションは専有部であっても、勝手にリフォーム・リノベーションを施すことはできない点は【CASE:2】でもお伝えしたとおりだ。マンションの管理規約によって適宜ルールが決められており、分譲マンションなどの管理規約のモデルとなる国土交通省の『マンション標準管理規約』では、専有部分について第17条−1で次のように定めている。

第17条 区分所有者は、その専有部分について、修繕、模様替え又は建物に定着する物件の取付け若しくは取替え(以下「修繕等」という。)であって共用部分又は他の専有部分に影響を与えるおそれのあるものを行おうとするときは、あらかじめ、理事長(第35条に定める理事長をいう。以下同じ。)にその旨を申請し、書面による承認を受けなければならない。

これはタワーマンションに限った話ではない。ほとんどのマンションで個人(区分所有者)は、主に住居となる専有部分であってもあらかじめ理事長にその旨を申請し書面による承認を得なければならないと決められている。またマンション住人全体の共有物である共用部分に関しては、個人が勝手にリフォームすることは許可されていない。

さらに細かいルールを定めた使用細則により、工事に制限が設けられている。【CASE:2】で紹介した床工法や床材の性能のほか、窓ガラス(色やデザイン、防火性能)などについて制限されている。

またサッシ(窓枠)に関しては、現時点でタワーマンションにおける交換は特殊な事情の場合を除いては、制限される部分はマンションごとにケースバイケースの箇所と言える。一般的なリフォーム工事の流れ、申請書については以下となる。

リフォーム工事フローの例


リフォーム工事フローの例(筆者作成)

■工事申請の例


(出所:国土交通省、「マンション標準管理規約(単棟型)コメント」)

申請時期の確認は必須!

実際にリフォーム・リノベーションを希望し、工事を申請したいと考えたとき、まずは工事の範囲や内容を決定して申請書を提出する。申請する時期は管理組合ごとに異なるものの、工事着手希望日の1カ月程度前〜が多くなっている。

申請の時期を確認しておかないと、希望日に入居できない可能性が出てくるため注意したい。またごく簡単な工事であれば、届け出をすれば承認までは不要な場合もある。届けだけでOKな工事なのか、承認が必要なのかについても細かくチェックしてくことが重要だ。

工事の承認を行うのは、区分所有者の代表で構成された理事会(修繕委員会)となる。理事会の審査を経て、最終的には理事長が工事を承認する。ただ、あくまで区分所有者の代表である理事会は、建築の専門家ではない。専有部分の改修工事に関する特別な知識がないため、見落としや認識違いといったミスが生じかねない。

また、理事会の運営は多忙な日常の合間を縫って行われる。限られた時間の中で審査を行うことになる。実質的に審査そのものが行われていない、チェック体制が機能してないあくまで「形式的な」工事審査にすぎない状態となる。さらにマンション管理を専業とする管理会社が、リフォーム工事について理事会をサポートするケースも少ない。

これらの要因が、タワーマンションリフォームの工事に関するトラブルを増やす結果につながってしまう。ただ、形式的であっても工事を承認しているのは理事会だ。トラブルが発生した場合、理事会が法的責任を追及されるリスクは否定できない。

無用なトラブルを回避するためには区分所有者(入居者)、管理組合それぞれが対策を講じる必要がある。

急がば回れの心構えで準備を

まず、入居者がリフォーム工事を希望するときには、タワーマンションリフォーム、リノベーションに実績のある施工会社を選ぶことを優先したい。例えば【CASE:3】の戸境壁の事例のように、タワーマンションに詳しい施工会社ならば考えられないような工事をする可能性はなくなるだろう。

さらに理事会、理事長の承認に加え、上下左右の住戸の承諾を必要とするマンションもある。工事の申請を行う場合、計画的な工事スケジュールを立て、余裕を持って申請を行ってほしい。

マンションの管理組合としては、どんな対策を取るべきだろうか。国交省は『マンション標準管理規約 第17条』のコメントにおいて、以下のように記している。

承認を行うに当たっては、専門的な判断が必要となる場合も考えられることから、専門的知識を有する者(建築士、建築設備の専門家等)の意見を聴く等により専門家の協力を得ることを考慮する。
特に、フローリング工事の場合には、構造、工事の仕様、材料等により 影響が異なるので、専門家への確認が必要である。

リフォーム工事の申請内容について、建築士などマンションの管理や修繕などに関する専門知識を有する専門家に助言を求めるのも一案だ。最初から審査の代行を依頼する方法もある。さらに複雑な工事の場合、管理組合が中間検査、完了検査などを専門家に依頼するなどの選択肢もある。

ある種遠回りのように見えるかもしれないが、最終的なトラブルを回避するためには「急がば回れ」の心構えで準備をしておきたい。

(長嶋 修 : 不動産コンサルタント(さくら事務所 会長))